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【Part1】制作スタッフが語る岡村靖幸ミュージックビデオの“裏側”と“真実”!

インタビュー

2026.6.26

インタビュー・文/安川達也(ウェブマガジンotonano編集部)


 今年デビュー40周年に突入した希代の音楽家、岡村靖幸。孤高のアーティストとして、類い稀な表現者としての非凡さを再提起・再検証すべく、EPICレーベル期制作のミュージックビデオがオフィシャル順次公開中だ。最新技術でリマスター、鮮やかに蘇ったミュージックビデオの数々が話題となっているなか、岡村靖幸とビジュアル・コラボレーションを展開した音楽映像制作の第一人者=故・坂西伊作氏の作風もいま再び注目されている。80年代当時、坂西ディレクターのアシスタントとして岡村靖幸ミュージックビデオ制作をサポートしたビジュアル・クリエイターの塩坂芳樹さんが、80年後半から90年代にかけてのビデオ制作の日々を振りかえってくれた。

「だいすき」のミュージックビデオに出ている女性は山口美江さんではありません(塩坂)


―― 岡村靖幸さんのデビュー40周年に合わせて、EPIC期のミュージックビデオが順次公開中です。

塩坂 観ています。個人的にはとても懐かしいですね。スタジオや編集ルーム、岡村(靖幸)くんと同じ空気を吸っていた時間、いろんな場所や瞬間を想い出します。

―― 岡村さんの最新全国ツアー初日となる6月12日には初期5作品「Out of Blue」「Check Out Love」「Young oh!oh!」「Dog Days」「19(nineteen)」がオフィシャル公開されました。この当時の塩坂さんのお仕事は?

塩坂 僕は'87年11月、EPIC・ソニーにアルバイト入社したので岡村くんのデビュー曲「Out of Blue」(’86年12月)からしばらくは、まだいちリスナーです。彼の独創的な音楽にはその頃からスゴク興味がありました。入社してすぐにビデオ制作室に配属になりその時の上司が(坂西)伊作さん。「あれ、この人たしか〈Out of Blue〉のビデオに出てた人だよな」って思ったりして(笑)。渡辺美里、エレファントカシマシ、TM NETWORK、THE STREET SLIDERSなどEPICアーティストの映像作品をバリバリ撮影していた伊作さんをアシストする……いわゆるAD(アシスタント・ディレクター)でした。先輩ADが4人いて、僕は全ての雑用をこなさなければいけないいちばん下っ端。初出勤の頃は鈴木雅之、大沢誉志幸、バブルガム・ブラザーズを中心にして赤坂ラテンクォーターで行われたイベント〈赤坂グラマラスナイト〉の撮影でした。岡村くんも出演。’88年の年明けは岡村くんのセカンド・アルバム『DATE』のオープニング・ナンバー「19(nineteen)」のビデオ制作が始まっていて、右も左もわからないまま気が付けば、スタジオにいて……。





―― ……どんな状況ですか?(笑)

塩坂 伊作さんに言わるれるがまま照明卓のスイッチを握っていました(笑)。「19(nineteen)」のビデオを観てもらえればわかるのですが、1分30秒手前ぐらいでスタジオの照明が白く明るくなり、15秒ぐらい経つとまた元の照明に戻るのですが、その照明を変えているのが僕です(笑)。ビデオが完パケたときには、作品に参加できたことを実感してなんか嬉しかったですね。これが僕の岡村靖幸映像作品に関与した初仕事です、と今でもはっきりと言えるのも嬉しいですよ。






―― 初期5作品に先駆け、5月に先行公開された「だいすき」(「だいすき remix 2026」も同時公開)も“話題”になっています。「ビデオに出てくる女性は女優の山口美江さん」という長らく一部で囁かれていた都市伝説も再燃したようです。

塩坂 その噂は今回、僕の耳にも入ってきました(笑)。(岡村靖幸)オフィシャルXでも先日否定するコメントが投稿されていましたね。良い機会なので結論から言いますね。「だいすき」に出演している女性は山口美江さんではありません! だって僕がキャスティングしたんですから。正確には、僕がモデル事務所のカタログブックから選んだんです。

―― くわしく聞かせてください。

塩坂 伊作さんから美術担当に大きな球体と三角形体が発注されたんです。あれは発泡スチロールだったのかな? 並行して僕は伊作さんからの指示でふたりの女性と子供をキャスティングしました。女性の基準は艶っぽい方と清純なイメージの方です。有名なモデル事務所のカタログから数人を候補として選び、後日面接もしています。残念ながらおふたりの名前の記録は手元に残っていませんが、面接に来られた方も、スタジオで収録した方も、もちろん山口美江さんではありません! ちなみに、この頃すでに山口さんはもうタレント、女優としてブレイクしていたはずです。

―― 山口美江さんは前年の’87年に『CNNヘッドライン』でバイリンガルのニュースキャスターとして注目され、同年には「あー、しば漬け食べたい」の台詞で有名なキャリアウーマン役のフジッコ(つけもの百選)CMでお茶の間ブレイクしていますね。

塩坂 山口美江さんのイメージというか、80年代後半のバブル期のイケてる女性の象徴は、毛先を一直線に揃えたロングヘア&体のラインを強調するタイトな衣装、いわゆるワンレン・ボディコンじゃないですか。「だいすき」で最初に登場する艶っぽいイメージ・モデルの方と山口美江さんの当時のフォルムが視聴者によっては同一人物として重なったんじゃないでしょうか。このことがどういった経緯で噂になったのかはよく知りませんが、山口さんが故人になられたことで(2012年死去)、間違った情報がよりひとり歩きしてしまったんでしょうね。






―― 収録現場のことは覚えていますか。

塩坂 今でも在るIMAGE STUDIO 109目黒のいちばん大きなM1スタジオですね。岡村くんと、球体、三角形体、ふたりの女性モデル、それと子供モデルを白ホリゾントにそれぞれ配置して本番は2テイクくらいで撮り終えた記憶があります。岡村くんの表情も豊かでいい雰囲気でした。とっても楽しかった。キャッチーで陽気な「だいすき」の空気感はビデオから伝わっていると思います。

―― 岡村さんが子供と楽し気にダンスするシーンも印象的でした。

塩坂 あれは岡村くんらしい現場でのアドリブだったと思います。絵コンテは伊作さんが用意しても本番では直観でパフォーマンスする人ですから。そのアプローチの凄さは僕がここであらためて説明する必要はないですよね(笑)。

―― オープニングでの大きな球体が岡村さんのアタマに乗っかりそうなシーンは、EPICの先達、佐野元春『NO DAMAGE』(’83年)ジャケットへのオマージュではないかという巷の噂は?

塩坂 え!? 僕はまだ駆け出しADでしたからビデオの内容を決める打ち合わせ段階では参加していなかったから詳細は分かりませんが……佐野さんの『NO DAMAGE』の大きな石ね……あ、なるほど。でも、それはなかったんじゃないかなぁ(笑)。






―― 岡村靖幸・中島健人「瞬発的に恋しよう」にカップリング収録された「だいすき remix 2026」のビデオはご覧になりましたか。

塩坂 はい。拝見しました。綺麗に鮮やかになっていたのでビックリしました。僕が最後に配属された部署発行のこのotonanoのキャッチフレーズが「セピアな記憶がクリアな記録に」だったと思うのですが、まさに体現するコンテンツのひとつになっているのではないでしょうか。

―― 次回は岡村靖幸EPICレーベル期制作のミュージックビデオがオフィシャル公開の第2弾(7月公開予定)でまた当時のお話しを聞かせてください。

塩坂 ’89年ぐらいですかね。変わらずAD時代ですが、少しずつ仕事がわかってきた頃でもあるので、よかったらまた色々お話しさせてください。




塩坂芳樹(しおさか・よしき)
●1987年11月株式会社EPIC・ソニー(当時)入社。2024年3月退社までソニーミュージックに36年5か月勤務。岡村靖幸をはじめ、真心ブラザーズ、電気グルーヴ、TOKIO、杏子、BO GUMBOSら数多くのミュージックビデオやセルビデオをディレクター、プロデューサーを務める。

<岡村靖幸の主な映像仕事歴>
・MV「19(nineteen)」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「いじわる」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「いじわる(『eZ Christmas Special Version』)’88|アシスタント・ディレクター
・MV「聖書(バイブル)」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「だいすき」 ’88|アシスタント・ディレクター
・MV「Punch↑」 ’89|アシスタント・ディレクター
・MV「Vegetable」 ’89|アシスタント・ディレクター
・映画『Peach どんなことをしてほしいのぼくに』 助監督(’89劇場公開|監督:坂西伊作)
・MV「友人のふり」 ’89|編集ディレクター
・MV「Peach Time(Video Clip Version)」 ’90|アシスタント・ディレクター
・MV「Peach Time(Complete Version)」 ’90|アシスタント・ディレクター
・TV SPOT「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」 ’90|アシスタント・ディレクター
・セルビデオ『LIVE家庭教師’91』 ’91|ディレクター
・セルビデオ『ファンシーゲリラ VIDEO SHOP '92』 ’93|ディレクター
・MV「Peach X’mas」 ’95|ディレクター
・MV「ハレンチ」 ’96|ディレクター
・セルビデオ『20世紀と伝説と青春』 ’12|ディレクター ほか