2025年10月号|特集 作曲家で聴く松田聖子
「赤いスイートピー」「制服」|全曲解説!呉田軽穂(松任谷由実) 松田聖子『Seiko Diamond -Karuho Kureda Works-』
解説
2025.10.1
文/岡村詩野
●ボーナストラック:オリジナル・カラオケ(初出音源)収録 ●ライナーノーツ(松任谷由実インタビューコメント掲載) ●松田聖子×呉田軽穂(松任谷由実) 作品リスト ●2025リマスタリング ●SACDハイブリッド
[収録曲]
①赤いスイートピー ②制服 ③渚のバルコニー ④レモネードの夏 ⑤小麦色のマーメイド ⑥マドラス・チェックの恋人 ⑦秘密の花園 ⑧瞳はダイアモンド ⑨蒼いフォトグラフ ⑩Rock’n Rouge ⑪ボン・ボヤージュ ⑫時間の国のアリス ⑬恋人がサンタクロース ⑭火紅色的香豌豆/赤いスイートピー [Bonus track]⑮レモネードの夏(オリジナル・カラオケ) ⑯恋人がサンタクロース(オリジナル・カラオケ)※初出音源

①赤いスイートピー
作詞:松本隆/作曲:呉田軽穂/編曲:松任谷正隆
1982年1月21日発売シングル
⑭火紅色的香豌豆/赤いスイートピー
作詞:松本隆/作曲:呉田軽穂/編曲:松任谷正隆/中譯詞:李焯雄
2005年8月26日発売アルバム『I'll fall in love 愛的禮物』収録
“呉田軽穂”こと松任谷由実から聖子への初提供曲
“呉田軽穂”こと松任谷由実から聖子への初提供の2曲がA面とB面に配された8枚目のシングル(チャート1位獲得)。作詞した松本隆自らの発案で、70年代から交流のあった松任谷に交渉したなどのエピソードはよく知られているが、松任谷は変名(呉田軽穂)なら…となんとか引き受けた末に、プロデューサーの若松宗雄からも、春の歌なのでメロディが明るく上がっていく形に、と頼まれ修正したという。
’82年1月発売だから制作自体は当然81年のこと。その頃の松任谷といえば、「守ってあげたい」(81年6月発売)が大ヒットした頃なので多忙を極める中での作業だったはずだ。しかし出来上がってみたら、松本にとってはもちろん、松任谷にとっても、聖子自身にとっても重要な代表曲になった。
松本は冒頭の“春色の汽車”はオレンジと緑色の湘南電車(東海道線)をイメージし、さらに江ノ電の鎌倉高校前駅付近の景色を舞台にしていたことなどを明かしていて、海沿いを走る電車に春の訪れを重ねた、屈指のスプリング・ソングを描いたことがわかる。
ところで、“何故知り合った日から半年過ぎても”の「はんとーし」は聖子独特の譜割りによるものだったというのもファンの間では有名な話だが、“I will follow you”の「フォーロユー」(本来の発音だと「フォローユー」)は誰のアイデアだったのだろうか。
ちなみに、「火紅色的香豌豆」というタイトルの中国語バージョン(もともとは『I'll fall in love 愛的禮物』という台湾限定アルバムに収録)だけではなく、英語ヴァ―ジョンも存在する。

②制服
作詞:松本隆/作曲:呉田軽穂/編曲:松任谷正隆
1982年1月21日発売シングル/カップリング
10代の乙女らしい清潔感あるメロディ&アレンジ
B面曲ながらファン人気が高い1曲で、実は筆者も一番好きな聖子ソング。「赤いスイートピー」同様、呉田軽穂こと松任谷由実によるもので、マイナーからメジャーへと展開されるイントロの展開にはまずゾクゾクするし、弦楽器の瑞々しいピチカートからギター・フレーズへ移行してAメロへと入る流れに至ってはもうズバ抜けてセンスがいい。
“四月からは都会に”の箇所の重ねられたハーモニーからは大人の階段を一段ずつ登っていく様子も感じ取れるし、感情の発露のような“ただのクラスメイトだから”の歌唱は聖子ソングの中でもダントツに恥じらいたっぷりにエモーショナルだ。かつてのアイドル、伊藤咲子の「きみ可愛いね」(’76年)を思い出すのは一定の世代かもしれないが、いずれにせよ10代の乙女らしい清潔感ある風合いを見事に表現したメロディ、アレンジには舌を巻く。
卒業、旅立ちをテーマにした松本の歌詞に至っては、誰もかれもが一度は経験しているはずのあの頃の風景に立ち戻されるほどに素晴らしい。“四月からは都会に行ってしまうあなたに”というくだりは、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」(’75年)への自らの返答歌とも受けとれるような、東京への憧れと寂しさを鮮やかに想像させるフレーズ。
“雨にぬれたメモには東京での住所が……握りしめて泣いたの”は最高の一節だが、冒頭の“傘の波にまぎれながら”と呼応して、雨の日の卒業式の時間の経過さえも見事に伝えている。“失うときはじめてまぶしかった時を知るの”で、失ったのは、都会に行ってしまうあの人ではなく、高校生活でもなく、こうした甘酸っぱい思いに満たされる瞬間のことを指しているのかもしれない。

呉田軽穂 (くれだ・かるほ)/松任谷由実(まつとうや・ゆみ)
1954年1月19日 東京都出身。
1972年荒井由実としてデビュー。翌’73年にファースト・アルバム『ひこうき雲』をリリース。それまでのフォークソングとは一線を画するファッション性の高いメロディと独自の写実的な歌詞で、女性シンガー・ソングライターの草分け的な存在に。そのスタイルはやがて「ニュー・ミュージック」というジャンルを確立。
デビュー以来、様々な演出を駆使した大規模コンサートが常に注目される一方で、<SURF&SNOW in NAEBA>を’81年より毎年開催し、今も継続している。
デビュー50周年を迎えた2022年、週間アルバムランキング1位を獲得。これにより、1970年代から、80、90、2000、10、20年代まで、6年代連続での1位を史上初めて記録し、「日本のアルバムチャートで1位を連続で獲得した最多デケイド(10年間)数」として、2023年ギネス世界記録に認定された。2013年 紫綬褒章、岩谷時子賞、2018年 菊池寛賞を受賞。
松田聖子への提供曲としては呉田軽穂名義で、シングル曲「赤いスイートピー」(’82年)「渚のバルコニー」(’82年)「小麦色のマーメイド」(’82年)「秘密の花園」(’83年)「瞳はダイアモンド」(’83年)など多くのヒット曲を提供。またB面曲にも拘わらず、多くのファンから支持を得ている「制服」「蒼いフォトグラフ」など人気曲の作曲も手掛けた。

