2026年10月号|特集 TOKYO CITY POP
【Part1】EPOスペシャル・ロング・インタビュー
インタビュー
2026.10.2
インタビュー・文/油納将志

世界的なシティポップ再評価の潮流のなかで今なお国内外で支持を集め続けているEPO。初期80年代の音楽的探求を凝縮した最新企画ベスト盤『THE RCA & MIDI YEARS (1980-1990) #CityPopEssentials』『THE RCA YEARS (1980-1984) #CityPopEssentials』を中心にEPOの過去・現在・未来をたっぷりと語ってもらった。
ポップスというのは、ジャムセッションのような即興ではなく、完璧な設計図の上に成り立つ再現性のある音楽なんです(EPO)
── 80年代の作品がシティポップとして世界的に再評価され、大きなムーブメントとなっています。EPOさんご自身がその予兆や熱気を感じ始めたのは、いつ頃、どのようなきっかけからだったのでしょうか?
EPO 最初は海外から事務所に直接問い合わせやオファーが届くようになったのがきっかけでした。ヨーロッパやアメリカ、あるいは中国のDJの方や、クラブシーンで活動されている若いクリエイターから「この80年代のアルバムのレコード盤をもう一度プレスして再発してもらえないか」とか、「現地のクラブイベントに出演してもらえないか」というオファーが相次いで届くようになって。「一体何が起きているんだろう?」と驚いたのが最初でしたね。彼らに理由を尋ねてみると、「今、僕たちの国のクラブで80年代の日本のポップスがすごく流行っていて、DJでかけるとみんな大盛り上がりするんだ。僕はEPOの曲が大好きでいつもプレイしているよ」とおっしゃってくれて。最初は画面の向こう側の出来事でリアリティが乏しかったのですが、だんだんBSのテレビ番組やWebメディアでも80年代シティポップの特集が組まれるようになり、イベントへのお声がけも増えてきて、「あ、あの頃の私たちの音楽が、時代も国境も越えて本当に動き始めているんだな」と実感していきました。
── 日本語で歌われた80年代の楽曲が、言葉の壁を越えて海外の若いリスナーやダンスフロアで愛されている状況については、ヴォーカリスト、ソングライターとしてどのように受け止められましたか?
EPO 当時は海外の実際のクラブの映像を直接見ていたわけではなかったので、最初は「えっ、日本語の歌詞なのにみんな踊っているの?」という意外な驚きが大きかったですね。でも、色々なメディアで80年代の日本のポップスが再びスポットライトを浴びるにつれて、本当に世界的な規模でそうした現象が起きているんだと納得できるようになりました。山下達郎さんや竹内まりやさんといった、私にとっても非常に縁の深い大先輩方の音楽がまず海外で大きく注目されて、その素晴らしい流れの中から、同じ時代を駆け抜けてきた私の作品にも耳を傾けてもらえるようになったんだと思います。
── 時代や国境を越えて、EPOさんの音楽がこれほどまでに人々を魅了し、古びずに機能し続けている理由について、ご自身ではどのように分析されていますか?
EPO 実は私なりに「なぜだろう?」とずっと考えていたのですが、その決定的な理由に気づいた出来事があったんです。昨年『EPOFUL』という最新アルバムを出した際に、自分で全曲のアレンジや音作りを手がけたのですが、作業を進める中で「私、アレンジャーの清水信之さんにものすごく大きな影響を受けているんだな」と痛感したんですね。信之さんのアレンジというのは、フレーズの音ひとつ、リズムのパターンひとつに至るまで、「絶対にこれでなければダメだ」という完璧で緻密な建築物のような設計図が存在するんです。私もそのやり方に倣って、自分の頭の中に聴こえてくる音を全て五線譜に書き留めて、緻密な設計図を作り、デモ音源を完成させました。デモの段階では、自分が思い描いた理想のメロディやオブリガートが完璧に鳴っていたんです。

EPO
『EPOFUL』
2025年10月1日発売
── ご自身のセルフプロデュースの現場で、その緻密な設計図の重要性を再確認されたわけですね。
EPO そうなんです。ただ、そこから実際のレコーディングに入った時に、私がプロデューサーとして大きなミスキャストをしてしまいまして。私はプロのプレイヤーではないので、生演奏の方が映えるパートはスタジオにミュージシャンの方に来ていただいて演奏してもらったんです。その際、私はアレンジャーとして「この書いてある譜面・設計図の通りに正確に演奏してください」と指示すべきだったのに、お呼びしたベテランのミュージシャンの方が“俺(自分のプレイスタイル)”を前面に出して弾いてしまわれて。「すいません、譜面通りに弾いていただけませんか?」とお願いしたのですが、「それじゃ俺が演奏する意味がないじゃないか」とおっしゃって。私は指揮者として指示に従ってほしかったのですが、一部のパートだけが自分流のアレンジに変えられた結果、出来上がった音をスピーカーで聴いてみるとコードまで変えられてしまっていて、ポップスとしての美しい構造がガタガタと崩れてしまっていました。夫の宮川雅彦からも「これは君のプレイヤーの選び方のミスだよ」と指摘されて、「確かにその通りだ」と猛反省しました。
── ポップスという建築物のバランスが、たったひとつの自己主張によって崩れてしまったと。
EPO 結局そのトラックは別の方に譜面通りに弾き直していただいて無事に完成したのですが、その失敗を経て、改めて80年代に信之さんと作ってきた過去のトラックを聴き直したんです。そうしたら、すべてのメロディやフレージングが信之さんによって計算し尽くされていて、「これだ! これこそがポップスの正体なんだ!」と雷に打たれたような衝撃を受けました。よくファンの方から「昔、学生時代にバンドでEPOさんのカヴァーを演奏していました」と言っていただけるのですが、なぜアマチュアの高校生や大学生でもカヴァーできたかというと、譜面が完璧に構築されていたからなんです。楽譜の通りに弾きさえすれば、あのEPOサウンドの持つ甘さや軽やかさ、都会的な匂いが誰でも正確に再現できる。ポップスというのは、ジャムセッションのような即興ではなく、完璧な設計図の上に成り立つ再現性のある音楽なんです。
── 楽譜通りに演奏すれば再現できる再現性こそが、シティポップの普遍的な強みなんですね。
EPO まさにそうなんです。さらに信之さんは、アメリカのR&Bやファンク、ラテンミュージックといった洋楽にものすごく深い影響を受けている方です。だから、海外のリスナーや若い世代が聴いた時にも、どこか耳馴染みのある、あの洋楽の名曲のエッセンスが入っているぞと直感的に感じ取れる構造が、最初から音の中に組み込まれていたんですね。だからこそ、歌詞が日本語であっても何ら引っかかることなく、心地よいグローバルなポップスとして世界中で親しまれているのだと深く納得しました。自分が制作で失敗したからこそ、信之さんのアレンジの凄まじさを40年越しに本当の意味で理解できたんです(笑)。
── ソングライターであるEPOさんのメロディと、清水信之さんのアレンジという黄金のコンビネーションは、当時どのように作られていたのでしょうか?
EPO 私の場合、曲が生まれてくる最初の段階で、すでに頭の中でイントロのフレーズから裏のオブリガート、副旋律までがハッキリと鳴っているタイプなんです。その頭の中のイメージを信之さんにお渡しすると、私の作詞・作曲の意図を100%尊重してくださった上で、ご自身の上質なセンスとコードワークで、さらに何倍も華やかで素晴らしいサウンドへと増幅して返してくださる。ふたりの間で「ここはこうしてほしい」「いや、こうだ」といった意見の衝突やバッティングは、40年以上のキャリアの中で一度もありませんでした。私が思いもつかないような洗練されたコードをつけてくれて、私の描いたメロディをストリングスや管楽器の美しいソロへと仕立て上げてくれる。本当にお互いを信頼し合えた最良のパートナーシップでしたね。

EPO
『THE RCA & MIDI YEARS(1980-1990)#CityPopEssentials』(4枚組)
2026年9月23日発売

EPO
『THE RCA YEARS(1980-1984)#CityPopEssentials』(2枚組)
2026年9月23日発売
── その最高のコンビネーションの結晶とも言うべき、2026年9月23日に同時リリースされたベスト盤『THE RCA & MIDI YEARS』および『THE RCA YEARS』は、全曲最新リマスタリングが施されています。最新の音響技術でご自身の80年代の音源を聴き返してみて、あらためてどのような印象を抱かれましたか?
EPO 最新のリマスタリング音源で聴く80年代のサウンドは、本当に驚くほど音の粒立ちがクリアで、各楽器の分離感や声の響きが瑞々しく蘇っていて、大きな感動がありました。今回のベスト盤は、4枚組の限定盤と2枚組の通常盤というふたつの形態でリリースされますが、ソニーミュージックの制作スタッフの方やライナーノーツを書いてくださった金澤寿和さん(『THE RCA & MIDI YEARS』)、栗本斉さん(『THE RCA YEARS』)、たちが、今のリスナーの耳に寄り添って本当に素晴らしい選曲と流れを作ってくださいました。当時は必死に作っていた楽曲たちですが、2026年の今の音として聴いても一切古びておらず、むしろ現代の最新のトラックと並べても遜色ない強度と美しさを持っている。この素晴らしい音像を、ぜひ昔からのファンの方だけでなく、シティポップブームで新しく私を知ってくださった若いリスナーの皆さんにも、ぜひ体感していただきたいですね。
(【Part2】に続く)

EPO (えぽ)
1980年シングル&アルバム『DOWN TOWN』でデビュー。『オレたちひょうきん族』エンディングテーマ「土曜の夜はパラダイス」や「う、ふ、ふ、ふ、」「音楽のような風」など、数々のヒット曲を発表。’88年渡英、海外活動を経て帰国。幅広い音楽性で、現在に至るまで世代を問わず常に注目を集めている。『声』という楽器を通じて、来るデビュー50周年に向けてライヴを中心としたユニークな音楽活動を継続的に展開中。
EPO official site : https://www.eponica.net/
●EPO LIVE スケジュール
【EPO Autumn Conjunction2026 ~この頃わかりかけてきたこと~】
2026年11月13日(金)渋谷 CLUB ROSSO
2026年11月28日(土)風来坊(愛媛県松山市)
official site : https://www.eponica.net/
【EPOエンドレスバレンタイン With 清水信之+佐橋佳幸+GOOD BYE APRIL】
2027年1月23日(土)ビルボードライブ東京(1日2回公演)
2027年1月24日(日)ビルボードライブ東京(1日2回公演)
official site : www.billboard-live.com
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【Part2】EPOスペシャル・ロング・インタビュー
インタビュー
2026.10.9