2025年12月号|特集 佐野元春 CHRISTMAS TIME IN BLUE
【Part1】 「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」 40周年記念アナログ&CDリリース|CHRISTMAS TIME IN BLUEストーリー
解説
2025.12.1
文/小川真一

40年を経ても変わらず、目に見えない糸で人々をつなぎ、聴き手の心に淡い光を灯す――
佐野元春が1985年に発表したクリスマス・ソング「CHRISTMAS TIME IN BLUE ―聖なる夜に口笛吹いて―」が、発売40周年を記念してCDとアナログ12インチの両フォーマットで復刻された。このニュースを耳にしたとき、とても誇らしい気持ちになった。と同時に、時の流れの速さにも驚かされた。絶えず揺れ動くポップ・ミュージックの潮流の中で、40年という歳月は決して短くはない。さまざまなものが記憶の彼方に追いやられ、廃墟のように積み重なっていく。ヒット曲ですら、時代の変化に押し流され、聴かれる理由を失うことも珍しくない。
にもかかわらず、この曲はまったく色あせない。イントロの軽やかな歌声が流れ始めた瞬間、初めて聴いたあの時間に引き戻され、そのときの印象が鮮やかに蘇る。むしろ、時の地層を重ねるたびに、その輪郭はより明確になっていくように感じられる。それは2025年になった今も、まったく変わらない。

Vinyl A side 「CHRISTMAS TIME IN BLUE ―聖なる夜に口笛吹いて―」
今回のアナログ12インチはピクチャーディスク仕様となっている。これまでシングル盤、12インチ、CD、カセット・ブックなどさまざまなフォーマットで曲を発表してきた佐野元春だが、ピクチャーディスクは初めてである。「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー(Vocal / Extended Dub Mix)」が収められSide-Aの盤面には、ジャケットと同じく牧野良幸によるイラストが飾られている。
Side-Bには「CHRISTMAS TIME IN BLUE」のオリジナル・ヴァージョンと、インストゥルメンタルのオーケストラ・ヴァージョンの2曲が収録され、盤面は佐野のモノクロのポートレイトになっている。アナログ盤のセンターホールが写真の頬に重なり、まるで泣きぼくろのように見えるのが面白い。

Vinyl B side 「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」
45回転のアナログ12インチならではの豊かな低音で、ベースラインが雄大に響く。特にパーカッションの多彩な表現にはあらためて驚かされる。シンプルな構成ながら、精細なスティック・ワークが鮮明に耳に届いてくる。A面のダブ・ヴァージョンでの鐘の音の後に聴こえる、隠された「Merry Christmas」の囁きも、しっかりと確認できることだろう。
オーケストラ・ヴァージョンでは、ドラムスの古田たかしのスネアが真正面から響き、アコースティック・ギターやピアノの柔らかなタッチがその周囲を包む。神々しい男女のコーラスが空間を満たし、そこに矢野誠によるストリングス・アレンジメントが重なり合っていく。その音が消え、また立ち上がるたびに録音スタジオの空気感までもが目の前に広がっていくようだ。

佐野元春 with THE HEARTLAND
「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」
2025年11月5日発売
完全生産限定盤|40周年記念盤|ピクチャーレコード|MHJL 402
歴代のアナログ盤・CDを聴き比べてみると、今回のリイシューでは音が引き締まり、音圧も高くなっている。ヴォーカルの余韻も滑らかで、今回のリリースがベストではないだろうか。ヴァージョン違いの3曲の差も明確に聴き取れる。今回聴きなおして、「Extended Dub Mix」ヴァージョンを出した意義がはっきりと理解できた。クリスマスと夏の音楽でもあるレゲエを組み合わせることは、単なるリズムの応用ではなく、曲の中にさまざまなニュアンスを盛り込むためのスパイスであったのだ。カットアップのように潜り込んでくるダブや、クールなリピート。これらが曲に強烈なアクセントを与えている。
さまざまな感情が複雑に交錯するのが「CHRISTMAS TIME IN BLUE」の魅力だ。楽しくて寂しく、笑いながらも泣いてしまう。どんなことが起きようとも、それでも子どもたちにクリスマスは訪れる。そこに込められた「メリー・クリスマス」のメッセージは、今も多くの人々の心に響き合っているはずだ。
’85年のオリジナル・リリースでは、レコード盤の内周に「Hi Everybody! MERRY CHRISTMAS!! ’85/24/12 ─── MOTO」という佐野元春の直筆メッセージが刻まれていた。ミュージシャンから届けられた小さな贈り物。これは今も多くのファンの心に深い余韻を残している。
今回同時発売されたCDは全5曲入りで、アナログ12インチには収録されていない2曲が追加されている。そのうちの1曲は’87年5月27日に渋谷公会堂で録音されたライヴ・ヴァージョン。オリジナルと同じくヴォーカルだけのイントロで始まるが、客席の反応は圧巻で、歌が始まった瞬間に会場を揺るがす歓声が湧きあがる。このファンとの共振性こそ、当時の佐野元春であった。
この日は「Cafe Bohemia Meeting」ツアーの真っ最中で、「少し季節外れですが、聴いてください」というMCに続いて曲が披露されたという。ステージには長田進(ギター)、小野田清文(ベース)、西本明(キーボード)、阿部吉剛(キーボード)、古田たかし(ドラムス)、里村美和(パーカッション)というザ・ハートランドの面々に加え、Tokyo Be-Bopの3人が立ち並んでいた。レコーディング時とほぼ同じラインナップが揃い、スタジオの空気をそのまま立体化した演奏が繰り広げられたことが想像できる。

佐野元春 with THE HEARTLAND
「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」
2025年11月5日発売
Blu-spec CD2|MHCL 31102
今回のリイシューのもう1曲も、素敵なプレゼントだ。「CHRISTMAS TIME IN BLUE」と並ぶ佐野の大切なクリスマス・ソング「みんなの願いかなう日まで」が収録されたのだ。2019年のアルバム『或る秋の日』収録曲で、「Our Christmas -Happy That We’re Here」という英語のサブタイトルが付いている。
ウクレレの跳ねる音色が楽しい曲だが、単なるラヴ・ソングにとどまらず、「今ここにはいない大切な人に」という一節があるように、遠く離れた誰かへの思いも優しく包み込んでいく。世界の見知らぬ人々や目の前にいない愛しい人々へそっと手を差し伸べるような、そんな広がりのある愛情こそ佐野の音楽の核であり、長年にわたり変わらず響き続ける彼のスピリットである。
「みんなの願いかなう日まで」の録音はザ・コヨーテ・バンドとともに行われ、ギターやベース、鍵盤が音の間を縫い、曲にヴァイタルなリズムを吹き込む。耳を澄ませば、演奏者たちの呼吸や目線、互いの微かな動きまでが静かに映し出されるようだ。「CHRISTMAS TIME…」と続けて聴くと、佐野とバンドとの間の信頼と時間の積み重ねが伝わってくる。この曲の魅力は音の楽しさに留まらない。自分の過ごしたクリスマスの記憶や、遠く離れた誰かを想う心が音の波間に揺れ、ひそやかな感動を噛み締めることができる。曲の背景にある祈りのような気持ちや、時のぬくもりも、ゆっくりと感じ取ることができる。
こうして「CHRISTMAS TIME IN BLUE」を聴いていると、佐野のクリスマスへの思いは、単なる季節の挨拶にとどまらず、日常のささやかな感傷や離れた場所にいる誰かへの静かな愛情までも包み込んでいることに気づく。目に見えない糸で人々をつなぎ、聴き手の心に淡い光を灯す。40年を経ても変わらず輝き続ける佐野元春の精神が、この曲を通して静かに、そして確実に伝わってくる。
(【Part2】に続く)
佐野元春 with THE HEARTLAND「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」(1987.5.27 渋谷公会堂)

▲佐野元春 with THE HEARTLAND
40周年記念盤「CHRISTMAS TIME IN BLUE ー聖なる夜に口笛吹いてー」

▲ウェブマガジンotonano Annex
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