2025年4月号|特集 シュガー・ベイブ

【Part4】伊藤銀次が語るシュガー・ベイブ

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インタビュー

2025.4.23

インタビュー・文/荒野政寿 写真/島田香


【Part3】からの続き)

今シュガー・ベイブが高く評価されているのは当時の山下君たちがスタイルを貫き時代に寄り添わなかったからですよ(銀次)


── シュガー・ベイブは『SONGS』のレコーディングを1974年の秋から本格的に始めますが、その頃の銀次さんはどういう生活をされていたんでしょう。

伊藤銀次 ココナツ・バンクが解散してからも僕は福生に住んでいて、気分的には暗かったんですけど。ラッキーなことに、松任谷正隆君とか矢野誠さんがアレンジを担当したセッションで、ギターの仕事をくれるようになったんですよ。でも福生から通っていましたから、レコーディングが終わる頃には結構遅い時間になって電車が終わってしまうので、帰れなくなっちゃう。

 その頃、もうシュガー・ベイブはマネージャーの長門芳郎さんと一緒にテイク・ワンという山下洋輔さんがいた事務所に移っていて。そこにいた、後でシュガー・ベイブのマネージメントを引き継ぐ柏原卓さんの部屋も、事務所と同じ笹塚ボウルのビルにあってね。よく泊まりに行ってたら、「銀次も大変だろ。東京に出てくればいいじゃないか」って言われたんだけど。本当に全然金がないんだよ、と話したら「じゃあ部屋代を払わなくていいから部屋に居候していいよ。その代わり、電話番をやってくれ」ということになりました。それで笹塚へ出てきて、シュガー・ベイブが練習をしている所にも顔を出しやすくなったし、いろんな人たちと交流できるようになったんです。


シュガー・ベイブ
「DOWN TOWN」

2025年4月23日発売


 もうひとつラッキーだったのは、僕と山下君が「DOWN TOWN」のデモを録る時に手伝ってくれたPAエンジニアの矢崎芳博さんが、それからいろんな人に「デモテープを録れるよ」と声をかけるようになって(笑)。僕が事務所にいると、矢崎さんから電話がかかってきて「今ひまだったら、かぐや姫の正やん(伊勢正三)が来てるんだけど、デモテープを録ってるからちょっと来てギター弾いてくれない?」って言われてね。そこで伊勢さんと会って1週間ぐらい経ってから、驚いたことに伊勢さんが結成した風のレコーディングに呼ばれたんです(1975年6月発表の『風 ファーストアルバム』)。同じように、バズの小出博志君も矢崎さんと知り合いで、デモでギターを弾いたら、バズのレコーディングに呼んでくれて(1975年5月発表のシングルB面曲「サマー・ビーチ・ガール」)。そんな風に、都心へ出てきてから、いろんな人脈がつながっていった時期でした。

── そんな流れで、ハイ・ファイ・セットのバックもやることになったわけですね。

伊藤銀次 ハイ・ファイ・セットは松任谷君からの紹介ですね。彼が僕とユカリ(上原裕)をレコーディングでよく使ってくれて。アメリカでジェームス・テイラーとかキャロル・キングの音楽が流行るようになってからは、譜面でガチガチにやるんじゃなく、仲のいいミュージシャンたちが集まって意見を出し合いながらヘッドアレンジで作っていくサウンドが、日本でも求められ始めたんです。キャラメル・ママが、まさにそうですよね。

 たとえば矢野誠さんと仕事をする時は、「今日は何やればいいですか?」と訊くと、コードネームだけ書いた譜面を渡されて、「銀次、これにかっこいいイントロを考えてくれない?」と言われる。それで頭に浮かんだフレーズを弾いてみて、「いいね、それで行こう」みたいな…そんな感じだったんですよ。そういうスタイルのアレンジに変わってきたので、僕みたいなギタリストでもずい分仕事が増えたんです。たまたま使ってもらえたけど、そのうち他のアレンジャーの方からも仕事が回ってくると、音符がしっかり描かれてる仕事も多くなってきてストレスを感じ出してくるとともに、自分がやりたいのはスタジオミュージシャンとして働くことではなく、自分自身で音楽を作ることだと気付くんですけど。

── ハイ・ファイ・セットのファースト・アルバム『ハイ・ファイ・セット』(1975年2月発表)のレコーディングに参加した後、しばらくバックバンドの一員としても活動されたんですよね。




伊藤銀次 (いとう・ぎんじ)
●1950年12月24日、大阪府生まれ。1972年にバンド“ごまのはえ”でデビュー。その後ココナツバンクを経て、シュガー・ベイブの’75年の名盤 『SONGS』(「DOWN TOWN」は山下達郎との共作)や,大瀧詠一&山下達郎との『NIAGARA TRIANGLE VOL.1』(’76年)など,歴史的なセッションに参加。’77年『DEADLY DRIVE』でソロ・デビュー。以後、『BABY BLUE』を含む10数枚のオリジナル・アルバムを発表しつつ、佐野元春、沢田研二、アン・ルイス、ウルフルズなど数々のアーティストにプロデュースやアレンジで関わる。『笑っていいとも!』のテーマ曲「ウキウキWATCHING」の作曲、『イカ天』審査員など、多方面で活躍。

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