2026年4月号|特集 ナイアガラ2026
【Part1】渡辺満里奈スペシャル・ロング・インタビュー|渡辺満里奈が語る『Ring-a-Bell』
インタビュー
2026.4.1
インタビュー・文/油納将志 写真/山本佳代子

2026年3月21日、大瀧詠一プロデュースの伝説的アルバム『Ring-a-Bell』が、未発表音源を追加した30周年記念盤『Ring-a-Bell 30th Anniversary Deluxe Edition』として復刻された。1996年にリリースされた本作は、佐野元春、杉真理、伊藤銀次らナイアガラ・ファミリーが大集結し、奇跡的なセッションによって生み出された名盤だ。2026年にデビュー40周年を迎える渡辺満里奈が、今明かす奇跡のセッションの始まり。全4回にわたるロング・インタビューの第1回は、彼女のディープな音楽的ルーツから、J-POP黎明期における音楽性の変遷、そして憧れの大瀧詠一と出会うまでの軌跡を辿る。
||『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』がもたらした「きれいな音の洪水」||
── 今回、『Ring-a-Bell』が30周年記念盤としてリリースされるにあたり、改めて当時を振り返ってみていかがですか?
渡辺満里奈 当時は本当になんかちょっとフワフワしていたので、どうだったかなっていうところはたくさんありますね。でも、私にとっては本当に天から降ってきたご褒美みたいな感じでした。「うれしい予感」でお声がけいただいたっていうのも青天の霹靂でしたし、私が本当に音楽を好きになるきっかけになった『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』をプロデュースされた大瀧詠一さんから声がかかったっていうのが、もう、ご褒美以外の何物でもなかったですね。
── その『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』との出会いについてですが、過去のインタビューでも「きれいな音の洪水に放り込まれたような気がした」とお答えになっていますね。どのようなきっかけで出会ったのでしょうか。お姉様の影響だとも伺っていますが。
渡辺満里奈 私、2歳上の姉がいまして、姉が貸しレコード屋さんから借りてきた、あのピンク色のジャケットのアルバムを聴いたんだと思います。自分でも聴いてみた時に、「A面で恋をして」を聴いたときの衝撃というか、ときめきというか、それはすごく強くありました。こんな音楽があるんだ、あったんだっていうのは本当に衝撃でしたね。

佐野元春・杉真理・大滝詠一
『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』
1982年3月21日発売
── ご家庭で日常的に音楽がかかっていたというよりは、お姉様の影響が大きかったんですね。
渡辺満里奈 親はそんなことなかったんですけど、姉が結構いろんな曲を聴いたりしていて、好きなものを共有したりしていました。その頃は雑誌の『FINE』が創刊されたりして、サーファーたちが聴きそうな音楽、サザンオールスターズだったり、山下達郎さんだったり、永井博さんのイラストだったりというのが、ビジュアルとしてもものすごく流行っていたんです。
── なるほど。でも、そこからお姉様とは音楽の趣味が分かれていったと。
渡辺満里奈 そうなんです。姉は矢沢永吉さんとか、尾崎豊さんとかそっちのほうに行くんですよ。私は、大瀧さんとか、達郎さんとか、佐野元春さんとかのほうに行きました。だから、今考えてみると、自分の意思で借りてきたものではなくて、家にあったものを聴いたということだったんだと思いますが、私にとって決定的な運命の1枚でしたね。もしもっと後に『A LONG VACATION』なんかで出会っていたら、また違っていたかもしれません。
── その出会いがなければ、その後の展開も違っていたかもしれませんね。その後、ご自身でレコード店に足繁く通って、はっぴいえんどや金延幸子さんなどのアナログ盤を探されていたというお話もありますが。
渡辺満里奈 はい。10代と言ってもデビューした後で、20代の前半くらいだったかもしれないですけど、雑誌の担当編集の方ですごく音楽好きな方がいて。19歳くらいの時に、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズを「すごい、これいいアルバムだよ」って教えてくれたんです。それを聴いて、またこんな音楽があるんだと衝撃を受け、そこからA&Mなどのレーベルの作品を聴き始めました。その時に大瀧さんがいた、はっぴいえんどというバンドがあることを知って、はっぴいえんどを聴き始めたんです。ちょうど20代に入る頃で、レコード屋さんに行ってアナログ盤を買ったりしていましたね。

||アイドルからアーティストへ――先駆的な音楽的探求||
── ’86年のデビュー後、アイドルとして活躍されながらも、徐々に「渡辺満里奈さんはすごく音楽に詳しいよね」という情報が出始め、イメージが変わりつつある時期でした。ご自身の音楽的な志向とアイドルとしてのお仕事のバランスに、ストレスなどはなかったのでしょうか?
渡辺満里奈 その頃にはバラエティ番組とかドラマのお仕事も多くて、別にアイドル、アイドルしなくていい年齢になっていたかなと。自分の好きなものをこれが好きだって言えるような状況だったので、音楽好きなことと仕事とのギャップはほとんど感じなかったです。好きなものを仕事に繋げてもらったりもしていましたし。
── ライヴではご自身の好きな曲を歌ったりもしていましたよね。大瀧さんの「それはぼくぢゃないよ」とか、スティーヴィー・ワンダー、カーペンターズとか。
渡辺満里奈 いや、本当に無茶苦茶だったなって思いますけど、とにかく好きだったらそこで歌っていいみたいな感じだったので。技術が追いつかなくても、好きだから歌いますみたいなことをずっとやってました。今思うと、周りはヒヤヒヤだったんじゃないかなと思いますけどね(笑)。
── 一方で、’86年にソロデビューされた時から、いわゆる王道のアイドルポップスというより、洗練さを伴ったポップスでデビューされていました。EPICソニーという、佐野元春さんや大江千里さん、渡辺美里さんなどを擁する新時代のポップス系音楽を牽引するレーベルに所属し、山川恵津子さんら気鋭の作家陣を起用するなど、J-POP前夜の先駆的な立ち位置にいたとも言えます。ご自身でもそうした意識はありましたか?
渡辺満里奈 最初から、竹内まりやさんとか須藤薫さんとか、カレッジポップスみたいな感じで、いわゆるアイドル楽曲ではないものでいくというコンセプトはあったんです。私自身、キラキラしたアイドル路線とか、工藤静香ちゃんみたいなパンチの効いた路線ではないなと思っていたので、そういう路線は好きでしたし、受け入れやすかったです。デビュー曲の「深呼吸して」も、アップテンポの曲って感じでもないよね、ということで8ビートの曲になりましたし、制作の方々もよく理解してくださっていたんだと思います。

渡辺満里奈
『a piece of cake!』
1990年7月21日発売
── そして’90年のアルバム『a piece of cake!』あたりから、後に「渋谷系」と呼ばれるようなサウンドの影響がある作品へと変遷していきます。フリッパーズ・ギターからの楽曲提供を受けるなど、この頃にはご自身の意見も反映されるようになっていったのでしょうか。
渡辺満里奈 そうですね。ガラッと変わったのが『a piece of cake!』でした。私がすごく好きなアーティストに2曲ずつ書いていただいてアルバムにするというコンセプトで、自分の好きなことを反映してもらって、その辺りから路線が変わったかなと思います。
── 先ほどお話に出た、ご自身のライヴで大瀧さんの「それはぼくぢゃないよ」や金延幸子さんの曲をカバーされていたのも、そうした音楽的探求の延長線上だったのですね。同世代のファンの方々は戸惑ったのでは?
渡辺満里奈 最初から私の楽曲を聴いてファンでいてくださった方はざわついたと思いますけど(笑)。私の中では、段階を踏んで好きなものが広がっていったので、急に路線が変わったという感覚はあまりなかったんです。大瀧さんのはっぴいえんどとか、細野晴臣さん、鈴木茂さん、松任谷由実さん、吉田美奈子さん、金延幸子さんとかを聴く中で、やっぱり大瀧さんのファースト・アルバムはすごくかっこいいなと思っていて。私の知っているナイアガラ・サウンドとは全然違っていて、みずみずしくて、リアルでかっこよくて、とにかく自分が歌いたかったんです。

大滝詠一
『大瀧詠一』
1972年11月25日発売
── 「それはぼくぢゃないよ」のみずみずしい一方で、内面を覗き込むような内省的なところに惹かれたと。
渡辺満里奈 すごくプライベートな感じが新鮮で面白かったし、大瀧さんの声がすごく好きだったんだと思います。

||憧れの大瀧詠一からの青天の霹靂的オファー||
── 古い音楽からエッセンスを抽出して新しい音楽を作るという、レア・グルーヴ的な視点や当時の「渋谷系」の文脈と、ご自身の音楽体験が見事にリンクしていたんですね。実はその頃、テレビ番組で私物の帯付き『風街ろまん』のLPを自慢げに掲げて「オオタキさーん!」と呼びかけたという伝説的なエピソードがありますが、これは本当ですか?
渡辺満里奈 多分ね、やってそうな気はするんです(笑)。当時、テレビで自分の好きなものを紹介する企画や深夜番組が多くて、そこでいろんな好きなものを紹介する機会があったので、やってそうな気がします。
── それが巡り巡って大瀧さんの目に留まり、関係者を通じて満里奈さんがナイアガラ・マニアであることが伝わったのかもしれませんね。当時の大瀧詠一さんと言えば、’84年の『EACH TIME』以降、自身のソロ名義でのリリースがなく、“仙人”や“都市伝説”と呼ばれるほど動向が謎に包まれていました。そんな中、アニメ『ちびまる子ちゃん』の主題歌「うれしい予感」のオファーが来るわけですが、曲が完成した一番最後に満里奈さんに白羽の矢が立ったそうですね。オファーを受けた日のことは覚えていますか?
渡辺満里奈 びっくりしました。なんで自分なんだろう、私でいいのかなって。しばらく歌っていなかったし、本当に青天の霹靂でした。大瀧さんとはまったく接点もなくて、こっちは一方的にすごい好きって言っていただけでしたから。本当に存在するのかなって、都市伝説の人みたいな感じでしたし。求められれば応えるので、お断りするという選択肢はなかったです。また歌が歌えるんだって思いました。

渡辺満里奈
「うれしい予感」
1995年2月22日発売
渡辺満里奈 そうです。OoRECORDSにいた時に大瀧さんが座っていらして、“本当に大瀧詠一っているんだ! 生きてるんだ!”って思いました(笑)。ドアを開けて、後ろを向いていた大瀧さんがくるって回ったようなイメージは浮かぶんですけど、何を話したかとかは舞い上がっていて全く覚えてないんですよ。歌うのも久しぶりだったので、ずっと緊張していて、地に足がつかない感じでした。
── 大瀧さんからどんなことを言われるんだろうと緊張されていたと思いますが、実際はどうでしたか?
渡辺満里奈 レコーディングの時に何をしたかというよりも、合間にずっといろんな話をしたという印象のほうが残っています。どんな音楽が好きなのかとか、どんな映画が好きかとか、雑談ばかりしていました。あ、そうだ、1回だけスタッフの人と一緒にカラオケに行ったんですよ! 大瀧さんが「どんな歌が歌えるんですか?」みたいな感じで。
── それは面白いですね! 大瀧さん流のオーディションだったんでしょうか(笑)。何を歌われたんですか?
渡辺満里奈 松本伊代さんの「センチメンタル・ジャーニー」を1曲だけ歌ったのを覚えています。試験みたいな感じじゃなくて、「じゃあ行ってみますか」みたいな軽いノリだったと思うんですけど。特になんか歌ってすごい褒められたこともないし、可もなく不可もなくみたいな感じでした(笑)。大瀧さんは歌っていなかったと思います。
── 「うれしい予感」のオファーの時点では、まだアルバム『Ring-a-Bell』の制作までは決まっていなかったんですよね?
渡辺満里奈 決まっていなかったと思います。ちびまる子ちゃんの主題歌ということで、作詞がさくらももこさんで、作曲が大瀧さんというのはもうセットで決まっていて、そこに声をかけていただいたという感じでした。さくらももこさんにもレコーディングの時にお会いして、大瀧さんとザ・ビートルズの話とか音楽の話をされていて、とにかく雑談が多かったです。そうやってお話ししている中から、「金曜日のウソつき」みたいな曲が生まれたりしていったんだと思います。

渡辺満里奈
『Ring-a-Bell 30th Anniversary Deluxe Edition』
2026年3月21日発売
(【Part2】に続く)

渡辺満里奈 (わたなべ・まりな)
1970年11月18日生まれ・東京都出身。1986年 CX『夕やけニャンニャン』(おニャン子クラブ会員番号36番)」で芸能活動開始。同年10月8日 「深呼吸して」でソロデビュー。おニャン子クラブ解散後は清潔感あふれる明るいキャラクターを活かしテレビ・CM・雑誌などで活躍。台湾やピラティスをいち早く紹介するなど女性からも注目される。食や手芸を題材にしたナチュラルなライフスタイルを綴る書籍の評価も高く、昨年5月に発売した「更年期」の不調や不安を素直な文章で綴ったフォトエッセイ「不機嫌ばかりな私たち」(講談社)も話題に。
2005年、お笑いトリオ「ネプチューン」の名倉潤氏と結婚。2007年、長男出産、2010年、長女を出産し現在2児の母。
2017年、デビュー30周年の記念企画盤として自信がセレクトした30曲を集めたCD『MY FAVOURITE POP』(ソニーミュージック)を発売。
【レギュラー番組】
TV■TBS系『ひるおび』隔週月曜 10:25~11:30
Radio■ニッポン放送『オールナイトニッポン MUSIC10』毎週木曜 22:00~23:50
Official Website : https://www.marina-watanabe.com/
https://x.com/marina_w1970
山下達郎・伊藤銀次・大滝詠一『NIAGARA TRIANGLE Vol.1 50th Anniversary Edition』Trailer Part2
NIAGARA TRIANGLE 「パレード」 オフィシャル・トレーラー
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【Part2】渡辺満里奈スペシャル・ロング・インタビュー|渡辺満里奈が語る『Ring-a-Bell』
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2026.4.8