2022年7月号|特集 真夏のシティポップ!

真夏のシティポップ・究極の20枚:第1回 南佳孝『忘れられた夏』

レビュー

2022.7.1


南佳孝
『忘れられた夏』
1976年9月21日発売

配信・ダウンロード ▶

1. これで準備OK
2. ジャングル・ジム・ランド
3. ブルースでも歌って
4. 眠りの島
5. 忘れられた夏
6. 月夜の晩には
7. 椰子の木の下で
8. 静かな昼下り
9. ひとつの別れ
10. これで準備OK(inst)

都会の喧騒と暑さから抜け出してひとりの時間を過ごせるトリップ・ミュージック

ヴァラエティに富んだサウンドで仮想の都市空間を描き出した『摩天楼のヒロイン』(1973年)は、まさに“シティ・ポップ”の始祖というべき作品だが、そこにあったショーのような華やかさと距離を取り、よりシンプルでパーソナル、場は都市からリゾートへ移ったかのような世界を現出させたのが本作。本人のインタヴューによれば、前作に関してはあくまでも共同作業であり、自分だけのアルバムではないと考えていたという。つまり本来の意味でのデビュー・アルバムであるともいえるだろう。1曲目からまさに「これで準備OK」というタイトルでその意気込みを伺わせてくれる。スローでレイドバックした楽曲が中心で、南の愛するジャズやボサ・ノヴァの要素が自然に溶け込み、エレピの音がきらめく。真夏に再生すれば、都会の喧騒と暑さから抜け出してひとりの時間を過ごせる、トリップ・ミュージック。そしてなによりジェントルなその歌声に魅了される。

文/パンス