2025年12月号|特集 佐野元春 CHRISTMAS TIME IN BLUE

2025.12.22 ROCKIN’ CHRISTMAS 2025 Special Live Report

レポート

2025.12.24

取材・文/森朋之


佐野元春 & THE COYOTE BAND 〈ロッキン・クリスマス 2025〉
2025年12月22日(月)恵比寿ザ・ガーデンホールLIVEレポート


 恵比寿駅を降り、ガーデンプレイスに向かうと全長約10メートルの美しいツリーが目に入る。シャンパンゴールドを基調とした約10万球の光のイルミネーションは、この時期の東京を象徴する光景。クリスマス・マーケットもたくさんの人たちで賑わっていて、華やかな雰囲気が広がっている。

 佐野元春 & THE COYOTE BANDが〈ロッキン・クリスマス 2025〉を東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで開催した。
 
 今や恒例となった〈ロッキン・クリスマス〉のスタートは2011年。ホットスタッフ・プロモーション主催のライヴ・イベント〈L’ULTIMO BACIO〉の一環として行われてきた。

 2015年には、この年の夏からバンドに加わった藤田顕(G)が初参加。2018年は東京・大阪・名古屋で行われ、翌2019年には東京・大阪・名古屋・熊本を回るツアー形式での開催となった。

 2020年、2021年はコロナ禍の影響により中止。2022年は3年ぶりに開催され、2023年は東京・大阪で“制限なし”での公演が実現した。

 クリスマスならではのステージ展開、ただのパーティーでは終わらないストーリー性のあるセットリストがこのイベントの魅力。通算13回目となった〈ロッキン・クリスマス2025〉でも、ロックンロールの楽しさと奥深さを体感できる、最高のステージが繰り広げられた。

会場で配布された〈ロッキン・クリスマス2025〉ポストカード


 会場のロビーでは、観客の皆さんがドリンクやタパスを楽しんでる。赤や緑のクリスマスカラーを身にまとったり、サンタ帽を被っている方も。開場時のBGMは、「Santa Bring My Baby Back(To Me)」(エルヴィス・プレスリー)、「White Christmas」(フランク・シナトラ)、「Winter Wonderland」(アレサ・フランクリン)など。リラックスと高揚感が混ざり合う、とてもいいムードだ。

 19時を過ぎると客席の照明が落とされ、客席からは拍手と歓声が沸き上がった。スクリーンには雪が降り、最後に「Peace On Earth」という文字が。そしてTHE COYOTE BANDのメンバーと佐野元春がステージに登場し、オープニングナンバー「君が気高い孤独なら」へ。佐野元春&THE COYOTE BANDのはじまりのアルバム『COYOTE』に収録された楽曲だ。“Sweet Soul, Blue Beat”というフレーズを観客が合唱し、アウトロでは藤田顕(G)が「Santa Claus Is Coming To Town」のメロディを奏でる。続いて「世界は慈悲を待っている」。この曲でも佐野は、タンバリンを叩きながらスタンドマイクに向かって歌う。タイトに洗練されたバンドサウンドとともに放たれるのは“今すぐに君の窓を開け放ってくれ”。カモン! という佐野のシャウト、オーディエンスの強いハンドクラップも心地いい。

 「クリスマス・ライヴ、今年もここで演奏できてとてもうれしいです。一緒に演奏するのはTHE COYOTE BAND。今夜は楽しくいこう」と呼びかけて始まったのは、「バイ・ザ・シー」。主人公は仕事を探している男性。物事は思ったように進まず、途方に暮れている彼が望んでいるのは、君と街を離れて、週末を海辺で過ごすこと。そんなストーリーがラテン風のアレンジともに描かれ、心と身体が踊り始める。サビではバンドメンバー全員によるコーラスが響き、“本当に欲しいものは何”というフレーズにさらなる奥行きを与えていた。長めのアウトロでは藤田と渡辺シュンスケ(Key)がユニゾンのソロを奏で、客席からは華やかな歓声が沸き起こった。

 佐野のブルースハープに導かれたのは「冬の雑踏」。両手で“座って”と合図を送り、観客は椅子に座ってじっくり聴く姿勢に。おだやかなグルーヴ、抑制が効いたメロディライン、そして、人々の優しい思いが交差するこの曲もまた、クリスマスの季節にぴったりだ。

 ここで佐野はアコギを手にして、深沼元昭(G)とともにイントロを奏でる。「夜空の果てまで」。ハモンドオルガンの美しい音色、小松シゲル(Dr)と高桑圭(B)によるシックな手触りのリズムセクション、豊かなギターのアンサンブルが印象的だ。ただ生きているだけの毎日ではさみしい。“変わらない愛の記しを見つけに行こうぜ”と呼びかける歌とミラーボールの光が重なり合い、ポジティブな気分が心のなかに宿る。

 続いて演奏された「US」は、この夜の最初のハイライトだった。骨太なサウンドが渦巻くなかで奏でられるのは、“Why can’t we be friends?”というライン。やはりアルバム『COYOTE』の楽曲だが、リリースされた2007年以上に、2025年の世界においてこのメッセージは強いインパクトを放っている。エモーショナルな佐野のボーカルにも激しく心を打たれた。
 
 「僕らにとって今年1年は有意義な年でした。バンドのメンバーはどうだったか、聞いてみたいと思います」という佐野の提案で、珍しくTHE COYOTE BANDの面々がMC。ツアーでいろんな場所を回って、行ったことがない県は一つだけになりましたと話したのは小松。さらに深沼元昭(G)が「今年は自分のミュージシャン人生で最高の年かもしれない。それを20年続けているのがTHE COYOTE BANDなんです」と胸を張り、「ツアーが始まったときに体力が持たないと思って、腕立てを始めました。もう大丈夫です!」と藤田が笑いを誘う。このリラックスした雰囲気もクリスマス・ライヴならではだろう。


佐野元春 & THE COYOTE BAND
『HAYABUSA JET Ⅱ』

2025年12月10日発売


 ライヴ前半の最後は、リリースされたばかりの『HAYABUSA JET Ⅱ』から。「ニセモノばかりの世の中で、あの娘だけはリアル」というキメ台詞から始まった「レインガール」(New Recording)。アウトロの“LaLaLa…”はもちろん大合唱。両手でサムアップする佐野の笑顔も印象的だ。そして、ファンへの想いをストレートに歌った「君を想えば」(New Recording)へ。佐野とオーディエンスの親密なつながりを感じさせるステージによってライヴは最初のピークに達した。

 おしゃべりを楽しんだり、ロビーでワインやシャンパンを味わったり。リラックスした約20分のインターミッションを過ごしたあと(BGMは「Silent Night」ザ・テンプテーションズ、「It’s Christmas Time」スモーキー・ロビンソンなど)、ライヴは再開した。


佐野元春 & THE COYOTE BAND
『HAYABUSA JET Ⅰ』

2025年12月10日発売


 後半の幕開けは「ジュジュ」(New Recording)。モータウン系のビート、ポップに弾むメロディによって会場全体のテンションが心地よく上がっていく。赤いストラトを鳴らす佐野の軽快にしてシャープな歌声もめちゃくちゃ魅力的だ。

 「食事楽しんでいただけました? タパスやオードブルも年々クオリティがアップしていると思うんだけど」というフレンドリーなトークの後は、「街の少年」(New Recording)。アルバム「サムデイ」収録曲「ダウンタウンボーイ」の“再解釈”バージョンだ。ニューヨークの摩天楼、20代後半の佐野の映像をスクリーンに映し、80年代と現在がダイレクトにつながっていく。客席から拍手、歓声、口笛、“元春!”という声が飛ぶ。

 ここで披露されたのは、クリスマス・ライヴだけで演奏されてきた“コヨーテのクリスマスソング”「みんなの願いかなう日まで」。ロマンティックな楽しさに溢れたメロディが広がり、ステージと客席が一つになっていく。〈メリークリスマス〉をリフレインするエンディングの幸福感もこの日のライヴの大きなポイントだった。歌詞に合わせて「Hey!ここにいるよ!」と呼びかけるシーンも心に残った。


佐野元春 with THE HEARTLAND
「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」

2025年11月5日発売
Blu-spec CD2|MHCL 31102
「みんなの願いかなう日まで」を含む全5曲収録


 「今年のツアーはすべての場所が満席だったんですよ。みんな、いい顔をしてるんです。今日もみなさんいい顔をしてますね!」(高桑)
 「フェスにもたくさん出させてもらって。ケータリングでごはんが出るんですけど、小松くんは毎回コンプリートしてました。……メリークリスマス(笑)」(渡辺)
 というメンバーのコメントからライヴは後半へ。まずはスカのリズムと愛をテーマにしたリリックが響き合う「愛が分母」。「シュンちゃん!」というコールから始まったハモンドオルガンのソロ演奏、ツインギターのハモリ、そして観客の“Say Yeah!”も楽しい。さらに小松のカウントから「境界線」へ。前に前に進んでいくドライヴ感に溢れたアンサンブルと〈境界線を超えていこう〉というメッセージが一つになったこの曲は45周年アニバーサリーツアーでも大事な役割を果たしていた。

 そして、個人的にもっとも印象に残ったのは「いばらの道」だった。アルバム『ENTERTAINMENT!』の最後に収められたこの曲の英題は“All Our Trials”(すべての我々の試練)。どんな試練があっても、それはすべていつか来た道になる。きっと明日はよくなるはず……祈りにも似たこの歌をクリスマス・ライヴで演奏することの意義はとても大きいと筆者は思う。


佐野元春 & THE COYOTE BAND
『ENTERTAINMENT!』

2022年7月6日配信


 空まで上がっていくようなビートに導かれた「La Vita e Bella」には鐘の音が加えられていた。この日いちばん大きいハンドクラップとともに奏でられるのは、そう、“この先へもっと”というメッセージだ。
 
 「いつもこの時期に思うのは、戦争で傷ついた子供たちがいること、大人たちがいること。僕らの世界が本当の平和を手にすることを祈って、この曲を歌います」

 そんなステイトメントとともに演奏されたのは、「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」。オーセンティックなラヴァーズロックを基調にしながら──この曲のベースラインは本当に気持ちいい──切なく、愛らしいメロディラインが会場を包み込む。“愛してる人も愛されてる人も”から始まるシークエンスではリリックが映し出され、客席の歌声が少しずつ大きくなっていく。そして“All together now!”というシャウトから“Tonight’s gonna be alright”のコール&レスポンスへ。それは間違いなく、今年のロッキン・クリスマスの大きなハイライトだった。今年ほど、この曲の込められた想いが響いた年もなかったのではないか……そんな気持ちにもなった。


佐野元春 with THE HEARTLAND
「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」

2025年11月5日発売
完全生産限定盤|40周年記念盤|ピクチャーレコード|MHJL 402


 楽曲のエンディングで「Santa Claus is coming to town」のフレーズを手渡した佐野。バンドメンバーを改めて紹介した後、「ここに集まってくれたみなさんにも大きな拍手を送りたいです」と語りかけた。

 メンバー全員が順番に「メリー・クリスマス!」を贈り、本編は終了。もちろん手拍子は鳴り止むことなく、すぐにアンコールが始まるTHE COYOTE BANDの5人はクリスマス柄、カラーのセーターや洋服に着替え、小松はなんとサンタ帽。「今夜もっとロックしよう!」と呼びかけ、「エンタテイメント!」が勢いよく放たれる。さらにピュアなビートと真っ直ぐな恋心がひとつになった「純恋(すみれ)」を挟み、45年前のデビューシングル「アンジェリーナ」へ。“愛することさえ分け合えればI love you”“You love me”のエネルギッシュなやり取り、「キナくさい世界を吹き飛ばすために、もっと景気よくいこう!」という言葉とともにビートは加速。一瞬のブレイクの後、佐野のカウントによって再びイントロフレーズが響きわたる。会場を満たしたのは、優れたロックンロールだけがもたらす歓喜と興奮だ。


佐野元春オフィシャルFacebookより 写真/アライテツヤ


 「今年は長いツアーを回り、どこも盛況でうれしかったです。今年1年のお礼をみんなに言いたい。どうもありがとう! 来年もまた新しい曲やライヴでみなさんと会いたいです。メリー・クリスマス、そして、よいお年を!」という挨拶で〈ロッキン・クリスマス 2025〉はエンディングを迎えた。記念すべき1年の最高の締めくくりだった。

 ライヴ後の心地よい高揚感を連れて恵比寿駅まで歩く。何が起きるかわからない世界だけど、来年も希望を持って進んでいきたい。そんなポジティブなパワーを感じていたのは、筆者だけではないだろう。そして強く願う。1年後のクリスマスにも、こんな素敵な時間を過ごしたいと。

(了)



▲佐野元春 with THE HEARTLAND
40周年記念盤「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」


▲ウェブマガジンotonano Annex
佐野元春デビュー45周年スペシャル・エディション
「Motoharu Sano 45」