2025年10月号|特集 作曲家で聴く松田聖子
「黄色いカーディガン」「ブルージュの鐘」|全曲解説!細野晴臣作品集 松田聖子『Seiko harmony -Haruomi Hosono Works-』
解説
2025.10.1
文/油納将志
●ボーナストラック:オリジナル・カラオケ(初出音源)収録 ●ライナーノーツ(細野晴臣インタビューコメント掲載) ●松田聖子×細野晴臣 作品リスト ●2025リマスタリング ●SACDハイブリッド
[収録曲]
①黄色いカーディガン ②ブルージュの鐘 ③天国のキッス ④わがままな片想い ⑤ガラスの林檎 ⑥ピンクのモーツァルト ⑦硝子のプリズム ⑧プルメリアの花 ⑨天国のキッス(extra version) ⑩ピンクのモーツァルト(アルバム『Windy Shadow』) [Bonus track]⑪黄色いカーディガン(オリジナル・カラオケ)※初出音源 ⑫ブルージュの鐘(オリジナル・カラオケ)※初出音源

①黄色いカーディガン
⑪黄色いカーディガン(オリジナル・カラオケ)
作詞:松本隆/作曲:細野晴臣/編曲:大村雅朗
1982年11月10日発売アルバム『Candy』収録
細野×聖子の関係性を象徴する出発点
1982年11月リリースのアルバム『Candy』に収録された「黄色いカーディガン」は、細野晴臣が松田聖子に提供した楽曲群の中でも、その後の両者の関係性を象徴する出発点となる曲だ。この曲が生まれた1982年は、細野がYMOのメンバーとしてテクノポップの領域で活動していた時期と重なるが、ここでは対照的なアプローチが取られている。
細野の作曲手法において注目すべきは、メロディラインの構築における独特のセンスだ。楽曲全体を通じて、歌詞の自然な流れを重視した旋律が展開され、特に「黄色いカーディガン」というタイトルフレーズの音韻的な響きを最大限に活用している。これは、はっぴいえんど時代から細野が一貫して追求してきた“日本語の響きと音楽の融合”という理念の延長線上にあると言っていい。
松本隆による歌詞と大村雅朗による編曲も、細野の楽曲構想を豊かに発展させている。大村の編曲では、ピアノを中心としたアレンジメントに管楽器やストリングスが効果的に配置され、細野が描いたメロディの持つ叙情性が一層際立つ仕上がりとなった。
今回収録される「黄色いカーディガン(オリジナル・カラオケ)」は、この企画盤で初めて公開される音源。細野のベースラインの動きの巧妙さがより明確になり、大村による編曲の妙技も浮き彫りになる。

②ブルージュの瞳
作詞:松本隆/作曲:細野晴臣/編曲:大村雅朗
1982年11月10日発売アルバム『Candy』収録
⑫ブルージュの瞳(オリジナル・カラオケ)
作曲:細野晴臣/編曲:大村雅朗
※初出音源
滑らかな和声運びと “間” の設計による日本語ポップ
アルバム『Candy』に収録された「ブルージュの鐘」は、細野晴臣が松田聖子に提供した欧州趣味の物語歌の到達点であり、「黄色いカーディガン」と並んで同作の芯を成す曲だ。
’82年は英国、ヨーロッパでニュー・ウェイヴ/シンセ・ポップが隆盛し、簡潔な形式と洗練された音像が主潮となっていたが、細野は過度な電子性を抑え、滑らかな和声運びと“間”の設計によって同時代の感覚に接続しつつ、それを日本語ポップの土壌へ無理なく移植してみせている。
松本隆の詞が描く石畳と運河の街に響く鐘の音は、“Ding Dong”という英語のオノマトペを旋律に溶け込ませ、旅の時間がほどけていく感覚を音楽的な推移として委ねている。さらに、同年のロキシー・ミュージック『アヴァロン』に象徴されるソフィスティ・ポップの審美感─透けるレイヤー感と淡い光沢─とも呼応しながら、日本語の抑揚で異国の空気を語らせる点にこの曲の独自性がある。
大村雅朗の編曲も当時のネオ・アコースティックからの影響が伺え、残響を含めた空間設計で細野の旋律の叙情をいっそう際立たせた。なお今回の作品集には「ブルージュの鐘(オリジナル・カラオケ)」も初出音源として収録。ベースと声の精妙な動き、和声の設計図がクリアに浮かび上がる。
Photo by hama okamoto(OKAMOTO’S)
細野晴臣 (ほその・はるおみ)
1947年7月9日 東京都出身。
1969年【エイプリル・フール】のベーシストとしてデビューし、’70年【はっぴいえんど】を結成。’73年ソロ活動を開始、同時に【ティン・パン・アレー】としても活動。’78年に【イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)】を結成。テクノ・ポップブームを巻き起こし、米国はじめ各国で人気を博す。また、歌謡界での楽曲提供を手掛け、プロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求。作曲・プロデュース・映画音楽など多岐にわたり活動する音楽家。2024年に音楽活動55周年を迎えた。
松田聖子への提供作は、シングル曲「天国のキッス」(’83年)「ガラスの林檎」(’83年)「ピンクのモーツァルト」(’84年)の他、映画『プルメリアの伝説 天国のキッス』の主題歌「プルメリアの花」(’83年)の作曲・編曲の他、「黄色いカーディガン」「ブルージュの鐘」などアルバム(『Candy』収録)の人気曲の作曲も手掛け、松田聖子のヴォーカリストとしての新たな魅力を引き出した。

