2026年2月号|特集 ドラマの劇伴

【Part3】日向敏文スペシャル・ロング・インタビュー

会員限定

インタビュー

2026.2.17

インタビュー・文/大谷隆之 写真/島田香


【Part2】からの続き)

『東京ラブストーリー』の半分は、スタッフから「こういう目的でこういう曲をください」と具体的に示された曲。残り5曲は、僕が勝手に「劇中にこんな曲が流れても面白いんじゃない?」と考えた曲(日向)


── サントラ盤の5曲目に収録されている「Tenderly ~ Rica’s Theme」。『東京ラブストーリー』の劇伴と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべる象徴的ナンバーです。日向さんがスタッフから求められた「明確な役割り」とは、一体何だったのでしょう?

日向敏文 端的にいうと、わかりやすいフックですかね。その頃の作り手たちは、視聴者をドラマの世界に引き込むことに異常なほどこだわっていた。50分なら50分、見ている人の集中力をいかに切らさず、興味を持続させるか。そのために過激なセリフの置き場所からCMを挟んだ場面転換までとことん計算して作ろうとしていました。彼らにとっては劇伴もその重要なツールだったと思います。つまり、パッと耳に飛び込んできて気持ちをわしづかみにするような楽曲がほしいと。だから「Tenderly ~ Rica’s Theme」で最初に書いたのは、実は中盤以降に急にテンポアップする部分なんですよ。

── アコースティックギターが“♪ジャーン、ジャカジャカ”と鳴りはじめるところですね。今回のリイシュー版『東京ラブストーリー 35th Anniversary Edition』収録ヴァージョンでいうと、1分40秒あたり。

日向敏文 ええ、まさに。これについては発注段階でスタッフから明確な指示がありました。正確な表現は忘れちゃったけれど、それこそ「ジャカジャカ勢いのあるテンポで」みたいなニュアンスで(笑)。要は視聴者の気持ちが一気に高まる、ノリのいい曲調が必要なんだと。何度もそう念を押され、「ふーん、ドラマはそうなんだ」と思ったのを覚えてます。もちろん劇伴だけじゃない。聞いた話だと、制作スタッフは小田和正さんにもそうとう強めの要望を出してたみたいですね。小田さん、とにかく導入部をキャッチーにしてください!って。普通なら、怖くてなかなか言い出せないと思うんだけど(笑)。


日向敏文
『東京ラブストーリー 35th Anniversary Edition』

2026年2月25日発売


── 年間シングルチャート1位を記録した「ラブ・ストーリーは突然に」ですね。印象的なギターを弾いているのは当時売り出し中だった佐橋佳幸さん。イントロ前に入る“♪チャカチャチャーン”というフレーズは、レコーディング終了後に「まだ何か足りない」と悩んでいた小田さんを見て、佐橋さんが急きょ提案したものだそうです(能地祐子『佐橋佳幸の仕事1983-2025 EN』リットーミュージック)。

日向敏文 それくらい、作り手の音楽に対する目的意識が明確だったんでしょうね。劇伴の制作プロセスでも、それはつねに感じていました。

── たしかに「Tenderly ~ Rica’s Theme」のアコギのカッティングは鮮烈ですよね。『東京ラブストーリー』の数多い名シーンと記憶の中で完全にシンクロしている。せっかくなので1か所だけ。有名な第1話のラスト間際を見てみましょう。急な仕事のトラブルで残業したカンチ(織田裕二)とリカ(鈴木保奈美)がお互いに離れがたく、なかなか「バイバイ」が言えない名シーンです。



日向敏文 (ひなた・としふみ)
1955年2月23日、東京都大田区生まれ。’73年に学習院高等科を卒業後渡英。サーレイ州ファーナムのオートバイ会社でアルバイトをしながら生活をする。’74年に渡米。’75年7月にウィスコンシン州アッシュランドのノースランド・カレッジに入学。キーボーディストとして、地元のブルース・バンドやビッグ・バンドに参加するなど、本格的に音楽活動を開始。’76年8月には、ボストンのバークリー音楽大学へ転校。’78年8月には、ミネソタ州立大学(University of Minnesota -Duluth)の外国人奨学金を獲得して、同校音楽部へ転校。以降4年間に渡って、クラシカル・ピアノを専攻し、理論、作曲、オーケストレーションを学ぶ。自己のリサイタル、歌曲や独奏楽器の伴奏、室内楽、オーケストラなど、音楽全般にわたり活動。’82年には、同大学卒業ののち、ミネソタで音楽家としての活動を開始。

’85年に、1stソロ・アルバム『サラの犯罪』をアルファレコードからリリース。続けて、’86年には、2ndアルバム『夏の猫』と、3rdアルバム『ひとつぶの海』をリリース。その後もコンスタントにソロ・アルバムを制作してきた。

’91年には『東京ラブストーリー』の劇伴を担当。ドラマ・サントラとしてはオリコン・アルバムランキング最高第5位となる異例のヒットを記録する。’97年に手掛けた、ドラマ『ひとつ屋根の下2』の挿入歌「ひだまりの詩」(歌:Le Couple)は、オリコン・シングルランキング第1位を記録、180万枚の大ヒットとなった。’97年のオリコン年間ランキングでも第3位となり、同年の日本レコード大賞優秀作品賞を受賞。Le Coupleのブレイクスルー・ナンバーとなり、彼らは『第48回NHK紅白歌合戦』の出場を果たした。

また、松たか子、佐藤奈々子、Le Couple、竹内結子、中山美穂、KOKIA、ダイアナ ロスなどに楽曲提供、トヨタ、コカ・コーラ、資生堂、アサヒビールなどの多くのCM音楽など、多岐に渡って活躍している。

近年では、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』 、NHK『ETV特集』、「NHK BSスペシャル」、NHK BSドキュメンタリー番組などの音楽を多数担当、管弦楽、室内楽などの音楽も多数作曲している。

’86年に発表した楽曲「Reflections」は、TikTokでの拡散や米ラッパーによるサンプリングをきっかけに海外のZ世代を中心に爆発的な人気を博し、2025年時点で全世界のストリーミング再生回数が1億3300万回を突破、世界的なロングヒットを記録中。

『東京ラブストーリー』サウンドトラックが、35周年記念盤としてCD復刻と初アナログ化!