2025年6月号|特集 ジャパニーズ・フュージョン

【Part2】 栗本斉 『CROSSOVER CITY』シリーズ企画・監修・選曲・解説

会員限定

インタビュー

2025.6.12

インタビュー・文/真鍋新一 写真/山本佳代子


【Part1】からの続き)

今よりもずっとジャズやフュージョンがラジオから当たり前のように流れていましたね(栗本)


── 「昔もシティポップの延長でフュージョンを聴いていた」というお話がありましたが、栗本さんご自身のフュージョン体験はいつ頃からだったんですか?

栗本斉 中学生になったくらいですね。音楽を聴くこと自体にハマって、それがちょうどフュージョンの全盛期で。レコードを買うお金がないので、ずっとラジオを聴いていました。昔、『FMレコパル』や『FM STATION』などのFM雑誌がありましたよね。こうした雑誌には番組表が付いているんですが、オンエアする楽曲のリストも事前に全部載るんですよ。たしか、クラシックは赤い字で、ジャズとフュージョンが青い字だったかな。同じ世代の音楽好きとはちょっと通ってきた道が違うんですが、僕の場合はキース・ジャレットやチック・コリアのような、日本でも人気のあったECMレコードのクラシックとクロスオーヴァーしたジャズから入っていて、まだ知識のなかった中学生なりに、雑誌で青い文字で書いてあった番組を片っ端からチェックしていったんです。

『FM STATION』
1982年12月6日~12月19日号 (ダイヤモンド社)



── FMを通じてジャンルがポピュラーになっていく流れは完全にシティポップと同じですね。ラジオがあれば中学生にも届く。

栗本斉 NHK-FMでは『クロスオーバーイレブン』があって、最小限のナレーションで、曲は必ずフルでかける音楽主体の番組でした。それまでのラジオ番組のように、長いおしゃべりの合間に音楽が少しかかるというスタイルとは全然違う。他にもNHKだと『セッション』というスタジオライヴの番組もありました。公開収録や生放送だった時期もあったんじゃないかな。『セッション ’82』とか『’84』とか、年によって番組名が変わるんです。

── どちらの番組も割と最近(2000年代以降)まで放送していたんですね。調べてみたら両方とも1978年11月からの番組でした。

栗本斉 FM東京(現:TOKYO FM)では井上堯之さんが司会をしていた『Lo-D ライブコンサート』という番組もありました。これも生放送。ポップス系やロック系と同じように、ジャズやフュージョンの人たちも出ていたんです。他にFM東京だと土曜の夜中に渡辺貞夫さんの『マイ・ディア・ライフ』という番組もあって、カシオペアやザ・スクェアといった当時の若手フュージョン・ミュージシャンを呼んで一緒に演奏することもありました。

── それは贅沢ですね! 観客を入れたスタジオライヴで生放送、みたいな発想ってやっぱり、ステレオ放送の特性を最大限に活かす結果の企画として、この手の音楽の特性がうまく時流に乗った結果ですよね。

栗本斉 そしてそれがちゃんと当時の若者たちに届いたということが大きいと思います。今よりもずっとジャズやフュージョンがラジオから当たり前のように流れていました。特別に意識はしていなくても、フュージョンが「心の音楽」になっている人って同世代には多いと思いますよ。僕もそれほど深く聴いていたわけではなかったはずなのに、気がついたらラジオをカセットテープにエアチェックして、何回も繰り返し聴くくらいにのめり込んでしまっていた。まさにフュージョンを「歌のないシティポップ」として楽しんでいたんです。


── 中学生くらいの年齢だと、音楽の楽しみ方は大人とそんなに変わらないものですよね。「自分はこれが好きなんだ!」という方向性が自覚できた人は特に。

栗本斉 ただ、高校に入る頃になるとバンドブームが来て、ここでシティポップやフュージョンが一旦古臭いものとしてみなされるような風潮が出てきました。

── 80年代の終わりですからいわゆる「イカ天系」の全盛期ですか。若者向け音楽のスタイルが一気に変わっていった時代。




栗本斉 (くりもとひとし)
音楽と旅のライター、選曲家。1970年生まれ、大阪出身。レコード会社勤務時代より音楽ライターとして執筆活動を開始。退社後は2年間中南米を放浪し、帰国後はフリーランスで雑誌やウェブでの執筆、ラジオや機内放送の構成選曲などを行う。開業直後のビルボードライブで約5年間ブッキングマネージャーを務めた後、再びフリーランスで活動。著書に『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』(毎日コミュニケーションズ)、『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『喫茶ロック』(ソニー・マガジンズ)、『Light Mellow 和モノ Special』(ラトルズ)などがある。2022年2月に上梓した『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が話題を呼び、各種メディアにも出演している。近著は2023年刊行の『「90年代J-POPの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)。『CITY POP STORY 〜 Urban & Ocean』(2023年)、『CITY POP GROOVY ’90s -Girls & Boys-』(2024年)、『CITY POP STORIES -’70s & ’80s-』(2024年)、『CROSSOVER CITY』シリーズ(2025年)など数多くのコンピレーション・アルバムの監修・企画・選曲・解説を手がけている。