2025年6月号|特集 ジャパニーズ・フュージョン

【Part1】新世代鼎談! TAMTAM高橋アフィ×パソコン音楽クラブ 柴⽥碧・西山真登

座談会

2025.6.2

インタビュー・文/柴崎祐二 写真/増永彩子


今回のコンピレーション・アルバム・シリーズ『CROSSOVER CITY』が、レコード会社数社をまたいだ大規模企画として成立したことからも分かる通り、「フュージョンの復権」は、今や定着期に入ったと言ってもいいだろう。大きな流れとしては、同時並行的に展開してきたシティポップの復興や、80年代サウンド全般への関心の高まりがあったことは間違いないが、そうした周辺ジャンルと比べても、特にドラスティックな変容を経てきたのが、この間のフュージョン受容の実態だったといえる。

これまで、そうした状況にまつわる様々な記事が出され、多様な観点から分析がなされてきたわけだが、改めて、「フュージョン非リアルタイム世代」のミュージシャンたちの生の声を訊いてみることで、現在に至る流れや、このジャンル特有の魅力が、よりはっきりと見えてくるだろう。

そこで今回は、レゲエやダブを出発点にコンテンポラリーなR&Bやジャズへのアプローチを続けてきたバンドTAMTAMの高橋アフィと、旧式シンセサイザーや音源モジュールを駆使した音作りでDTM新時代を牽引し続けるパソコン音楽クラブの二人=柴田碧、西山真登を招き、フュージョンをテーマとするロング鼎談を実施した。


高中正義さんのように、曲全体との関係の中でギターのフレーズが光っているようなものはとても魅力的に聞こえます(西山真登)


── TAMTAMとパソコン音楽クラブは、これまでライヴ等で面識はあるんですか?

西山真登 今まで共演も機会なくて、実は今日が初対面です。

── シーンの出自みたいなものも、あまり被ってない感じですよね。東京のバンド・シーン出身のTAMTAMと、片や関西出身/ポスト・ネットレーベル世代のパソコン音楽クラブ、という構図。

高橋アフィ そうですね。

── 今フュージョンの話をする場合、元々どんな音楽観を持っていたのかという意味で、こういう話が意外に重要になる気がするんです。両者は年齢的にもちょっと離れてますよね。

高橋アフィ 僕が1987年生まれで……。

西山真登 1994年生まれです。

柴⽥碧 1995年ですね。

高橋アフィ 僕なんかは、自分の中の基本的な感覚として、元々フュージョンはちょっと苦手なものとして認識していたところがあるんですけど、その点、パ音のふたりはちょっと違う感覚なのかなと思っていて。

西山真登 確かにそれはあるかもしれないですね。自分がフュージョンを意識して聞き出したのは2010年代に入る頃だと思うので、その前後で、フュージョンに対する世の中的な印象も大分違っているんだろうなと感じます。

── 高橋さんがフュージョン的なものと最初の出会ったのはいつだったんですか?

高橋アフィ 高3の時です。吹奏楽の夏合宿があって、練習以外の時間は暇になるとみんなでマリオカートをやる感じの無邪気な部活だったんですけど、ひとりだけイケてるやつがいて、「みんなでこれ聴こうよ」と言ってマイルス・デイヴィスの『アガルタ』(’75年)と『パンゲア』(’75年)のCDをかけたんです。

柴⽥碧 たしかにそれはイケてる(笑)。

高橋アフィ ちなみにそいつは、後に三毛猫ホームレスの一員として活動することになるhironicaなんですけど。

西山真登 へえ〜!

── いわゆるベタなフュージョンというより、それ以前の時代のクロスオーヴァー的なものとの出会いが先だったんですね。

高橋アフィ そうです。それまでジャズっていうと、フォービートで、生楽器で、みたいなイメージだったので、こんなにビートが強くて、しかも電気楽器とかもガンガン入ってていいんだ、という驚きがあって。これはカッコいいぞと。その後、いわゆるフュージョンといわれているものを聴いて、「あれ、こんなポップなの? っていうか、これもジャズの範疇に入るの?」と思った記憶があります。

高橋アフィ(TAMTAM)


── クロスオーヴァーとフュージョンの違いというのは重要ですよね。エレクトリック・マイルスとか初期のウェザー・リポートとかが、結果的にフュージョンの始祖として扱われているけど、歴史的に見れば、それらはあくまで「電化ジャズ」であって、「クロスオーヴァー」である、という構図。

高橋アフィ そうそう。僕の世代だと、当時DC/PRGなど菊地成孔さんのやっていることがすごくクールなものとしてあって、ああいう複雑なフォルムを持ったものをジャズの最新形だと思っていたので、同時期に昔のフュージョンを聴いて、「あれ?」っと拍子抜けしてしまったんです(笑)。やたら分かりやすいメロディを弾くし、とにかく明るいじゃないですか。今となってはそういう部分こそポジティブに受け止めているんですが、当時は俗っぽくて堕落した商業的な音楽だと思っていて……シンプルに言うと苦手でした。

── 僕も1980年代の生まれなので、その感覚はよく分かります。

高橋アフィ それこそ、1970年代のハービー・ハンコックとかは、その頃から俄然イケてるものとして聴いていたんですよね。ジャズ・ファンクとか、インストのソウル的なものの一環として。あとは、ヒップホップのネタ元としてボブ・ジェームスを聴いたりとか。

── 一方でその辺りって、明確に「これはクロスオーヴァー」、「これはフュージョン」という風に明確に分けるのが難しくなってくる領域でもありますよね。

高橋アフィ そうなんですよね。だから今思い返すと、苦手とか言いながら一般的にフュージョンとされているものも聴いていたなと思ったりもするんですけど(笑)。それこそ,高中正義さんの『ブラジリアン・スカイズ』(’78年)とか、ブラジル風のカッコいいインストとして聴いてたなあ、と。

── パ音のおふたりのフュージョンとの出会いはどんな感じですか?

柴⽥碧 僕は中学生の頃に聴いたのが最初かなと思います。とはいっても、その頃は「こういう音楽がフュージョンだ」というはっきりしたイメージもなくて。高橋さんと一緒で、ヒップホップの元ネタを聴くのにハマって、ボブ・ジェームスの『タッチダウン』(’78年)とかクルセイダーズに触れたんだと思います。ブラジルのアジムスとかも。普通にカッコいいなと思って聴いてました。順番でいうと、その後にフュージョンとかクロスオーヴァーっていう言葉を知った感じですね。あとは、TRANSONICレーベルとかの日本のテクノにハマったのも大きかったですね。ファンタスティック・エクスプロージョンが、大野雄二さんのユー&エクスプロージョン・バンドをネタにしているのを知ったり。


T-SQUARE
『TRUTH』

1987年発売(ジャケットは2018年発売のアナログ盤)


── ちなみに、柴田さんの子供の頃にもT-SQUAREの「TRUTH」ってまだテレビで流れてました? 僕らの世代に対するあの曲の刷り込み力は半端じゃないものがあるんですが。

柴⽥碧 なんとなく覚えてます。テレビでF1が映ると、なにかにつけてあの曲が使われていた記憶があって。それでいうと、ホームセンターとかで流れているJ-POPのフュージョン・アレンジみたいなのとかも記憶に結びついてます。やたらとリード楽器のメロディが立ってるインストで、親しみやすくて、なんというか、「公の音楽」だと思って聴いてました(笑)。

西山真登 いい表現だね、「公の音楽」って(笑)。

柴⽥碧 商業施設のBGMとかそういう感じのフュージョンの使われ方って、沢山の大人の過去の記憶に結びついている分、1990年代特有のものだと思われるかもしれないんですけど、USENの番組表とかを見てみても、今でもバリバリ現役なんですよね。スーパーとか商店街の店内放送の後ろでガンガンかかってますし。それも相当バキバキなやつが。

柴⽥碧(パソコン音楽クラブ)


── そういうエレベーター・ミュージックとしての刷り込みも相当大きいでしょうね。

柴⽥碧 そう思います。けど、当時は自分の中で、ボブ・ジェームス、クルセイダーズ、アジムス的なものと、そういう「公の音楽」として使われてるようなフュージョンは別のものとして捉えていた記憶がありますね。テーマとアドリブがあって、みたいなジャズ構造は共通しているけど…。「フュージョン」の懐の広さを感じるのと同時に、それがジャンルというよりかは「融合」という名の通り、"状態"を示しているなと感じます。

── 西山さんは?

西山真登 僕は高橋さんや柴田くんとは全然違う入り方です。僕、元々中学の頃からギターを弾くのが大好きだったので、そっちのルートですね。今振り返るとめちゃくちゃ偏った音楽観なんですけど、とにかくテクニカルなギター・ソロを偏愛してたんです。自分でもソロばかり練習していて(笑)。

── いわゆる「ギター・キッズ」みたいな感じですかね。「速弾き命!」みたいな。

西山真登 まさにそうです。

── そういうのって、僕みたいな1980年代生まれの人間にはよく分かる文化なんですけど、1994年生まれの西山さんもそうだったっていうのはちょっと意外かも。

西山真登 たしかに、自分の周りでは割と珍しかったと思います。父親の知り合いのおじさんがブルース好きで、インプロをめちゃくちゃやっている人で。そこからの影響が大きかったですね。そのお陰で、「自分もガンガンソロを弾きたい!」っていう、思い切り中二病的なマインドになってしまって(笑)。

── その点、フュージョン系のギタリストは超絶テクの人が多いから、格好のお手本ですよね。

西山真登 そうなんです。実際そういう視点からフュージョンを聴くようになりましたから。ラリー・カールトン、スティーヴ・ルカサーを筆頭に、日本のプレイヤーだと今剛さんの演奏がめちゃくちゃ好きでしたね。とにかくみんなギター・ソロばかりに注目して、プレイヤーとして崇拝していたので、逆に言うと、音楽全体をちゃんと聴いて影響を受けたのかと言われると自分でもよくわからないところがあって(笑)。

西山真登(パソコン音楽クラブ)


── もう5年くらい前ですけど、THREE THE HARDWAREの動画で西山さんがギターを弾いているのを見て、「この人めちゃくちゃ上手いな!」と思ったのを覚えています。しかも、それがモロにフュージョン風のフレーズで輪をかけて驚きました。

西山真登 そんなのもありましたね(笑)。けど、どっちかといえばある時期からそういう部分には意識して蓋をしてきたので、その動画はあくまで番外編というか……。その後の音楽遍歴としては、そういうギター・キッズ期を経てテクノとかにハマるわけですけど、そうなると、むしろ自分が過去にやってたことが途端にダサく感じるようになってしまって。もちろんギターを全否定してしまったわけじゃなくて、アンサンブルの中のバッキングとか、そっちの方がカッコいいなと思うようになったんです。いずれにせよ、自分にとってフュージョンというと、そういうこそばゆい昔の記憶と結びついてしまっているところがあります(笑)。

── けど、後にパソコン音楽クラブとして角松敏生さんの『She is a Lady』のオマージュ作を作っていたりしますし、再びフュージョン的なものに惹かれるタイミングがあったということですよね?

西山真登 そうですね。もしかしたらそれも、元々フュージョン的なものに触れていた下地があったからこそなのかもなと思っていて。けど、やっぱり今になっても、中学生の時の自分みたいにギターのエゴがガンガン前に出てくるような演奏は苦手ですね。同じギタリストの中でも、たとえば高中さんのように、曲全体との関係の中でギターのフレーズが光っているようなものはとても魅力的に聞こえます。

【Part2】に続く)




TAMTAM
東京を拠点とする4人組。当初はレゲエ/ダブバンドとして活動を始め、次第にジャズ、ソウル、サイケデリック・ポップ、ニューエイジ、エキゾチカなど多様なジャンルの影響をブレンドした音楽性へ発展。グルーヴと陶酔感を基盤に、カラフルなメロディと幻想的なサウンドを特徴とする。

メンバーはKuro(ボーカル、トランペット、シンセサイザー、作詞作曲)、高橋アフィ(ドラム、ビートプログラミング)、ユースケ(ギター)、石垣陽菜(ベース)。

2024年、EP『Ramble In The Rainbow』を米・ワシントンD.C.のレーベルPeoples Potential Unlimited〈PPU〉より海外リリース。発売直後にGilles PetersonのBBC Radio 6 MusicやNTS Radioの番組内でいち早く紹介され、翌週にはBandcamp Weeklyの表紙に登場、作品の特集が組まれるなど注目を集めた。以後も各国のラジオやDJにプレイされ、年末にはBandcampやMr. Bongoなど複数の年間ベスト作品に選出。国内ではRolling Stone Japanの “Future Of Music 2024” に選ばれるなど、各地で反響を呼んだ。

フジロックなど国内フェスへの出演に加え、近年はカナダ、韓国、オーストラリアなど海外へも活動を広げている。

2025年5月、フルアルバム『Where They Dwell』をリリース。


HP: https://tamtam-band.com/
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パソコン音楽クラブ
2015年結成のDTMユニット。 メンバーは⼤阪出⾝の柴⽥碧と⻄⼭真登。アナログシンセサイザーや音源モジュールのサウンドをベースにエレクトロニックミュージックを制作している。他アーティスト作品への参加やリミックス制作も多数⼿がけており、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソング、TVドラマ『電影少⼥- VIDEOGIRL AI 2018 -』の劇伴制作、アニメ「ポケットモンスター」のEDテーマ制作など数多くの作品を担当。 ライヴも精⼒的に⾏っており、FUJI ROCK FESTIVAL '22へも出演し話題となった。2018年に初の全国流通盤となる1stアルバム『DREAM WALK』をリリース。 2019年、2ndアルバム『Night Flow』は第12回CDショップ⼤賞2020に⼊賞し注⽬を集める。その後も継続的にアルバムを制作し、2024年に5枚目となるアルバム『Love Flutter』をリリースした。2025年7月26日、自身2度目となるFUJI ROCK FESTIVAL '25への出演も決定している。

HP: https://www.pasoconongaku.club/
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