2025年5月号|特集 角松敏生

⑫Steely Dan『Gaucho』(1980)|角松敏生に影響を与えた(かもしれない)洋邦名盤

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レビュー

2025.5.20


Steely Dan
『Gaucho』

1980年発表

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1. Babylon Sisters
2. Hey Nineteen
3. Glamour Profession
4. Gaucho
5. Time Out Of Mind
6. My Rival
7. Third World Man



現代の音楽制作に多大な影響を与え続ける完璧主義的な制作の極み


 ウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンによる70年代の輝かしい活動の集大成であり、彼らの完璧主義が極限まで追求された作品である。『Aja』(’77年)の洗練されたジャズ・ポップの要素を継承しながらも、さらに冷たく無機質な音響空間を創り出し、都市の暗部でうごめく者たちのドラマを皮肉に満ちた歌詞で描き出す。

 「Babylon Sisters」のスリリングなオープニングから、「Hey Nineteen」の世代間ギャップを描いた風刺、タイトル曲「Gaucho」の不気味な美しさまで、制作に3年近くを費やした緻密な作品だ。マスターテープの消失や機材トラブルなど数々の困難に見舞われたにもかかわらず、バーナード・パーディやマイケル・ブレッカーといった一流ミュージシャンを起用し、ミニマルでありながら緻密に計算された演奏は、まるで真空状態で録音されたかのような不思議な浮遊感を生み出している。

文/油納将志