2026年3月号|特集 日本シンセサイザー音楽の曙

【Part1】マイカ・ルブテが語るシンセサイザーの魅力

インタビュー

2026.3.2

インタビュー・文/國崎晋 写真/山本佳代子


昨今のアナログシンセサイザー・ブームは、決して懐古趣味ではない。その証拠に若い世代のミュージシャンたちがこぞってヴィンテージ・シンセサイザーを好んで使っている。そんな若きシンセ使いの先駆けといってもいいマイカ・ルブテにインタビュー取材を敢行。ハードオフ通いで買い求めたというヴィンテージ・シンセを中心に、シンセサイザーという楽器や音楽の魅力、そして自身の創作にどのような影響を及ぼしているのかを語ってもらった。

ずっとピアノを弾いていたわけですけど、制限のなさにもすごく衝撃を受けました。


── マイカさんはもともとクラシック畑というか、幼少期からピアノを習っていたんですよね。どんなきっかけでシンセに興味を持つようになったんですか?

マイカ・ルブテ 中学生くらいのときに『ピンポン』(’02年)っていう映画を観たんです。松本大洋さんの漫画が原作で、窪塚洋介さんが主演の映画だったんですが、今まで聴いたことのないような音が聴こえてきて……調べてみたらサウンドトラックにはスーパーカーや石野卓球さんが参加していて、どうやら私が気になったのは“電子音”というものらしいと。その無機質な音にすごく心をつかまれたというか、何も分からないなりにビビッときたんです。

── それでたまらずにシンセを買ったと?

マイカ・ルブテ いや、そのころはまだシンセっていう機材の存在を知りませんでしたから、どうやったら電子音が出せるのかまったく分からなかったんです。一方で、同じ頃にピアノだけじゃなくて作曲に興味を持ち始めて……ビートルズの『ONE』っていうベスト盤にハマって、ロックやポップスが好きになり、バンドっぽい曲を自分でも作ってみたくなったんですね。当時、私はフランスに住んでいたんですが、同級生に歌の上手な子がいて、クラスのみんなでその子のために曲を作ろうということになり、私がピアノを弾けるのをみんな知っていたから作曲担当ということになったんです。そういうこともあったので、14歳の誕生日に親にYAMAHAのポータトーンPSR 1100というキーボードを買ってもらったんです。ピアノやベース、ギター、ドラムなどいろいろな音が出せて、しかも16トラックのシーケンサーを内蔵していたからバンドのサウンドをひとりで作ることができたんです。



── 今だとコンピューターとDAW(Digital Audio Workstation)ソフトでやるようなことができるキーボードだったんですね?

マイカ・ルブテ そうです! 記録媒体はフロッピーディスクでしたけどね(笑)。そのポータトーンにプリセットで入っているいろいろな音を試していたら、『ピンポン』で聴こえていた電子音があったんです。「ああ、これかっ!」って。ただ、ポータトーンではシンセみたいにエディットすることはできなくて……。というか、そのころはまだエディットということも分かってなかったんですけどね。

── それでちゃんとしたシンセを買いたくなった?

マイカ・ルブテ いや、それが違うんです。ポータトーンの後はBOSSのマルチトラック・レコーダーを使うようになり、高校生になって日本に戻ってきてからは、Apple Macを買ってLogicで曲作りをするようになりました。そのLogicにソフトシンセがプラグインとして用意されていたので使うようになったんです。だから最初に使ったシンセはソフトシンセということになりますね。

── ハードウェアのシンセに興味を持つようになったのは何かきっかけがあったんですか?

マイカ・ルブテ 家の近所にハードオフがあって、そこでROLANDのJuno-106っていうシンセが売られていたんです。実機……ハードウェアのシンセを初めて見てビビッと来たんですが、一方で「重いなぁ~」とも思って(笑)。でも、ちょっとアルバイトすれば買えるくらい安かったので、興味本位みたいな感覚で買っちゃったんです。で、家に持って帰って電源を入れてヘッドホンをつないで音出しをしたとき、Logicのソフトシンセとは別次元っていうか、本当に聴いたことのない低音が聴こえてきたんです。レンジがものすごく広いっていうんですかね……「うわぁ~!」ってなって、それが私にとってのシンセの原体験になりました。そこから本当に病みつきになって、来週もハードオフに行ってみようって(笑)。



── Juno-106をいじり倒すんじゃなく、またハードオフへ行って別のシンセを買おうとしたんですか?(笑)。

マイカ・ルブテ もちろんJuno-106をディグりましたけど、ほかのシンセもいじってみたいっていう気持ちが強くて……それくらい実機のシンセの音が衝撃的だったんですよね。それと、ずっとピアノを弾いていたわけですけど、ちょっと違う種類っていうか、制限のなさにもすごく衝撃を受けました。フィジカルな感じ……ツマミをいじると想像もしてない音になるのが面白くて。

── その感じはソフトシンセでは味わえなかったんですか?

マイカ・ルブテ Logicでソフトシンセを使い始めたころはシンセの知識がほとんどなくて、フィルターとかLFOとかパラメーターのことがよく分かってなかったんです。逆にそういう知識がなかったから、ツマミをいじって音が劇的に変わる実機のシンセが面白く感じたのかもしれないですね。ツマミをいじるっていう身体的な気持ち良さみたいなものがあり、それが音質の魅力に伴っている感じですね。

── その後、本当にハードオフ通いをしたんですか?

マイカ・ルブテ はい、毎週……というと言い過ぎですが、ちょくちょくハードオフへ行ってビビっと来るシンセを探していました。

── そんなにたくさんシンセがあるハードオフだったんですか?

マイカ・ルブテ そうなんです(笑)。有名なミュージシャンが「もういらない」って手放しているのかな~って思っていました。



── 実際、ハードオフでまたシンセを買ったんですか?

マイカ・ルブテ はい、ROLANDのPromarsを買いました。ルックスに惹かれて買ったんですが、同じROLANDなのにJuno-106とは音が全く違って驚きました。特にベースの音を出すとすごく太くて、シンセによってこんなに音が違うんだっていう面白さに目覚めたというか……。

── 気付いちゃったんですね?

マイカ・ルブテ はい、アナログシンセは1台持っていればそれでいいってわけではないことに気付いちゃいました(笑)。

── Promarsは単音しか出せなくてモノフォニックシンセで、和音が弾けませんが、ピアノを弾いていたマイカさんからすると不自然に感じたのでは?

マイカ・ルブテ 思いました! 一瞬、壊れているのかって思いましたけど、でも、ああ、こういうものなのね~みたいな(笑)。

── Juno-106はMIDI端子が付いていますから、Logicで鳴らすことができますが、PromarsはMIDIが付いていないですよね。不便だとは思いませんでしたか?

マイカ・ルブテ やっぱり鍵盤上がりなので、打ち込みをするより手で弾いてしまった方が早いんで、MIDIがないことにあまり不便は感じなかったですね。Juno-106もMIDIで鳴らすことはしないで、とにかく手で弾いてLogicに取り込んじゃいます。アナログシンセを手で弾いてどんどん取り込んでいって曲を作るっていうのが自分のスタイルというか方法論なんです。

(【Part2】に続く)




●マイカ・ルブテ (Maika Loubté)

音楽家。幼少期から十代までを日本・パリ・香港で過ごし、クラシックピアノを学ぶ。現在は東京を拠点に活動をしている。音大在学中にビンテージアナログシンセサイザーと出会い、電子音楽の世界に魅了される。現在もエレクトロニックミュージックを基軸に、ジャンルを超えた音楽制作に取り組んでいる。

自身の作品リリースに加え、多数のアーティストのライブやレコーディングに参加。 プロデューサー、リミキサーとしても活動する。2026年3月現在開催中の「攻殻機動隊展」の空間音楽や、Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 A/W、23区、ランドリン、Google、GMOなど多様なブランドや企画の音楽制作も手がける。その他、アニメ『キャロル&チューズデイ』(渡辺信一郎監督)への楽曲提供や、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(坂元裕二脚本)では歌唱参加を果たすなど、映像作品との親和性においても注目を集めている。

2020年発売のシングル「Show Me How」がMAZDA MX-30のTVCMに起用され、本人も出演した。2021年にアルバム『Lucid Dreaming』をリリースし、翌2022年にはSpotifyのEQUALプログラムに選出、ニューヨーク・タイムズスクエアのビルボードに登場。その他、SUMMER SONICや朝霧JAMなどの国内の大型フェスへも出演。世界中のアーティストとのコラボレーションや海外でのライブツアーも行う。

映画音楽やCM音楽、楽曲提供、サウンドプロデュース、リミックス、DJ、日・仏・英語での歌唱提供、ナレーションなど多角的に活動中。2026年4月1日には最新アルバム『House of Holy Banana』をリリース予定。

https://www.maikaloubte.com/
@maika_loubte
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@MaikaLoubté


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