連載|私が欲しいレコード

第25回【毛塚了一郎】 漫画家

2022.7.8

第25回【毛塚了一郎】 漫画家

「このジャケ、写真の粗さがカッコいいな」「これは知っている、有名なヤツだ」「あっこれ前も見たな」
そんなところから僕のレコード体験は始まった気がする。



僕が生まれた頃にはすでにメディアの主流はCDへと移っていた。
物心ついてからはCDショップや中古店に足繁く通う日々、そういった店の中にレコードも扱うお店が数軒あった。
お店に出入りしているうちに、やがて興味は芽生えていった。
メディアの進展からみれば逆行するような流れにみえるけれども、
もともと90年代の音楽を後追いで聴くような学生だったので、
時代をさらに遡ってレコードに手を出すのは自然なことだったのかもしれない。

CDは棚に並んだケースの背文字を追うだけで探すこともできるけど、
レコードは箱に詰め込まれたものを一枚一枚抜き差ししていく。
ジャケットをチラと見ては次へ次へ。
知識も何もない初めの頃は目に入るジャケットのイメージだけが頼りだった。
壁に並んだジャケットを眺めながら、箱のレコードを目で追う。
「このジャケ、写真の粗さがカッコいいな」「これは知っている、有名なヤツだ」「あっこれ前も見たな」
そんなところから僕のレコード体験は始まった気がする。

レコードを集め出して、驚いたのは保存状態の千差万別ぶりだ。
シミがてんてん、底が抜けてる、端が切れてる、ラクガキされたものさえある。
お金もないから安めのものしか手を出せない、そうなると状態のあまりよくないものが買いどころになる。
部屋の棚はカット盤とボロ盤で埋まっていった。
レコード盤とジャケットのコンディションは、多くの中古店では値札にアルファベットで併記してある。
コンディションの良し悪しは前の持ち主の扱い次第、いろんな変遷を経て今このレコードがここにある。
大量生産品なのに、一枚が辿った道はただ一つだけ。
ロマンチシズムが過ぎるかもしれないけれども、そういう物質的な魅力をレコードに感じているのも確かなのだった。

棚のレコードが増えるにつれて、欲しいレコードも少しずつ増えていった。
その中で一枚、他とは違う理由で欲しいのが、ボブ・ディランの『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』。
とは言っても、アルバム自体はすでに持っている。
だけど僕が格安で買った『フリーホイーリン~(国内盤)』のジャケットはひどくボロボロで、
三辺のうちの二辺が裂けて、もう一辺も半分が破けて表と裏が今にも離れそうな状態だ。シミもついている。
それに比べると盤の方はわりとキレイだった。長年の風雪から盤を守ってきたのかもと想像すると、
このボロジャケも愛着が湧いてくる。このレコードに針を落として聴く『激しい雨が降る』はなかなか乙なものです。
廃棄せずに店に売ってくれた前の持ち主さん、ありがとう。
いつかこのアルバムをもう一枚手に入れて(できればオリジナル盤)、一緒に棚に並べたり、聴き比べてみたいと思っている。
その日まではこのボロジャケのディランをマンガを描く傍でかけていよう。


Bob Dylan『Freewheelin' Bob Dylan』
(1963)





毛塚了一郎

1990年生まれ。KADOKAWAの漫画誌『青騎士』よりデビュー。『青騎士』でレコードをテーマにした連作漫画『音盤紀行』を連載中。2022年5月に初単行本『音盤紀行』(KADOKAWA)を発表し、漫画好き・音楽好きから注目を集める。レコードとレトロ建築が好き。

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『音盤紀行 1』
KADOKAWA・刊
発売日:2022年05月20日 判型:B6判
商品形態:コミック ページ数:242
ISBN:9784047370906




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