2022年8月号|特集 郷ひろみと音楽

第1回|郷ひろみの50年~スペシャル・ロング・インタビュー~

インタビュー

2022.8.1

インタビュー・文/大谷隆之


1972年8月1日にシングル「男の子女の子」でデビューして50年。アイドル、ヴォーカリスト、パフォーマーとして唯一無二の存在感を保ち続けてきた郷ひろみ。50周年を迎えるにあたって、8月3日には108枚目のニューシングル「ジャンケンポンGO!!」と、ライヴアルバム『Hiromi Go 50th Anniversary Celebration Tour 2022〜Keep Singing〜』が同時にリリースされる。「otonano」編集部では、現在、アニヴァーサリーツアー真っただ中の郷ひろみに独占インタビューを敢行。この50年における音楽との向き合い方、そしてこれからの生き方についてじっくりと語ってもらった。

さすがにシンドイ、別のプランを考えようよ、とは死んでも言いたくない


──現在行われているコンサートツアー「Hiromi Go 50th Anniversary Celebration Tour 2022〜Keep Singing〜」の横須賀公演(7月3日)、圧巻の内容でしたね。

郷ひろみ あ、ご覧いただけたんですか!

──はい。超アゲアゲなヒット曲からバラード、アイドル歌謡ど真ん中のポップスまで、半世紀に及ぶキャリアを凝縮したような濃密な2時間で。歌、ダンス、演奏、舞台演出のアンサンブルも素晴らしかったです。過去をリスペクトしつつ、懐古ムードには陥らない。コンサート全体が現在進行形のエンタテインメントとして確実にアップデートされているという事実に、何より感動しました。

郷ひろみ ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。

──セットリストはどのように決めておられるんですか?

郷ひろみ アレンジャーも含めた演出サイドがまず仮のプランを作ってくれ、それを僕がチェックするという流れが基本です。やっぱり自分としては、常に新鮮なライヴを見せたいというチャレンジ精神があって、「このヒット曲より、しばらく演ってないこれにしない?」と変更を提案することもあるし、逆にスタッフ側が「郷だったらこれぐらいやるだろう」、とめちゃくちゃ高いハードルをしれっと投げてくることも多い(笑)。いつもせめぎ合いです。あと大事にしているのは、自分なりのストーリー性かな。

──今回の公演でも、それは強く感じました。“ザ・ヒロミゴー”と言いたくなるようなアゲアゲパートの直後に、郷さん自身が「歌謡曲との折り合いに思い悩んでいた」と話す80年代半ばのシリアスな楽曲を続けて披露してみたり。

郷ひろみ そうですね。振り返ってみると本当に山あり谷ありで(笑)。そんな起伏もぜんぶ引っくるめて、お客さんに50年という時間を感じてもらえればいいのなと。その気持ちは、僕もスタッフも同じなんですよね。むしろ重要なのは、確固としたコンセンサスを保ちつつ、細かいブラッシュアップを粘り強く重ねていくことだと思います。今回の50周年ツアーもそう。さすがに現段階で演出の骨格そのものを変えることはないけれど、コーナーごとのマイナーチェンジはたぶん、全日程が終了する11月までずっと続くと思うので。

──ご著書『黄金の60代』(幻冬舎)を読むと、郷さんはツアー開始の1か月ほど前から、バンドメンバーと本格的なサウンドリハーサルに入られるんですね。で、10日ほど前には巨大なスタジオを借りて、本番と同じセットを組み、照明・映像・レーザー光線などもすべて連動させたテクニカルリハーサルを繰り返す。それでもなお、微調整は終わらないんですか?


郷ひろみ
『黄金の60代』(幻冬舎刊)

2020年6月25日発売



郷ひろみ 以前ね、ある楽曲のライヴアレンジがどうしても気になったんですよ。それでバンドリーダーに、「あそこの1小節、やっぱり必要ないと思うから変えよう」と提案した。そしたらリーダーに、「ひろみさん、明日千秋楽なんですが」と言われた、という話があるんですが。

──おお…。ファイナル前日だったんですね。アレンジは変えたんですか?

郷ひろみ ええ、もちろん(笑)。スタッフ間では語り草になっているみたいですけど。でも僕にとっては、残り1回だろうが何だろうが関係ないんですよ。もちろんテクニカルリハーサルを終えた時点で、自分にもスタッフにも限りなく100点に近い完成度は求めています。だからといって納得できないものは納得できないし。変えるべきところは迷わず変える。そこは一切妥協せず、最高のショーを見せたいんです。

──今回は、オープニングのインパクトも鮮烈でした。「2億4千万の瞳 -エキゾチック・ジャパン-」(’84年)、「セクシー・ユー」(’80年)、「お嫁サンバ」(’81年)、「GOLDFINGER ’99」(’99年)という大ヒット曲のノンストップ4連発。観客のどよめきと鳴り止まない拍手が耳に残っています。普通なら本編ラスト〜アンコールに持ってきそうな曲ですが。

郷ひろみ セットリスト案を見て、たぶん僕が一番びっくりしましたよ(笑)。ハードな曲がこれでもかっていうくらい続くでしょう。実際、ステージ上で「まだ終わんないのか、これ!?」って思うことありますから。まあできるだけ、次の曲のことは考えないようにしてね。


郷ひろみ
「2億4千万の瞳 -エキゾチック・ジャパン- / 抱きあえば」

1984年2月25日発売


──いわば一曲入魂ですね。年齢など関係なく、どこまでも郷ひろみであり続けるという、エンターテイナーとしての矜持を受け取ったファンも多かった気がします。

郷ひろみ というか負けず嫌いなんでしょうね。たしかに僕は60代で人生のゴールデン・エイジを迎えられるように、かなり前から生活を根本的に整え、いろいろな準備を重ねてきました。でも、それはあくまで自分との向き合い方であって。人からどう見られるかは、ほとんど気にならないんです。ただ、例えば制作スタッフが、「ひろみさん、今回のツアー、冒頭はこの4曲でいきましょう!」ってセットリスト案を持ってきてくれた際、「いやぁ、それはさすがにシンドイ。別のプランを考えようよ」とは死んでも言いたくない(笑)。譲れないプライドがあるとしたら、たぶんそっちですよね。

──ファンの目にどう映るかよりも、ご自分が納得できるかどうか?

郷ひろみ うーん。もちろん、想像をはるかに超えたショーでお客さまに喜んでもらいたい、というモチベーションはすごく大きいですよ。でも根本はやっぱり、自分自身に向けたプライドじゃないかな。おそらく演出サイドもこの性格を熟知していて。うまく運ばれている部分もある気がします。「ひろみさんのことだから、絶対NOとは言わないでしょ。今回はこれで押し切っちゃおうよ!」、みたいな感じでね。じゃないと体力が限界を迎えた本編のラストに、わざわざ「男願Groove」(’09年)を入れるはずがないと思いますが(笑)。



時代の空気を呼吸しながらも、本質は決してブレさせない


──楽曲のアレンジも、ツアーごとに変えておられますね。アレンジャーから上がってきた音源を郷さんがチェックし、場合によっては何度もやり直すと伺いました。ライヴ編曲について大事にしていることは何ですか?

郷ひろみ 感覚的なものなので、言葉にするのは難しいんですが、常に意識しているのは、「やりすぎず、やらなさすぎず」ということ。例えば今回のツアーだと、セットリストの半分以上は昭和の曲なんですね。デビュー曲の「男の子女の子」(’72年)は僕が16歳、「よろしく哀愁」(’74年)は18歳のときから歌っている。そういう時代の空気とか匂いが染み付いた曲を無理に今っぽくアレンジしても、どこか無理がある、というか聴いていて気恥ずかしい感じがするんですよ。特に音楽的な知識がない人にも、そこはすぐに伝わる。じゃあオリジナルに忠実なアレンジがいいかというと、それも違って。手を加えなければ、それはそれで懐メロに聴こえてしまう。それこそ血の通ったポップスなり歌謡曲をお客さんに提供するには、どこかに新しい要素を採り入れることがすごく大事なんです。その微妙なラインを探る作業が、今の郷ひろみには課せられているんじゃないかなと。

──微妙な匙加減なんですね。その度合いは、曲によっても異なるわけですか?

郷ひろみ まさにそうです。同じ昭和歌謡でも「男の子女の子」と「哀愁のカサブランカ」(’82年)では当然アプローチは変わるし。もっと言えば同じ「哀愁のカサブランカ」でも、10年前と今年では、やっぱり違った仕上がりになるはずです。


郷ひろみ
「哀愁のカサブランカ / マイ・コレクション」

1982年7月17日発売


──今回のツアーでいうと、例えば「よろしく哀愁」はアコーディオン演奏を採り入れたヨーロッパ映画音楽のような雰囲気。「哀愁のカサブランカ」はアコースティック主体のジャジーな仕上がりで、ぐっと大人っぽくなりました。一方冒頭の「セクシー・ユー」や「お嫁サンバ」は、よりオリジナルの雰囲気を保っています。でも、じっくり聴き込むとホーンアレンジや細かいリズム解釈が細かくアップデートされていて。今の郷さんに一番フィットする形に進化している。音楽好きにはその細やかさもグッときました。

郷ひろみ ありがとうございます(笑)。それに関しては、バンドメンバーの力量も大きいですね。みんなプレイヤーとしての水準がそもそも高いし。演奏テクニックはもちろん、音色についてもこだわりがあって。1曲1曲、すべて違うサウンドを奏でてくれています。例えば1回のステージで20曲演奏するとして、音の色調を毎回細かく変えるというのは、これはなかなか大変なことなんですよ。リハーサルを何度も重ねながら、曲全体のハーモニーを作っていかなきゃいけない。足し算引き算の繰り返しで、時間も手間もすごくかかります。でも、だからこそサウンドに幅と奥行きが生まれるし。楽曲ごと最適なラインを探れるというのは、確実にあると思いますね。

──正しいジャッジをするために、日頃から心がけていることってありますか?

郷ひろみ これはもう、今をちゃんと生きるってことぐらいしかないですね。あるいは、心の柔軟性を保つと言ってもいいかもしれない。

──どういうことでしょう?

郷ひろみ 何でしょうね…。まあ、強いていえば、好奇心を持って日々の暮らしを送っていれば、いろんなコトやモノが自然と入ってくるじゃないですか。僕の場合なら、きちんとトレーニングをこなし、心身をいいコンディションに保ちながら、メディアから流れてくる音楽に耳を傾けたり、映画館や美術展に出かけたり、新しいファッションをチェックしたりする。そうすると、どこか皮膚感覚の部分で、今のリスナーが求めている気分や温度感が見えてくると思うんですよ。それが身体の中にあれば、「このアレンジはちょっとトゥーマッチ」や「こちらはコンサバすぎ」という判断が自然に出てくるように思えるんです。

──それって、最新のトレンドを無理やり採り入れることとは違いますよね。むしろその空気感を肌で知っているかどうかが大事なんだと。

郷ひろみ おっしゃるとおりです。少なくとも僕はそのタイプですね。だから、意外に思われるかもしれませんが、僕は時代や年齢に合わせて歌い方を変えようと思ったことは基本的にないんですよ。無理に変えようとしなくても、アレンジやテンポ設定が変われば歌い方は自然と変わりますから。あくまで楽曲ありき、なんですね。

──ちなみに最近、心に響いた音楽は何かありますか?

郷ひろみ BTSなんかは、「なるほどな、かっこいいな」と思いながらよく聴いていましたよ。アジア発の音楽がアメリカのミュージック・シーンをリードするなんて、それこそ昭和の時代にはありえなかった現象なので。根底にはインターネットの普及があるんでしょうが、面白いなって思います。まあ、あくまで「何となく」のレベルですけど。実はそれが一番大事だとわかっているので。

──なるほど。そこを取り違えてはいけない。

郷ひろみ 何よりも大事なのは、郷ひろみを見失わないこと。50年のキャリアの中では、何度か見失った時期もありましたからね(笑)。時代の空気を呼吸しながらも、最後にはきっちり自分の楽曲、自分の身体、自分の声に戻っていく。本質は決してブレさせない。それが重要なんだと、ここ最近はずっと思っています。

【Part2】へ続く)

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