2025年12月号|特集 佐野元春 CHRISTMAS TIME IN BLUE
【Part4】「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」誕生前夜❷|CHRISTMAS TIME IN BLUEストーリー
解説
2025.12.17
文/小川真一

(【Part3】からの続き)
託されたさまざまな想いは今なお聴き手に静かな余韻と問いを投げかけ続けている──
そして、今回ウェブマガジンotonano12月号で掲載された萩原健太氏による「佐野元春スペシャル・ロング・インタビュー」では、さらに興味深い事実が明かされている。
「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」が、真冬のマンハッタンで生まれたという事実だ。これは意外だった。初めてこの曲を耳にしたとき、そこに広がっていたのは紛れもなく日本の都市の光景だった。雨上がりのアスファルトにネオンがぼんやりと滲み、ビルの谷間を抜ける風が夜の匂いを運んでくる。そんな東京の冬の湿度や、街のざわめきの温度が、旋律の細部にまで染み込んでいるように思えたからだ。
ところが実際には、この曲が作られたのは、冬のニューヨーク。骨の髄まで冷えるような空気が満ち、どこか荒涼とした気配すら漂う季節だ。佐野元春は、その寒さに凍えるマンハッタンの一室で、安いピアノに向かってこの曲を紡いだという。そう聴くと、また別の印象がこの曲から漂ってくる。
この曲にとりまいている、“BLUE”の正体について、もう一度考えてみよう。異国で、異邦人として感じる孤独感と、住み慣れた都会でのそれとは、質が大きく異なっている。誰にも救いを求めることのできない憔悴は、自分が世界そのものから切り離れていくような孤立感を呼び起こすだろう。けれど同時にこれは、世界をもっとも親密に感じる瞬間でもあったのだと思う。
その井戸の底のように深い孤立感(BLUE)を胸に抱きながら、軽やかな口調で「メリー・クリスマス」と歌う。世界には様々な人たちがいる。どんな気持ちの中にいようとも、この日は祝祭の挨拶をする。鐘を打ち鳴らそう、今夜だけはきっと大丈夫。この細やかなる連帯が、「CHRISTMAS TIME IN BLUE」の希望の光であったのだと思う。だから毎年のように、この曲を聴きたくなってしまうのだ。

▲佐野元春 with THE HEARTLAND
40周年記念盤「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」

▲ウェブマガジンotonano Annex
佐野元春デビュー45周年スペシャル・エディション
「Motoharu Sano 45」