2026年8月号|特集 浜田省吾

『生まれたところを遠く離れて』|浜田省吾アルバム①1976-1989

レビュー

2026.8.3

文/油納将志


浜田省吾
『生まれたところを遠く離れて』

1976年4月21日発売

01. 路地裏の少年
02. 青春の絆
03. 朝からごきげん
04. 雨上りのぶるーす
05. 悲しい夜
06. 街角の天使
07. 壁にむかって
08. HIGH SCHOOL ROCK & ROLL
09. 生まれたところを遠く離れて
10. とらわれの貧しい心で

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バンドの生々しさだけを前面に出すのではなく、個の表現を探ったデビュー作


 アコースティック・ギターの静かなストロークから始まり、徐々にバンドの抑制された音が重なっていくオープニング曲「路地裏の少年」。そこには、語り手の揺れる心情と、過ぎ去った歳月を見つめる視線が刻まれている。裏ジャケットがボブ・ディラン『フリーホイーリン』を踏まえた構図であることも、この作品がフォークの表現史と接続していることを象徴的に示す。

 ソロ・デビュー作『生まれたところを遠く離れて』は、ひとりの青年の孤独や焦燥を宿した言葉が、アコースティックな響きを起点に、豊かなアンサンブルのなかへ踏み出していく記録だと言っていい。福井峻によるストリングス編曲、村岡建によるホーン編曲を含む曲ごとのアレンジは、フォーク、ロック、R&B/ソウルなど異なる楽曲の表情を引き出しながら、作品全体にポップスとしての陰影とドラマ性をもたらしている。

 アルバム前半には「青春の絆」や「朝からごきげん」といった楽曲が並び、曲ごとに異なるリズムと歌の表情が作品に幅を与える。とりわけ「青春の絆」は、60年代のオーセンティックなR&B/ソウルを思わせるバラードとして、ホーンとストリングスのなかに若い浜田の歌に宿る切実さをにじませる。一方、オリジナルLPのB面冒頭に置かれた「壁にむかって」、続く「HIGH SCHOOL ROCK & ROLL」では、リズム・セクションを軸にしたバンド・サウンドに、ホーンが要所に色彩を添える。風通しのよいアンサンブルのなかで、どこか青さを残しながらも力強く歌い上げる浜田省吾の歌声が響く。その余白が、各楽曲に刻まれた言葉の切実さを静かに浮かび上がらせていく。

 作品は終盤にかけて内省の度合いを深め、ラストの「とらわれの貧しい心で」へと至る。静かな余白を残す響きが、アルバム全体を覆う葛藤と模索の余韻を静かに受け止める。バンドの生々しさだけを前面に出すのではなく、個の表現を探った本作は、デビュー作ならではの振幅を見せている。




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