2026年7月号|特集 渡辺美里
【Part4】|渡辺美里ヒストリー
解説
2026.7.17
文/兼田達矢

(【Part3】からの続き)
Part4:『ハダカノココロ』~『ORANGE』
渡辺美里はどんなにライヴ・ツアーがハードでも、いろんなことが忙しくても新しいオリジナル・アルバムをリリースし続けてきた。それを果たさなかったのは初めてのセルフカヴァー・アルバム『HELLO LOVERS』をリリーした’92年とデビュー10周年記念のベスト・アルバム『She loves you』をリリースした’95年のみだ。が、’97年、デビューから12年目。この年、彼女は初めていかなる内容のアルバムもリリースしなかった。前年のツアー中に急性声帯炎のため途中で中止となった公演があったことも考え合わせると、デビューからここまで全速力で駆け抜けてきたキャリアに少しばかりブレイクが必要な時期だったのかもしれない。
この年亡くなった大村雅朗に捧げられた「ランナー」という曲で、彼女は“どうにかこうにか胸こがし走り続けてきたよ”と歌っている。全速力で走り続けずにはいられなかったのは彼女自身の業のようなもののせいかもしれないが、デビューから間もなくしてシーンのトップ・ランナーに躍り出てしまったことは巡り合わせとしか言いようがない。例えばマラソン・レースの先頭走者は、自分でレースを作ることができる一方で、後続走者たちの標的となるリスクを背負うことになる。あるいは、未到の世界に初めて足を踏み入れる栄誉を手にすることができると同時に、そこに横たわっている重圧や困難を誰とも共有できない孤独を味わうことになる。
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