2022年10月号|特集 70年代女性SSW

【前編】五輪真弓スペシャル・インタビュー ~ 70年代から現在までの50年を語る

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インタビュー

2022.10.21

インタビュー・文/長井英治


1972年10月21日にデビューしてから50周年を迎えた五輪真弓。日本の女性シンガーソングライターの草分けとして、そして当時では珍しい海外レコーディングを敢行した画期的なアーティストとしても稀有な存在だ。ここでは70年代を中心に、唯一無二の音楽制作にまつわる貴重なエピソードを語ってもらった。

『少女』は私の原点なので、聴くと必ず初心に還ることができる


──五輪真弓さんは今年デビュー50周年を迎えられますが、50年の集大成でもある4枚組ベスト・アルバム『Mayumi Itsuwa Premium Best -HISTORY-』が10月21日にリリースになりますね。

五輪真弓 これまでにもベスト・アルバムはリリースされていますが、今回はフランス語で歌った曲や、NHK「みんなのうた」のために書き下ろした「星の子供たち」が初めてCD化されて収録されています。ちょうど50周年目のデビュー日にリリースさせていただくことも感慨深く思います。

──デビュー当時のことは、よく憶えていらっしゃいますか?

五輪真弓 70年代は海外に行く機会も多くて、かなり刺激的な体験をしました。CBSソニーの中に自分の専用レーベル「UMI」を作っていただき、デビュー・アルバムの『少女』(’72年)は海外の有名なミュージシャンに参加してもらって制作をしたので、割と大々的なデビューだったと記憶しています。


五輪真弓
『少女』

1972年10月21日発売


──デビュー・アルバム『少女』のヒットで、“五輪真弓”の名前がバンっと世の中に出てしまった感じですか。

五輪真弓 私はわりと地味な性格なので、ためらいのようなものはありました。外を歩いていて、いきなり知らない人に声をかけられて困惑したり(笑)。自分の書く曲は、決してポピュラリティがあるものとは思わないんですが、そこそこ売れたと思います。

──デビュー・アルバム『少女』はLAのクリスタル・サウンド・スタジオでジョン・フィッシュバックのプロデュースにより約40日かけて制作されましたが、初のLA体験はカルチャーショックでしたか?

五輪真弓 やはりアメリカのミュージシャンのパワフルさに驚きましたね。レコーディングには木田高介さんに同行してもらい、制作コーディネートをしてくださったのでとても助かりました。レコーディングの最中にミュージシャンのみなさんが「あなたはどう思うの?」と、私の意見をとても尊重してくれたことがとても印象に残っています。

──LAで1カ月以上生活しながらレコーディングをするわけじゃないですか? ホームシックにかかったり、アメリカの生活に戸惑ったりする側面はありましたか?

五輪真弓 言葉が簡単に通じないので、コミュニケーションをとるのに苦労はしました。LAではみなさん結構オープンなので、自分がもっと自由に話せていたらまた違う仕上がりになっていたかもしれません。ハンバーガーが美味しかったんですけど、とにかくサイズが大きくてまさにアメリカンサイズでした(笑)。

──キャロル・キングがアルバム収録曲の「少女」と「はと」にピアノで参加したことが当時話題になったと思いますが、彼女とのセッションはいかがでしたか?

五輪真弓 私の表現したい世界観を理解するために、彼女はすごく努力してくれたと思います。仕上がりとしてはなかなか良かったのではないかと思います。

──ローレン・ニューカークやチャールズ・ラーキーといった他の一流ミュージシャンの方たちも気さくな感じで参加してくださったんですか?

五輪真弓 そうですね、みなさんとても気さくな方たちでした。最初は、私のことを珍しそうに見ていましたけれど(笑)。

──改めて『少女』という作品に関して、五輪さんの想いのようなものを教えていただけますか?

五輪真弓 『少女』は私の原点なので、聴くと必ず初心に還ることができます。


八王子の山の中の家で一緒に生活しながらレコーディングをした


──セカンド・アルバムの『風のない世界』(’73年)も、『少女』とほぼ同じミュージシャンでLAレコーディングされていますが、このアルバムからは「煙草のけむり」というヒット曲も生まれていますね。

五輪真弓 「煙草のけむり」のレコーディングはミュージシャン全員と「せーの!」での、一発録音でした。リズムも面白い曲だったので、多くの方に聴いていただけたのだと思います。


五輪真弓
『風のない世界』

1973年7月1日発売


──サード・アルバムの『時をみつめて』(‘74年)は、ダニー・コーチマー、リーランド・スクラー、クレイグ・ダーギー、ラス・カンケルという伝説のバンド、ザ・セクションのメンバーやラリー・カールトンとセッションしてレコーディングされていますが、何かエピソードはありますか?

五輪真弓 このアルバムは『風のない世界』でピアノを弾いてくれていていたローレン・ニューカークが全曲のアレンジを手がけるはずだったんですが、都合により参加できなくなってしまったので、結局、「せーの!」で収録することになりました。キーボードのクレイグ・ダーギーが進行役に立ってくれて、完成したアルバムです。


五輪真弓
『時をみつめて』

1974年7月21日発売


──4枚目のアルバム『Mayumity -うつろな愛-』(’75年)ですが、鈴木茂さんや細野晴臣さんが参加して、八王子の山中でレコーディングされたアルバムでしたよね。

五輪真弓 私のスタッフに勧められて八王子の山の中にある家を買ったのですが、だったらアルバムを制作しようということになり、エンジニアの吉野金次さん達と一緒に生活しながらレコーディングをしました。プレハブのコンパクトな家だったので音漏れがすごくて近所から苦情が来てしまい、それを説得するのが大変した(笑)。結局、近所の方に実際にレコーディングを見てもらって音を聴いてもらい、理解してもらうことにしたんです。最終的にはとてもフレンドリーに接してくれるようになりました。


五輪真弓
『Mayumity -うつろな愛-』

1975年10月21日発売


──このアルバムに収録されている名曲「ジャングルジム」には自然の効果音が収録されていますが、八王子の山中の音ですよね?

五輪真弓 はい、そういう録音は吉野金次さんが上手でしたから。アルバムのタイトルは、私がお茶を入れるたびに吉野さんが「マユミティーだ! マユミティーだ!」と言っていたところからつけられたタイトルです。誰かがポツっと言った言葉がタイトルになったりするんですよ。

【後編】へ続く)



五輪真弓(いつわ・まゆみ)
●1971年、邦楽に進出したCBS・ソニー。翌年の1972年、異例のCBS・ソニー内に個人レーベル「UMI」を設立し、鮮烈なデビューを飾った五輪真弓。CBS・ソニーが設立された1971年同年に、デビューに向けたプロジェクトがスタート。アメリカのLAで2カ月にわたるレコーディングを開始。そのレコーディングにはキャロル・キング、チャールズ・ラーキー、デヴィッド・キャンベルなどアメリカを代表する錚々たるアーティストが参加。いまでこそ珍しくない海外レコーディングを成功させた日本人アーティストの先駆者であり、設立当初のCBS・ソニーが満を持して日本の邦楽界に切り込み、社をあげてどれほど五輪真弓のデビューを重視していたかがうかがい知れる。そこから50年、45枚のシングル、53枚のアルバム(ベスト盤・ライブ盤含む)を発表し、まさにソニーミュージックとともに歩みソニーミュージックを代表するアーティストとして今もなお活動中で、所属する日本人シンガーソングライターとしては最も長い在籍歴となる。



●五輪真弓が作り上げてきた50年の軌跡をまとめた究極のベストアルバム
五輪真弓『Mayumi Itsuwa Premium best -HISTORY-』

2022年10月21日発売

¥5,500(税込)/MHCL-30750~30753
CD4枚組・全73曲収録

『Mayumi Itsuwa Premium best -HISTORY-』
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