2022年4月号|特集 『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』

【Part1】曽我部恵一が語る『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』

インタビュー

2022.4.1

インタビュー・文/北沢夏音

写真/石垣星児

曽我部少年が知らず知らずのうちに引き寄せられた「はっぴいえんど」人脈の音楽



――曽我部くんは、'71年8月生まれだから、このアルバムが出た'82年3月21日には、まだ10歳でしょう?

曽我部恵一 そうですね。小学校5年生になる直前? でも、「A面で恋をして」はすごく憶えています。テレビのCMで流れていたのを観て……あれは資生堂?

ナイアガラ・トライアングル
「A面で恋をして」
(資生堂1981年秋のキャンペーンCMソング)
作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

1981年10月21日発売


――資生堂の'81年秋のキャンペーンCMソングです。

曽我部恵一 いい曲だなぁ、と。まさかそれが大滝詠一とは思ってなかったけど。その頃、子供心にCM音楽で印象に残ったのが、タイトルは知らなかったけど、「A面で恋をして」と「春咲小紅」。あとは「君に、胸キュン。」。これは好きすぎてシングルを買ったの。で、もうひとつが「め組のひと」。これも好きでシングルを買ったの。それと「赤道小町ドキッ」。いい曲だなぁ、と思っていたら、ほとんどはっぴいえんど人脈だよね(笑)。


矢野顕子
「春咲小紅」
(カネボウ化粧品1981年春のキャンペーンCMソング)
作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子

1981年2月1日発売


YMO
「君に、胸キュン。(浮気なヴァカンス)」
(カネボウ化粧品1983年夏のキャンペーンCMソング)
作詞:松本隆 作曲:YMO

1983年3月25日発売


ラッツ&スター
「め組のひと」
(資生堂1983年夏のキャンペーンCMソング)
作詞:麻生麗二 作曲:井上大輔

1983年4月1日発売


山下久美子
「赤道小町ドキッ」
(カネボウ化粧品1982年夏のキャンペーンCMソング)
作詞:松本隆 作曲:細野晴臣

1982年4月1日発売


――確かに。最初に聴いたときは知らなかった?

曽我部恵一 もちろん、もちろん。タイトルも知らないぐらい。


「今のヒット曲って、40年経った後に、子供たちが「この曲いい!」って言えるのかな?」


――曽我部少年が、知らず知らずのうちに引き寄せられた楽曲に関わっていたのが、実は、元はっぴいえんどの人たちだったという。

曽我部恵一 うん。当時のCM業界がそうだったのかもしれないね。みんなが松本さんや細野さんたちに頼んでいたのかも。僕は、「RYDEEN」とか友達が聴いてたから、YMOは知ってた。

――なるほどね。それで、「A面に恋をして」のシングルが出た’81年は、ロンバケ(『A LONG VACATION』)の年でもある。

曽我部恵一 そうだよね。でも、当時はそういうこと、まったく分かってない。

――さすがにロンバケは……?

曽我部恵一 子供の耳には入って来なかった。つまり、ロックバンドの曲は、コマソンじゃないと子供には届かないんです。「い・け・な・い ルージュマジック」とか。だから、化粧品ですよ。

忌野清志郎+坂本龍一
「い・け・な・い ルージュマジック」
(資生堂1982年春のキャンペーンCMソング)
作詞・作曲:忌野清志郎+坂本龍一

1982年2月14日発売


――80年代は資生堂vsカネボウのシーズン毎のCM合戦がすごかったからね。

曽我部恵一 たしか、「君に、胸キュン。」と「め組のひと」が同じ年の夏のキャンペーンCMソングでしょ。すごくない? 

――あの頃は化粧品のCMタイアップが決まったら、ヒットは保証されたも同然だった。

曽我部恵一 そう。しかも、こんなに時間が経ってもみんなが好きな、いい曲じゃない? それがすごいよね。今のヒット曲って、40年経った後に、子供たちが「この曲いい!」って言えるのかな? そこらへんがちょっと、時代が違うんだなぁ、と思っちゃうけど。

――CMソングというものの価値が、今はあの頃とは比べものにならない気がする。

曽我部恵一 ねぇ。90年代ぐらいまで頑張っていたじゃないですか、CMソング。

――まさにサニーデイ・サービスも、4枚目のアルバム『SUNNY DAY SERVICE』からの先行シングル「NOW」が、コマソンでしょう? あれはお菓子のCM?

曽我部恵一 そう。あれはチョコレート。あの頃のコマーシャル、よかったなぁ……。音楽に力、入ってるもん。

サニーデイ・サービス
「NOW」
(ロッテ・ガーナミルクチョコレートCMソング 深田恭子が出演)
作詞・作曲:曽我部恵一

1997年9月26日発売


【Part2】へ続く)



曽我部恵一(そかべ・けいいち)

●1971年8月26日生まれ。香川県出身。90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。'95年に1stアルバム『若者たち』を発表。'01年にはNY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロ・デビューも果たす。'04年、自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続けている。
http://www.sokabekeiichi.com/
http://rose-records.jp/