2025年5月号|特集 角松敏生
❶『EARPLAY ~REBIRTH 2~』|角松敏生アルバム・レビュー2020s
レビュー
2025.5.1
角松敏生
『EARPLAY ~REBIRTH 2~』
2020年5月13日発売
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1. I CAN GIVE YOU MY LOVE
2. Cryin’ All Night
3. DISTANCE
4. Take It Away
5. Can’t Hide Love
6. CRESCENT AVENTURE
7. Lost My Heart In The Dark
8. I Can’t Stop The Night
9. End of The Night
10. ALL IS VANITY
「今なぜAORなのか?」という問いへの明確な回答を提示
アルバムチャート3位のヒットを記録した、リメイク・ベストアルバム第2弾。言うまでもなく、ジャケットはAirplayの金字塔的アルバムのパロディ。これは決して軽いオマージュではなく、昨今のシティポップ・リバイバルにおいて未だ冷遇されている“ロック色の強いAOR”の系譜を、現在進行形のスタジオワークとして更新する意思表明にも思える。
ジャケットが醸す期待感は、冒頭3曲で見事に回収される。オリジナルのままのSEで始まる冒頭の「I CAN GIVE YOU MY LOVE」は、ハードポップ的なサウンドで聴き手を一気に80年代の空気で包み込む。その流れを引き継ぐように、2曲目ではAirplayの名曲「Cryin’ All Night」をキーを落としつつ完コピ再現。ジェイ・グレイドンのギターに留まらず、当時のシンセサイザーの音色まで追求するなど、強い愛着に溢れた名カヴァーとなっている。そして3曲目「DISTANCE」は重厚なコードワークのもと、音色からギターの使い方に至るまで、Airplayの一員であるデイヴィッド・フォスターさながらのパワーバラード。こうした楽曲たちには、昨今のリバイバルが拾えていない重要なレガシーが詰まっている。
以降、ミディアムグルーヴに再編された「Take It Away」、EW&F録音で知られる名曲「Can’t Hide Love」のカヴァー(ディオンヌ・ワーウィック版 × ディアンジェロ版とも言うべきアレンジが白眉!)を挟み、アルバムはR&B〜現代シティポップ的な様相へと移り変わっていく。ここで注目したいのは、初出時に生演奏主体だった楽曲では打ち込みを、逆に打ち込み主体だったものは生演奏を積極的に取り入れている点だ。代表例は当時スクラッチの導入が鮮烈だった「I Can’t Stop The Night」で、ここでは鋭い生ドラムが冴え渡るモダンファンクへと進化し、色褪せない魅力を伝えてくれる。
演奏メンバーには大ベテランの小林信吾から平成世代の山本真央樹まで、年代を超えた顔ぶれが集結。近年のライヴアレンジを取り入れたテクニカルで熱いプレイは、PC主体の制作環境が加速度的に広まる昨今の音楽シーン全域にも一石を投じるものがある。本作は決してノスタルジーに染まることなく、「今なぜAORなのか?」という問いへの明確な回答を提示している。シティポップ界の“生ける伝説”として、最高に格好いいアティチュードだろう。
文/TOMC
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❷『Inherit The Life』|角松敏生アルバム・レビュー2020s
レビュー
2025.5.9