2025年5月号|特集 角松敏生

❺『Tiny Scandal』|角松敏生アルバム・レビュー2020s

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レビュー

2025.5.28


角松敏生
『Tiny Scandal』

2024年12月11日発売

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1. NOA
2. Summer Scenery
3. MIDTOWN
4. Evening Shadows
5. SOEMONCHO STREET
6. Flowing Shiny Hair
7. Tequila Mockingbird
8. Tiny Scandal

角松の誇りが全編に渡り迸る、スキルフルかつ瑞々しさに満ちたギター・インストゥルメンタル


 完全な新作としては『Legacy of You』(’90年)以来、実に34年ぶりとなるギター・インストゥルメンタル・アルバム。彼が提唱する“都市生活者による都市生活者のための音楽”=「Contemporary Urban Music(C.U.M.)」シリーズの第2弾であり、第1弾『MAGIC HOUR ~Lovers at Dusk~』からわずか7ヶ月というハイペースで発表された。

 角松自身が影響を受けたさまざまなギタリストの要素を織り交ぜ、積み重ねたスキルで円熟のプレイを聴かせる本作。角松本人は「今時、こんな古めかしいギターフュージョンはあまり制作されないのでは」という言葉を残しているが、個人的にはむしろ現代のリスナーにしっかりと照準が定められている──と感じる瞬間が何度もあった。まず心を掴まれたのが、冒頭のファンキーな「NOA」やドラムブレイクで始まる「MIDTOWN」など、重厚なミディアムグルーヴの楽曲が序盤をガッチリ固めている点だ。強力なカッティングが牽引し、フェンダーローズ系の音色の鍵盤がソロを取る──そうした演奏はクラブジャズ等、1990年代以降のインストゥルメンタルシーンを通過した世代にも馴染むものだろう。後追い世代が80年代のフュージョンを聴く際に苦手とするような、過度にポップなメロディや演奏テクニックを無闇に誇示するような展開は本作には見られない。こうした時流を捉えた絶妙なバランス感覚からは、角松のプロデューサーとしての懐の広さ〜底力が改めて感じられる。

文/TOMC