2025年10月号|特集 作曲家で聴く松田聖子
「風立ちぬ」「冬の妖精」|全曲解説!大瀧詠一作品集 松田聖子『Seiko feelings -Eiichi Ohtaki Works-』
解説
2025.10.1
文/柴崎祐二
●ボーナストラック:オリジナル・カラオケ(初出音源)収録 ●ライナーノーツ ●松田聖子×大瀧詠一 作品リスト ●2025リマスタリング ●SACDハイブリッド
[収録曲]
①風立ちぬ ②冬の妖精 ③ガラスの入江 ④一千一秒物語 ⑤いちご畑でつかまえて ⑥四月のラブレター ⑦Rock’n’roll Good-bye ⑧いちご畑でFUN×4 ⑨風立ちぬ(duet version)[Bonus track]⑩冬の妖精(オリジナル・カラオケ)※初出音源 ⑪四月のラブレター(オリジナル・カラオケ)※初出音源

①風立ちぬ
作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一/編曲:多羅尾伴内/ストリングスアレンジ:井上鑑
1981年10月7日発売シングル
アメリカン・ポップスの遺産からマニアックに引用
流麗なハープの導入からダイナミックなシンコペーションへとなだれ込むイントロだけで、もう夢見心地だ。本曲は、ルイジアナ出身の白人シンガー=ジミー・クラントンが’62年に放った全米7位のヒット「ヴィーナス・イン・ブルー・ジーン」を下敷きにしており、件のイントロのアレンジも、同曲のブリッジ部が参考にされている。また、Aメロ部分はシェリー・フェブレーのヒット曲「悲しきテレフォン・ガール」のカップリング曲「ビッグ・スター」(’62年)を彷彿させるし、ダイアン・リネイ「ネイヴィー・ブルー」(’63年)などの影も。アメリカン・ポップスの遺産からかようにマニアックな引用を行ってみせるのが大滝詠一のポップ・マエストロたるゆえんだが、そうした参照の巧みさもさることながら、松田の声の特長を最大限に引き出してみせるメロディーの構成があまりにも見事だ。
華やかなサビに始まり、はかなげなAメロへと流れるように移行する展開は、穏やかでいて同時にスリリング。松本隆の歌詞が描き出す心象風景と楽曲の旋律、アレンジのダイナミズム、そして松田の情感の持った歌唱が完璧なシンクロニシティをみせる。コーラスやストリングスをはじめ、前述のハープ、パーカッション類に至るまで、アンサンブル全体がシルクのような肌理を作りだしている。まさしく、ペルソナ多羅尾伴内の面目躍如。

②冬の妖精
作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一/編曲:多羅尾伴内
1981年10月21発売アルバム『風立ちぬ』収録
⑩「冬の妖精」(オリジナル・カラオケ)
作曲:大瀧詠一/編曲:多羅尾伴内
※初出音源
人気曲「君は天然色」のガール・ポップス版
冬の季節を舞台としたガール・ポップス……ということは、かの名盤『ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター』でキマり。同アルバム収録のダーレン・ラヴ「ウィンター・ワンダーランド」風のイントロが印象的なこの「冬の妖精」は、大滝自身のアルバム『A LONG VACATION』中屈指の人気曲「君は天然色」のガール・ポップス版を意図して制作された由。となれば、フィル・スペクター・サウンドとの類似性も輪をかけて得心のいくところだ。加えて、キュートなメロディーは、バリー・マン=エリー・グリニッチ作のレスリー・ゴーア「ルック・オブ・ラブ」を思わせる瞬間も。
鈴木茂のエレキ・ギターをフィーチャーした間奏のアレンジも聴きものだ。背後に控える生ギターのさらさらしたサウンドと実に良い塩梅の好対照を描いている。絶えず鳴らされるピアノの高音もウキウキした気分を盛り上げてくれる。
三連リズムの中をスイスイと滑っていく松田の歌唱も見事なもの。この曲の背骨には、言うまでもなくロックンロールのノリがあるわけだが、相変わらずの抜群のリズム感で歌いこなしていく。このあたりにも、旧世代のアイドル・シンガーと比べたときの彼女の基礎体力の高さがあらわれているような気がするのだが、どうだろうか。
なお、今回のコンピには初出となる本曲のカラオケ音源も収録されているので、そちらもチェック。
©︎THE NIAGARA ENTERPRISES INC.
大瀧詠一 (おおたき・えいいち)
1948年年7月28日-2013年12月30日(65歳永眠) 岩手県出身
高校卒業後に上京し、細野晴臣、松本隆、鈴木茂と日本語ロックの先駆的グループ【はっぴいえんど】を結成、和製ポップス史に大きな影響を与えた。1975年、自身のみならず山下達郎や大貫妙子が所属する【SUGAR BABE】や伊藤銀次など、当時の新しいアーティストを紹介する「ナイアガラ・レコード」誕生。
’81年 ソロ・アルバム『A LONG VACATION』が、『第23回日本レコード大賞 ベスト・アルバム賞』を受賞。また、’84年に発表したアルバム『EACH TIME』で第26回日本レコード大賞 優秀アルバム賞を受賞した。
森進一「冬のリヴィエラ」(’82年)や小林旭「熱き心に」(’85年)、小泉今日子「快盗ルビイ」(’88年)など数多くの楽曲の制作・プロデュースを担当。また、’97年にドラマ主題歌「幸せな結末」がミリオンセラーの大ヒット。2003年発表のシングル「恋するふたり」もドラマ主題歌となった。
松田聖子には、シングル曲「風立ちぬ」(’81年)や同名アルバムに収録の「いちご畑でつかまえて」「冬の妖精」、アルバム『Candy』(’82年)収録「四月のラブレター」などの楽曲を提供。さらに2020年には、大瀧詠一が生前遊び心で制作した、「FUN×4」と「いちご畑でつかまえて」を編集して1つの楽曲にした「いちご畑でFUN×4」を、2023年には「風立ちぬ(duet version)」を発表し話題となった。

