2025年7月号|特集 女性アイドル1985

Part1|女性アイドル1985ストーリー

解説

2025.7.1

文/馬飼野元宏


Part1:飽和状態になりつつあった1985年のアイドルシーン


 1985年のアイドルシーンは、いくつかの大きなムーヴメントが起きている。

 この年の新人について記すより先に、まずはここまで80年代前半を彩ってきた華やかな女性アイドルたちの、’85年の動向について検証してみたい。

 80年代前半のアイドルシーンを牽引してきたのは、’80年デビューの松田聖子である。聖子の’85年は、1月に郷ひろみとの破局会見、4月には神田正輝との婚約、6月に挙式と、プライベートでは激動の年となった。この結婚により、同年後半から歌手活動を一時休業する。


松田聖子
『The 9th Wave』

1985年6月5日発売


 1月30日にリリースされた「天使のウインク」は、’81年7月の6作目「白いパラソル」より14作連続で手がけてきた松本隆の手を離れ、尾崎亜美の作詞・作曲。続く「ボーイの季節」も尾崎の作で、この2曲を含むアルバム『The 9th Wave』にも松本は一切関わらず、作詞は全て女性ライターで構成されている。

 「ボーイの季節」は、デビュー曲「裸足の季節」に対応するタイトルで、この『The 9th Wave』のラスト「夏の幻影」の波音のSEもまた、彼女のファースト・アルバム『SQUALL』の1曲目「南太平洋〜サンバの香り」の冒頭で流れる波音と対をなしている。このような形でアイドル時代の円環を閉じる構成は、南沙織、キャンディーズ、山口百恵と続いたソニー系アイドルに倣った、美しい幕の引き方であった。

 もちろんこの後、松田聖子は出産を経て音楽活動を再開し、新たなアイドル像を提示しながら80年代を邁進していくのだが、これまでアイドルシーンを牽引し続けてきた彼女が、一旦、最前線から引いたことにより、アイドルポップスの音楽地図は大きく変化した。


河合奈保子
「デビュー〜Fly Me To Love~」

1985年6月12日発売


 松田聖子と同じく’80年デビュー組の河合奈保子、柏原芳恵もデビュー6年目に入っている。河合奈保子は’83年以降、筒美京平の主導による大人っぽく挑発的な内容のディスコ歌謡を歌ってきたが、この年は6月12日リリースの「デビュー〜Fly Me To Love~」で自身初のシングル1位を獲得。この曲と両A面で発表された「MANHATTAN JOKE」は大野雄二の作曲による、映画『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』の主題歌となった。作品の世界はすっかり大人の恋愛模様へと変貌、翌’86年末には自作曲「ハーフムーン・セレナーデ」でシンガー・ソングライターへと転身する。

 柏原芳恵は、ニューミュージック系作家をメインに起用し続けており、この年は4度目の中島みゆき作品「ロンリー・カナリア」を1月9日にリリース。次の「待ちくたびれてヨコハマ」で、テレサ・テンで知られる荒木とよひさ&三木たかしのコンビを起用して以降、ムーディな歌謡曲路線へと方向性を定めた。同年9月11日発売の「し・の・び・愛」はTHE ALFEEの高見沢俊彦が高見知佳に提供した曲のカヴァーだが、この時彼女はまだ19歳ながら不倫をテーマにした曲を抜群の説得力で歌いこなした。河合、柏原ともに方向性は異なるが、どちらもアイドルポップスを卒業し、音楽面では大人の世界に足を踏み入れている。

 女性アイドルはデビュー2〜3年目に人気やセールス面のピークが訪れることが多いが、同じ80年組の岩崎良美はこの年、デビュー6年目で自身最大のヒットを飛ばす。それがフジテレビ系アニメ『タッチ』の主題歌「タッチ」で、現在でもアニソンのレジェンド級作品として親しまれている。ニューミュージック系アーティストとアニソンの融合は、前年の杏里「キャッツ・アイ」で始まっているが、アイドルとアニソンの組み合わせによるヒットは、「タッチ」が最初だろう。


中森明菜
『D404ME』

1985年8月10日発売


 この年、アイドルシーンのトップに立ったのは’82年デビューの中森明菜である。聖子と明菜は’83年頃から人気、セールス面で比較されてきたが、音楽面での2人の方向性はかなり異なっていた。松本隆の作詞を主軸にして確固たる世界観を守ってきた聖子に対して、明菜は1作ごとに作家の起用を変え、歌謡曲やアイドルに楽曲提供の少ないソングライターを起用してきた。この傾向は’85年の第1作目、3月8日リリースの「ミ・アモーレ[Meu amor é]」で、ジャズ・フュージョン系ピアニストの松岡直也を起用したことで決定的となる。

 これに続く6月19日発売の「SAND BEIGE -砂漠へ-」は、許瑛子&都志見隆の新進作家コンビによる中近東ムードのエスニック歌謡、10月9日リリースの「SOLITUDE」では湯川れい子&タケカワユキヒデによるAORシティサウンドと、1曲ごとに世界観を変えていく。セールス面でもアルバム含め出す曲全て1位、しかも「ミ・アモーレ」は同年の年間2位という成績で、同年末には日本レコード大賞を受賞。名実ともにキャリアのピークに入っていた。


小泉今日子
「なんてったってアイドル」

1985年11月21日発売


 聖子、明菜に追随する形で大きな人気を獲得していた小泉今日子は、前年の自由奔放な作風による大活躍に比べると「常夏娘」「ハートブレイカー」「魔女」とやや大人しい印象がある。むしろ大映ドラマ『少女に何が起こったか』に主演するなど、女優としての活躍が目立つ年だったが、それでも同年11月21日にはアイドル歌謡史上の問題作「なんてったってアイドル」をリリースし、飽和状態にあったアイドルシーンに一石を投じた。

 中森明菜、小泉今日子と同じ「花の82年組」の松本伊代、堀ちえみ、早見優、石川秀美も、4年目を迎えそれぞれ独自の方向性へと歩みを進めている。

 松本伊代は、4作続いた尾崎亜美作品を卒業し、前年11月1日発売の「ビリーヴ」で2年ぶりに筒美京平が登板。ボニー・タイラー「ヒーロー」を意識した曲想で、続く「あなたに帰りたい」ではネオロカビリー風、「ポニーテールは結ばない」では三連ロッカバラードと、3作続けて売野雅勇と筒美によるノスタルジックな楽曲をリリースし、王道アイドル歌謡路線に回帰。同年10月5日の 「月下美人」では松本隆・細野晴臣コンビによるメロウバラードを発表し、楽曲のクオリティの高さをキープし続けた。

 堀ちえみはベンチャーズ風のエレキ歌謡「リ・ボ・ン」、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠作曲による「Deadend Street GIRL」、そしてムーンライダーズの鈴木博文&白井良明コンビによる「Wa・ショイ!」とユニークな作家起用によるポップな楽曲を送り出している。彼女は’83年に『スチュワーデス物語』で人気を獲得したことで女優としても活躍、この年も大映ドラマ『スタア誕生』や映画『潮騒』に主演した。

 早見優は2月1日発売の「Tonight」で作詞にAnnieことアン・ルイス、作曲にNOBODYを迎えロック方向に舵を切った。リック・スプリングフィールドのカヴァー「STAND UP」、中原めいこの作詞作曲「PASSION」、そして同年11月21日発売の「CLASH」と出す曲全てロック色の強いナンバーで、他のアイドルと差別化を図った。

 石川秀美は前年10月の「ミステリーウーマン」以降ブラコン系に傾倒していき、この年1月23日リリースの「もっと接近しましょ」ではシーラ・E「グラマラス・ライフ」風サウンドに挑戦。石川のディレクターはこの時期、彼女のロック化を検討していたことがのちに語られており、この’85年頃から、アイドルの「次なる一手」としてロック化がチョイスされているのは、音楽シーンの主役にロックが台頭してきたことと無縁ではない。


菊池桃子
『TROPIC of CAPRICORN 〜南回帰線〜』

1985年9月10日発売


 この時期、アイドル人気がピークを迎えたのは、’83年デビューの菊池桃子と、’84年デビューの岡田有希子。菊池はデビュー以来一貫して林哲司作品を歌い続け、アイドル歌謡というよりシティポップ的な作風で差別化を図ってきたが、この年、2月27日発売の「卒業 -GRADUATION-」や9月26日発売の「もう逢えないかもしれない」など、キャリアの代表作となる楽曲を発表。後者はトップアイドルの代名詞的な仕事、江崎グリコ「ポッキー」のCMに起用され本人も出演している。また、映画『テラ戦士ΨBOY』で初主演を果たし、アイドルとして充実の一年を迎えている。

 岡田有希子はデビュー以来手がけてきた竹内まりやの手を一旦離れ、同年1月16日発売「二人だけのセレモニー」、4月17日発売の「Summer Beach」で作曲に尾崎亜美を連続起用。7月17日の「哀しい予感」で再び竹内が登板、10月5日の「Love Fair」ではムーンライダーズのかしぶち哲朗が起用され、清純派のお嬢様的な世界から早くも大人っぽくセクシーな方向へと路線変更が始まっている。この「Love Fair」も江崎グリコ「セシルチョコレート」のCMソングで、トップアイドルとお菓子のCMは切っても切れない関係だった。

 80年代前半、アイドルシーンを席巻したのが角川映画の女優たち。まず薬師丸ひろ子はこの’85年に角川春樹事務所から独立。同年7月3日発売の「あなたを・もっと・知りたくて」で、自身の主演映画と無関係にリリースされた初のシングル曲を発表。それまで実年齢に比して大人っぽい世界を歌ってきたが、この曲が最もアイドルらしい楽曲となった。この年、彼女は二十歳を迎え、同年11月1日には、井上陽水の作詞・作曲による主演映画『野蛮人のように』の主題歌「ステキな恋の忘れ方」も発表している。


原田知世
『PAVANE』

1985年11月28日発売


 ’83年に映画『時をかける少女』とその同名主題歌で大ブレイクを果たした原田知世は、この年7月17日に主演映画『早春物語』の同名主題歌をリリース。18歳の誕生日である11月28日には3枚目にして初のフルアルバム『PAVANE』を発表。佐藤隆、大貫妙子、山川恵津子、加藤和彦らを起用した透明感あふれるヨーロピアンムードの作品群で、その後の音楽面での方向性を決める1作となった。同年末にはNHK『紅白歌合戦』にも出場している。

 渡辺典子はこの年、角川のアニメ映画『カムイの剣』の同名主題歌を発表。渡辺は役者としては映画に関わっていない、純然たるシンガーとしての起用である。さらに自身の3作目の主演映画『結婚案内ミステリー』の主題歌「野ばらのレクイエム」もリリース。ちなみに原田、渡辺ともに翌年には角川春樹事務所から独立し、大人の役者への変貌を図っており、その意味では2人ともこの’85年がアイドルとしてのラストイヤーと呼べる。

 ここまでの展開を見てもお分かりの通り、従来のトップアイドルたちも人気をキープし続けていたため、’85年のアイドルシーンはかなりの飽和状態にあった。そこでこの年にデビューしてきた新人たちはどのような形で頭角を表してきたのか、次回で検証していきたい。

【Part2】に続く)