2025年10月号|特集 作曲家で聴く松田聖子

「チェリーブラッサム」「夏の扉」|全曲解説!財津和夫作品集 松田聖子『Seiko Invitation -Kazuo Zaitsu Works-』

解説

2025.10.1

文/小川真一

●ボーナストラック:オリジナル・カラオケ(初出音源)収録 ●ライナーノーツ(財津和夫インタビューコメント掲載) ●松田聖子×財津和夫 作品リスト ●2025リマスタリング ●SACDハイブリッド

[収録曲]
〈DISC 1〉
①チェリーブラッサム ②夏の扉 ③花一色ひといろ ~野菊のささやき~ ④白い貝のブローチ⑤Sailing ⑥あ・な・たの手紙 ⑦野の花にそよ風 サブテーマ「雲」 ⑧流星ナイト ⑨December Morning ⑩LOVE SONG ⑪小さなラブソング ⑫夏天的門外/夏の扉(台湾限定アルバム『I'll fall in love 愛的禮物』2005年) [Bonus track]⑬小さなラブソング(オリジナル・カラオケ)※初出音源

〈DISC 2〉
①白いパラソル ②水色の朝 ③野ばらのエチュード ④愛されたいの ⑤星空のドライブ ⑥未来の花嫁 ⑦HAPPY SUNDAY ⑧レンガの小径 ⑨Bye-bye Playboy ⑩Blue Christmas ⑪スピード・ボート ⑫野ばらのエチュード(LPテイク)[Bonus track]⑬水色の朝(オリジナル・カラオケ)※初出音源



〈DISC 1〉
①チェリーブラッサム

作詞:三浦徳子/作曲:財津和夫/編曲:大村雅朗
1981年1月21日発売シングル


チューリップの財津和夫との新しい出会い


 ここに、新たな出会いが待っていた。「裸足の季節」で鮮烈なデビューを飾った松田聖子は、デビューから3作目までを、作詞:三浦徳子/作曲:小田裕一郎という体制で固めている。このソングライター・コンビの存在によって、ポップで溌剌とした“聖子サウンド”が早くも確立されていたのだ。

 その最大の特徴は、突き抜けるようなブライトさにある。響きの色合いはきわめて鮮やかで、視界を一気に開くかのようだ。シングルのジャケットに映るのはポートレートであるにもかかわらず、そこから極彩色の風景を見渡しているかのような感覚を覚えるのである。

 サウンドを確立したのにかかわらず、あえてソングライターを代えるのには大きな決断があったかと思う。その新しい作曲家に選ばれたのが、チューリップの財津和夫であった。財津は、アイドルへの楽曲提供に大きな実績があったわけではない。70年代の仕事をみても、木之内みどりやあべ静江に数曲ずつ書き下ろしているのにすぎない。

 完成した楽曲は、実に鮮烈だった。なかでもサビのリフレインは斬新で、思わずそこだけを繰り返し聴きたくなるほどの吸引力をそなえている。さらに、このサビにおいて、松田聖子のヴォーカルとバックの女性コーラスがブレイク気味に浮き上がる構成は、ロック・バンド的なダイナミズムを演出していた。

 複雑なメロディー・ラインを歌いこなすのは容易ではなかったはずだ。しかし、この難関を克服することによって、彼女の歌唱力は着実に向上していった。テレビでのパフォーマンスを見ても、歌うたびにその巧みさが増していくように思えた。

 チャート・アクションも好調で、シングル・チャートの1位を獲得。テレビの人気歌番組「ザ・ベストテン」においても、当然のように首位の座に輝く。同番組では、新幹線の停車時間わずか2分の間にホームに降り、歌い終えると再び列車に飛び乗るという離れ業を披露した。

 この「チェリーブラッサム」の歌詞には、「桜」も「チェリー」も登場しない。あえて季節感を読み取るなら、燕の飛来する時期=3月中旬から下旬にかけてを想定するしかない。この少しミステリアスな設定も、本作の魅力の一つとなっている。




〈DISC 1〉
②夏の扉

作詞:三浦徳子/作曲:財津和夫/編曲:大村雅朗
1981年4月21日発売シングル

〈DISC 1〉
⑫夏天的門外/夏の扉

作詞:三浦徳子/作曲:財津和夫/編曲:大村雅朗/中譯詞:陳鎮川
2005年8月26日発売台湾限定アルバム『I'll fall in love 愛的禮物』収録


アイドル・ポップがロック・ファンの支持を得たフレッシュ!な逸品


 「チェリーブラッサム」に続くシングルの「夏の扉」も、作曲を財津和夫が担当した。やはりサビが印象的で、「フレッシュ」を繰り返すフレーズは一度聞いただけで鮮烈に耳に残る。エクボ・ガールとしてデビューした山田由起子が出演した化粧品のCM曲にも使われたが、これほどキャッチーなリフレインはなかなかないだろう。

 曲調は「チェリーブラッサム」以上にロッキンで、勢いあるアッパーなリズムで突き進んでいく。ロック度は非常に高く、グルーヴ感にあふれた曲だ。アイドル・ポップがロック・ファンの支持を得たという点でも、財津和夫の起用は大正解だったと言える。

 間奏のギターは、スタジオ・ミュージシャンとして名高い今剛が担当している。テレビ出演時などでは現場の裁量が優先されていたようで、さまざまな演奏パターンが存在するが、いずれにせよ非常に難易度の高いギター・ソロだ。

 ’81年の年末に、『NHK紅白歌合戦』に出場し「夏の扉」を歌った。この時は聖子ちゃんカットを切ってショートヘアにしていた。歌詞の中に出てくる「髪を切った私に」とシンクロしていて、驚かされたファンも多かったのではないだろうか。

 松田聖子は2005年に台湾公演を行った。同年の25周年記念ツアーの最終地として、台湾の台北縣新荘体育館を選んだのだ。これが彼女にとって初めての海外公演となり、公演を記念して台湾限定のアルバム『I’ll fall in love 愛的禮物』が発売された。

 アルバムには「夏天的門外」というタイトルの曲が収録されているが、これは「夏の扉」の中国語カヴァーなのだ。中国語の発音も実にスムースで、オリジナルよりも柔らかい印象に仕上がっている。彼女の新しい魅力を知るうえでも、欠かせないトラックだと言える。




財津和夫 (ざいつ・かずお)

1948年2月19日 福岡県出身。

1971年にバンド【TULIP(チューリップ)】を結成。’72年「魔法の黄色い靴」でデビュー。3作目の「心の旅」(’73年)が週間シングルランキング第1位を獲得後、「青春の影」(’74年)、「サボテンの花」(’75年)、「虹とスニーカーの頃」(’79年)等のヒット作を発表。アルバム35枚、シングル34枚を発表、1989年に18年間の活動の歴史に幕を下ろす。

【TULIP】の活動と並行して’78年からソロ活動をスタート。自身が作詞・作曲した「切手のないおくりもの」(’78年)は、NHK「みんなのうた」で放送され大きな反響を呼び、多くのアーティストにカヴァーされている。その後「Wake Up」(’79年)はCFソングとなり大ヒット、’93年には「サボテンの花〜ひとつ屋根の下より〜」がドラマの主題歌となりリバイバルヒットした。’97年【TULIP】を期間限定で再結成し、全国ツアーを行なっている。

作曲家として1000曲以上の楽曲提供、アーティスト・プロデュース、ミュージカル音楽制作、さらに俳優などとしても幅広く活躍している。

松田聖子への提供楽曲は、シングル曲「チェリーブラッサム」(’81年)「夏の扉」(’81年)「白いパラソル」(’81年)「野ばらのエチュード」(’82年)や、松田聖子初の映画主演作品『野菊の墓』の主題歌「花一色 ~野菊のささやき~」(’81年)の他、人気のアルバム収録曲など数多くの作品を手掛け、松田聖子のヴォーカリストとしての飛躍の一翼を担った。