2025年5月号|特集 角松敏生

⑰V.A.『SEASIDE LOVERS』(1983)|角松敏生に影響を与えた(かもしれない)洋邦名盤

会員限定

レビュー

2025.5.27


V.A.(music by 井上鑑、松任谷正隆、佐藤博)
『SEASIDE LOVERS』

1983年発表

再生はこちら ▶


1. ラバーズ・パラダイス
2. メルティング・ブルー
3. サン・ベイシング
4. サンセット・アフタヌーン
5. X’S アンド O’S
6. ウインド・ウェイブ・アンド・ワイングラス
7. ココナッツ・アイランド
8. イブニング・シャドウズ
9. ブルー・メモリーズ




西洋の模倣から脱却し、独自の美学を確立していく過程も描いたコンピ


 シティポップの黎明期において、本作は単なるコンピレーション・アルバムの枠を超えた、時代の転換点を象徴する作品として位置づけられる。井上鑑、松任谷正隆、佐藤博という3人の音楽家が織りなすサウンドスケープは、角松敏生が後に確立することになるコンテンポラリー・アーバン・ミュージックの原型を提示していた。特に注目すべきは、このアルバムが持つ“都市の海辺”という独特な空間性である。80年代初頭の日本において、西海岸のAORやフュージョンの影響を受けながらも、日本独自の湿度と情緒を保持したサウンドが確立されつつあった時期に、本作は極めて洗練されたアプローチを見せている。

文/油納将志