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【Part3】制作スタッフが語る岡村靖幸ミュージックビデオの“裏側”と“真実”!

2026.8.3

インタビュー・文/安川達也(ウェブマガジンotonano編集部)



(【Part2】からの続き)


アーティスト岡村くんに対してはリスペクトという言葉しか浮かばないですよ(塩坂)


―― 岡村靖幸さんのデビュー40周年を記念して、EPIC期のミュージックビデオが順次公開中です。8月2日には第3弾として「Peach Time」(’90年)、「Peach Time(Complete Version)」(’90年)、「Peach X’mas」(’95年)、「ハレンチ」(’96年)、「真夜中のサイクリング」(’00年)の5タイトルが公開されます。





塩坂 「Peach Time」(11thシングル/’90年2月発売)はセレクション・アルバム『早熟』(’90年3月発売)からの先行シングルでしたね。僕は(坂西)伊作さんのアシスタント・ディレクター(AD)として関わっていますがMVは所謂「Peach Time」と明記されるVideo Clip Versionと長尺のComplete Versionのふたつが存在します。キャスティングは自分がやらせてもらいました。岡村くんの両側にいる男性ふたりは当時のツアーで実際に一緒に踊っていたダンサーなので、声をかけたといったほうが正しいかもしれませんね。

―― なんかホントの友達のように見えたのはライヴの影響だったんですね。

塩坂 それはあったかもしれません。撮影の数日前から赤坂DSビル時代のEPICの一番広い会議室で岡村くんとダンサー2人が集まってダンスのリハーサルをしたんですよ。ライヴのリハーサルと変わらない真剣なダンス! 自転車も持ち込んでのダンス・リハーサルでした。部屋を覗いた時の微笑ましい光景が今でも忘れられません。収録したのは「Punch↑」と同じく大映スタジオでした。MVを観直すと東京タワーが輝く六本木通りの映像と美術(ネオンライト)を重ねるビデオの編集にもアイデアを感じます。手作り感の楽しさというか迷いのない感じといいますか。






―― 演技面で息のあった3人らしさが出たのはComplete Versionだったりして(笑)。

塩坂 そうかもしれませんね(笑)。日本一情けない設定の“岡村先輩”と後輩が繰り広げるナンパ大作戦を描いたドラマというか寸劇。台本は伊作さんが書いたと思いますが、バブル弾ける夜の六本木に繰り出す若者3人。誰がナンパする、誰が最初に行く、そのあとはどうするって他愛もない会話が延々と続いて、いいからもう行けよーって突っ込みたくなるタイミングで「Peach Time」本編が始まるという、おそらく時代にも製作費にも余裕があったビデオですよね(笑)。でも確か、収録の日に岡村くんが鼻風邪をひいていた記憶があるんですよね。オープニングの寸劇の部分は一部聞き取りづらいところをアフレコして差し替えたかもしれないなぁ。






―― 今回のデビュー40周年を記念した配信には含まれていませんがこのあと塩坂さんはいよいよディレクターとして岡村さん作品に多く携わっていくことになりますね。

塩坂 時系列で言うと、EPIC製作の音楽番組『eZ』(’88年4月~’92年10月放送/テレビ東京系)放送用に撮影された「(E)na(カッコイーナ)」の映像をベースにして作ったTV SPOT「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」 (’90年)がアシスタント・ディレクターとしては最後だったはずです。そのあとにディレクターとして『LIVE家庭教師’91』(’91年)、『ファンシーゲリラ VIDEO SHOP '92』 (’93年)を手がけています。このあたりのセル作品はのちにDVDディレクターとして携わった7枚組映像ボックス『20世紀と伝説と青春』(‘12年)に収められていますので、こちらも機会があれば是非ご覧ください。






―― 「Peach X’mas」(’95年)は、多くのライヴ映像を手がけていた時代のクリップでもあるんですね。

塩坂 ライヴでしたが公式MVとしては5年ぶりだったはずです。「Peach X’mas」のシングルは’95年12月発売なのですが、ご存じのとおり楽曲そのものは‘90年ぐらいには既に存在していて、’90年12月放送のNHK音楽番組『X’masスペシャル ポップス&ロック 1990』で披露されているんです。MVは’91年の『家庭教師』ツアーの映像から編集しています。序盤はCD音源を使っていて、途中からライヴ音源に切り替わるんです。……え!? どうして? どうして2段階の音源を用意したのか……正直覚えていないんですよね(笑)。でもウエストアップが中心の映像で岡村くんのステージでの繊細観を演出していることが、その回答のような気もします。






―― 「ハレンチ」(19thシングル)はメジャー・デビューのちょうど10周年当日12月1日発売。塩坂さんが手がけた岡村さんのMVは「ハレンチ」が最後ですね。映像はドキュメント風な“ハレンチ”な手づくりが印象的です。

塩坂 (MVを観ながら)あー懐かしい。気合を入れて作りましたね。 まずは「ハレンチ」を聴きこみながら楽曲のテーマでもある“ハレンチ”なアイデアを浮かべて絵コンテを練って岡村くんにプレゼンして、その場で方向性を絞り込んだ記憶がありますね。収録は当時のスタッフの自宅をお借りして撮影しましたね。それから学芸大学駅の近くにあった柿の木坂トーヨーボウルだったかな? ボウリング場のロケではカメラの前で自由に踊ってもらって。なんだかんだ1日で撮り終えました。

―― 「真夜中のサイクリング」(’00年/ディレクター:滝本登鯉)はご本人が出演していないので、EPIC時代の岡村さん出演の実写は塩坂さんが手がけた「ハレンチ」が最後になるんですよね。

塩坂 結果的にはそうなるんですかね。それまでは岡村くんは編集室に顔を出すタイプではなかったのですが「ハレンチ」の時は最終編集にも立ち会ってその場で意見を出しながら一緒に完成させました。真横に座って「シオちゃん、ここのところ早回し!」みたいな(笑)。横並びの作業のほど良い圧迫感というかね(笑)。完パケた映像を観た岡村くんが「いいんじゃない!」って言った時は緊張からの解放感とやり遂げた充実感に満たされましたね。自分にとっても岡村くんの音楽の映像表現はどこか仕事を超えたものがありましたから。






―― 映像制作の現場ではそれまで一緒にいる時間が長かったから岡村さんも嬉しかったのではないですか。

塩坂 それはどうだったのかは知る由もありませんが(笑)。僕は一緒にいる時間が楽しかったです。食事に行ったり呑みに行ったりという付き合いは無かったです。岡村くんは映画とかドキュメンタリーとかも大好きでしたから、たまにプライベートな時間にユーロスペース(渋谷にあるミニシアター)でバッタリ逢ったりしてね。『ゆきゆきて、神軍』(‘87年/監督:原一男)の上映は偶然館内で一緒になったり。しばらくして会った時も『ビッグ・フィッシュ』(’03年/監督:ティム・バートン)も岡村くんに勧められて観に行きましたね。映像というフィルターというか共通言語を通じて岡村くんと接する時間が僕は本当に楽しかったんですよね。

―― 当時のMV制作を駆け足で振り返ってもらいましたが、いま岡村靖幸というアーティストに抱くイメージを教えてもらえますか。

塩坂 とても長いお付き合いになりましたが、昔も今もアーティスト岡村くんに対してはリスペクトという言葉しか浮かばないですよ。リスペクト! これだけですね。


(了)




塩坂芳樹(しおさか・よしき)
●1987年11月株式会社EPIC・ソニー(当時)入社。2024年3月退社までソニーミュージックに36年5か月勤務。岡村靖幸をはじめ、真心ブラザーズ、電気グルーヴ、TOKIO、杏子、BO GUMBOSら数多くのミュージックビデオやセルビデオのディレクター、プロデューサーを務める。

<岡村靖幸の主な映像仕事歴>
・MV「19(nineteen)」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「いじわる」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「いじわる(『eZ Christmas Special Version』)’88|アシスタント・ディレクター
・MV「聖書(バイブル)」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「だいすき」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「Punch↑」 ’89|アシスタント・ディレクター
・MV「Vegetable」 ’89|アシスタント・ディレクター
・映画『Peach どんなことをしてほしいのぼくに』 助監督(’89劇場公開|監督:坂西伊作)
・MV「友人のふり」 ’89|編集ディレクター
・MV「Peach Time(Video Clip Version)」 ’90|アシスタント・ディレクター
・MV「Peach Time(Complete Version)」 ’90|アシスタント・ディレクター
・TV SPOT「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」 ’90|アシスタント・ディレクター
・セルビデオ『LIVE家庭教師’91』 ’91|ディレクター
・セルビデオ『ファンシーゲリラ VIDEO SHOP '92』 ’93|ディレクター
・MV「Peach X’mas」 ’95|ディレクター
・MV「ハレンチ」 ’96|ディレクター
・セルビデオ『20世紀と伝説と青春』 ’12|ディレクター ほか