2026年10月号|特集 TOKYO CITY POP
【Part1】歌人・伊波真人(書籍『シティポップ短歌』著者)インタビュー
インタビュー
2026.10.1
インタビュー・文/真鍋真一 写真/島田香

ウェブマガジンotonanoにて人気連載中の『伊波真人のシティポップ短歌』が書籍『シティポップ短歌』(遊泳舎)として好評発売中。歌人・伊波真人に短歌とシティポップの魅力を全4回のインタビューでたっぷりと語ってもらった。
キリンジの「スウィートソウルep」を聴いたのが最初です(伊波)
── まず、短歌の世界に触れるきっかけになったところからお伺いしたいです。
伊波真人 はい、きっかけは彬聖子(あきら・しょうこ)さんという漫画家の作品に出会ったことからです。少女漫画、好きだったんですよ。『こいのうた』(小学館フラワーコミックス)という作品で、穂村弘さんの短歌をモチーフにした短編集でした。僕はもともと大学のサークル活動で映画を撮っていまして、その題材を探しに本屋さんへ行って、平積みになっていたこの単行本を、ある意味ジャケ買いのような感じでたまたま手に取ってみた。それを読んで、「短歌ってこんなに面白いものなんだ!」と驚いたんです。
── 穂村弘さんは、1980年代の終わりに「ニューウェイブ短歌」と呼ばれたスタイルの方ですが、ちょっと珍しい出会い方ですね。
伊波真人 本当に偶然です。違う漫画を手に取っていたら、短歌を詠むこともなかったですから。
── それまでは短歌や俳句、小説もですが、いわゆる文芸サークルのような活動はされていなかったんですか。
伊波真人 いえ、全然していませんでした。映画を作るので脚本は書いていましたが。大学の学部は文学部だったので、創作を実践するカリキュラムのなかに短歌を作る授業がありました。本当は、映画の脚本を学ぶ授業がとりたかったんですが、希望者が多くて抽選に外れてしまいまして……。
── それも偶然の巡り合わせだったわけですね。
伊波真人 たまたま枠に空きがあったので仕方なく短歌の授業を履修した、というのが本当のところなんです。でも、そこでどっぷりハマることになった……というのが僕が短歌を詠むまでの流れです。
── 大学なら授業もありますし、文芸系のサークル活動もすごく活発ですよね。
伊波真人 えぇ、それで学生時代は映画を撮っていろんなイベントで上映してもらう一方で、短歌のサークルを掛け持ちでやっていました。大学を卒業して新卒で入ったのも映像制作会社で、ずっと兼部のような感じでした。
── 短歌にもいろいろなスタイルがありますが、伊波さんが短歌を始められた頃から作風や方向性は決まっていたのですか?
伊波真人 やっぱり穂村弘さんから入ったので、カジュアルな口語の短歌を作っていましたね。当時から「ポップな歌を作りたい」という気持ちが強かったのかもしれません。

── 穂村さんからの直接的な影響も大きかったんですか? 古語や文語にとらわれないというのが穂村さんのスタイルでしたよね。
伊波真人 そうですね。穂村さんによって短歌のイメージが良い意味で壊されたところはありました。「こんな言葉を短歌に使ってもいいのか!」という作品もありましたから。代表的な作品では「サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい」という短歌があります(歌集『シンジケート』所収)。

『シンジケート』[新装版](講談社)
穂村弘・著
2021 年5月20日・刊
── えぇ…? それは大胆ですね。
伊波真人 本当に自由ですよね。短歌だと「なりけり」みたいな古い言い回しを使うイメージがあると思いますが、僕は普段使っているような話し言葉で、より親しみやすい言葉で作るようにしていました。今回の『シティポップ短歌』という場所を作っていただいたウェブマガジンotonano編集部の栗本斉さんにも聞かれたことがあるのですが、僕の短歌にはカタカナ語とか、現代の固有名詞がよく作品に現れる傾向があるんですよ。やっぱりそれが僕の短歌の特徴なのだろうと思っています。

書籍『シティポップ短歌』(遊泳舎)
伊波真人・著 /栗本斉・ディスク・ガイド
2026年8月7日・刊
── それがシティポップの持つ世界観に接近していったと。
伊波真人 もともとシティポップのような音楽も好きでしたし、スタイリッシュな歌が詠めたら面白いなと思って、方向性が定まっていった感じですね。
── おお! もともとお好きだったんですね。そういえば、まだ音楽のお話をしておりませんでした。シティポップとの出会いはどうだったんですか?
伊波真人 キリンジです。これもたまたまだったんですよ。昔はレンタルCD屋さんの文化が盛んで、自分で選曲して、MDやカセットに録音して聴くのが当たり前だったじゃないですか。MDの収録時間に余裕があったので、何かで埋めたいなと思った時に、なんとなく知っていたキリンジの「スウィートソウルep」を聴いたのが最初です。

キリンジ
「スウィートソウルep」
2003年3月26日発売
── それもまた運命的ですね! (事実上の)ミニ・アルバムだから時間的な収まりもいいですし。
伊波真人 「すごいのを引いたな……!」って自分でも思いますよ(笑)。全部いい曲で、「ずっと聴いていたい」と思って延々とリピートしていました。本人たちのインタビューを読んでいると、AORとか、シティポップというキーワードが出てきて、そこからよく聴くようになったんです。
── 当時のJ-POPの流行の感覚からすると、キリンジにたどりつくのもそれなりに敏感なアンテナがないと難しかったと思いますが、それ以前から熱心なリスナーだったんじゃないですか? それこそ子どもの頃からとか……。
伊波真人 それで言うと、僕が初めて自分のお小遣いで買ったCDの話をしたほうがよさそうですね。僕の場合は、サザンオールスターズの『Young Love』でした。
── なるほど……! 世代がわかりますね。
伊波真人 2枚目が、SING LIKE TALKINGの『Welcome To Another World』。今回の『シティポップ短歌』でもSING LIKE TALKINGがお題にあがっているんですが、いま思うとやっぱり、自分の趣味を自覚する前からシティポップ的なサウンドが好きだったんだろうなと。当時はまだ中学生くらいだったので、もちろんシティポップなんて言葉も知りませんでしたが、その頃からもうできあがっていたみたいです。

SING LIKE TALKING
『Welcome To Another World』
1997年5月28日発売
── この頃だと、渋谷系のアーティストもヒットしていましたよね。
伊波真人 小沢健二さんも好きでよく聴いていましたし、やっぱりソウルの影響を受けて洗練されたサウンドを作るアーティストが好きだったのかもしれないですね。
── そうした背景があって、そして大学生の頃に短歌との出会いもあり、それらがなんとなく混ざっていく。
伊波真人 最初からシティポップ的な短歌を作ろうという意識はなかったんですが、都会的で洗練された世界観がたまたま趣味としてあって、それが自然と作品に出てきたのだろうと思います。それで栗本さんもそうですし、『ブルーアワー』という歌集の帯のコメントで「シティポップな短歌たち」と書いていただいた伊藤銀次さんにも、きっと僕の作品からシティポップ的な要素を読み取ってもらえたのかな、と。

書籍『ブルーアワー』(書肆侃侃房)
伊波真人・著
2026年5月29日・刊
(【Part2】に続く)

伊波真人 (いなみ・まさと)
歌人。1984年、群馬県高崎市生まれ。早稲田大学在学中に短歌の創作をはじめる。2013年、「冬の星図」により角川短歌賞受賞。雑誌、新聞を中心に短歌、エッセイ、コラムなどを寄稿。ポップスの作詞家としても活動中。ラジオ、トークイベントへの出演なども行う。音楽への親しみが深く、特にシティポップ、AORの愛好家として知られる。著書に、歌集『ナイトフライト』など。2026年6月に第二歌集『ブルーアワー』を刊行。ウェブマガジンotonano連載『伊波真人のシティポップ短歌』をまとめた書籍『シティポップ短歌』(遊泳舎)も好評発売中。
Official Site : http://inamimasato.com/
https://x.com/inamimasato
ウェブマガジンotonano連載『伊波真人のシティポップ短歌』

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【Part2】歌人・伊波真人(書籍『シティポップ短歌』著者)インタビュー
インタビュー
2026.10.13
