2026年2月号|特集 ドラマの劇伴

【Part4】日向敏文スペシャル・ロング・インタビュー

会員限定

インタビュー

2026.2.24

インタビュー・文/大谷隆之 写真/島田香


【Part3】からの続き)

僕は『東京ラブストーリー』の劇伴で、いわゆる作家的な自己主張をほとんどしていません(日向)


── 再発されるサントラ盤『東京ラブストーリー 35th Anniversary Edition』の収録曲について、もう少し個別に見ていきましょう。3曲目「So Far Away」は曲名どおり、広大なランドスケープが脳裏に浮かぶナンバーです。どこか80年代のパット・メセニー・グループにも似たサウンドがとっても爽やかで。

日向敏文 これも制作スタッフのオーダーではなく、僕の方から提案したんじゃなかったかな。アレンジはわりとシンプルなんだけど、編成にちょっとした遊びがありまして。アコースティックギターをバックに主旋律を吹いているのが木管楽器のオーボエなんです。さっきお話ししたように、「Good Evening, Heartache」のグロッケン(小型の鉄琴)がスタッフに好評だったでしょう。なので、こういうテレビドラマではあまり耳にしない楽器をさりげなく入れてみたら面白いかなと思った。木管のやわらかい音色をイメージしつつ、メインのメロディーから書いていった記憶があります。

── 作曲だけでなく、どのパートを誰に演奏してもらうかを選ぶのも日向さんの仕事だったんですね。6曲目「Promise」はいかがでしょう。ピアノ独奏をベースにした、しっとりと切ない空気が耳に残りますが。

日向敏文 これは珍しく、特定の登場人物をはっきり思い浮かべた書いた曲。このサントラに入っている曲の中で唯一かもしれません。ベースになっているのは有森也実さん演じる「さとみ」のイメージです。彼女の表情、たたずまい、シーンの空気感。そういった要素を意識しながら作りました。

── たしかにこの叙情的な曲調、さとみの登場シーンでよく流れていた印象があります。

日向敏文 まず最初にスタッフから「ここで使いたい」という場面映像を見せてもらったんじゃなかったかな。記憶が曖昧ですけど、たぶんそんな流れだった気がします。というのはこの曲、’91年版のサントラ盤では尺が1分しかないんですよ。収録曲の中で突出して短いでしょう。おそらく発注時に提示された素材が1分で、それに合わせて書いたんだと思う。再発盤では、それを編集で2分弱に伸ばしたんですよ。


日向敏文
『東京ラブストーリー 35th Anniversary Edition』

2026年2月25日発売


── 今回の『東京ラブストーリー 35th Anniversary Edition』では、旧サントラ盤に収録された13曲のうち9曲が日向さん自身の手でリエディット(再編集)されています。その中で長くなったのは、実はこの「Promise」だけなんですね。ほかの8曲はすべて、よりタイトに刈り込まれている。

日向敏文 はい。’91年に出したオリジナルサントラは、とにかく突貫作業でしたから(笑)。ドラマに合わせて急ピッチで作ったフラグメント(曲の断片)を組み合わせ、アルバムの体裁を整えざるをえなかった。しかもレコード会社からの要望で、なるべく収録時間を伸ばす必要があったので。音楽家として厳しくジャッジすると正直ムダに長い。ほとんどの楽曲は、聴き返すと「ここはもっと短くていい」というパートが出てきます。せっかくの再発なので、そういう冗長な表現は細かくブラッシュアップさせてもらった。

── たとえばメインテーマ「Tenderly ~ Rica’s Theme」は、実に20秒以上も短縮されています。と同時に、聴き手に変化を感じさせないところもプロの技だなと。



日向敏文 (ひなた・としふみ)
1955年2月23日、東京都大田区生まれ。’73年に学習院高等科を卒業後渡英。サーレイ州ファーナムのオートバイ会社でアルバイトをしながら生活をする。’74年に渡米。’75年7月にウィスコンシン州アッシュランドのノースランド・カレッジに入学。キーボーディストとして、地元のブルース・バンドやビッグ・バンドに参加するなど、本格的に音楽活動を開始。’76年8月には、ボストンのバークリー音楽大学へ転校。’78年8月には、ミネソタ州立大学(University of Minnesota -Duluth)の外国人奨学金を獲得して、同校音楽部へ転校。以降4年間に渡って、クラシカル・ピアノを専攻し、理論、作曲、オーケストレーションを学ぶ。自己のリサイタル、歌曲や独奏楽器の伴奏、室内楽、オーケストラなど、音楽全般にわたり活動。’82年には、同大学卒業ののち、ミネソタで音楽家としての活動を開始。

’85年に、1stソロ・アルバム『サラの犯罪』をアルファレコードからリリース。続けて、’86年には、2ndアルバム『夏の猫』と、3rdアルバム『ひとつぶの海』をリリース。その後もコンスタントにソロ・アルバムを制作してきた。

’91年には『東京ラブストーリー』の劇伴を担当。ドラマ・サントラとしてはオリコン・アルバムランキング最高第5位となる異例のヒットを記録する。’97年に手掛けた、ドラマ『ひとつ屋根の下2』の挿入歌「ひだまりの詩」(歌:Le Couple)は、オリコン・シングルランキング第1位を記録、180万枚の大ヒットとなった。’97年のオリコン年間ランキングでも第3位となり、同年の日本レコード大賞優秀作品賞を受賞。Le Coupleのブレイクスルー・ナンバーとなり、彼らは『第48回NHK紅白歌合戦』の出場を果たした。

また、松たか子、佐藤奈々子、Le Couple、竹内結子、中山美穂、KOKIA、ダイアナ ロスなどに楽曲提供、トヨタ、コカ・コーラ、資生堂、アサヒビールなどの多くのCM音楽など、多岐に渡って活躍している。

近年では、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』 、NHK『ETV特集』、「NHK BSスペシャル」、NHK BSドキュメンタリー番組などの音楽を多数担当、管弦楽、室内楽などの音楽も多数作曲している。

’86年に発表した楽曲「Reflections」は、TikTokでの拡散や米ラッパーによるサンプリングをきっかけに海外のZ世代を中心に爆発的な人気を博し、2025年時点で全世界のストリーミング再生回数が1億3300万回を突破、世界的なロングヒットを記録中。

『東京ラブストーリー』サウンドトラックが、35周年記念盤としてCD復刻と初アナログ化!