2025年6月号|特集 ジャパニーズ・フュージョン

①大野雄二『SPACE KID』|名盤21 from『CROSSOVER CITY』

レビュー

2025.6.2


大野雄二
『SPACE KID』

1978年発売

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1. PROLOGUE -CRYSTAL LOVE-
2. SPACE KID
3. INTERLUDE
4. MAYFLOWER
5. NEVER MORE
6. MELTING SPOT
7. SOLAR SAMBA
8. DANCING RACCOON
9. A SINGLE TRACE OF LOVE
10. EPILOGUE -CRYSTAL LOVE-

シティ・ポップ/AORのインスト・ヴァージョンとしても楽しむことができる明瞭なサウンド・メイク


 大野雄二といえば、アニメ「ルパン三世」シリーズで彼の音楽で耳にしたかたも多いと思う。あの軽妙で軽快なタッチは大野の作曲センスに依るところが大きく、見事に映像の雰囲気に合っている。もしも彼以外が音楽を手掛けていたのなら、まったく違った印象になっていたかもしれない。

 ところが実際は順番が逆で、大野雄二のジャズ/フュージン的な感覚が買われ「ルパン三世」シリーズの音楽に起用されたのだ。大野のキャリアは古く、60年代初頭から学生バンドで腕をあげ、在学中にすでにピアニストとしてプロ・デビューしている。ジャズ・ピアニストとして、日野皓正、白木秀雄、富樫雅彦、笠井紀美子などのレコーディングに参加。

 70年代に入ってからは、作曲家/編曲家に軸足を移し、TVドラマや映画音楽などを手がけるようになる。市川崑が監督し、石坂浩二が主演した映画「犬神家の一族」のサウンドトラックも、この頃の作品だ。

 ’78年のソロ・アルバム『スペース・キッド』は、大野雄二がミュージシャンとして久々にスタジオに入った作品集。当時流行していたクロスオーヴァー/フュージョンに挑戦したアルバムだ。ラテン・ビートやファンキーなディスコ・ビートを取り入れたり、さまざまなアプローチで、音楽の融合を試みている。

 メンバーには、ギタリストの松木恒秀、ベースの岡沢章、ドラムスの市原康、それにソニア・ローザのヴォーカルなどが加わっている。大野雄二自身も、アコースティックなピアノだけでなく、モーグ・シンセサイザーや発売されたばかりのヤマハの電子ピアノCP-70、フェンダーのローズ・ピアノなど、様々な楽器に取り組んでいる。

 タイトル・トラックの「Space Kid」は、サックスの名手ジェイク・コンセプションをフィーチャーした曲で、サンバのリズムに熱い女性コーラスが絡んでいく。全体に明瞭なサウンド・メイクで、シティ・ポップ/AORのインスト・ヴァージョンとしても楽しむことができるはずだ。中には「ルパン三世」にそっくりな曲も含まれている。

文/小川真一