2025年4月号|特集 シュガー・ベイブ

【Part3】伊藤銀次が語るシュガー・ベイブ

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インタビュー

2025.4.14

インタビュー・文/荒野政寿 写真/島田香


【Part2】からの続き)

「DOWN TOWN」は笹塚で生まれた曲、ということになります(銀次)


── ザ・キング・トーンズのアルバムのために山下達郎さんと曲を共作したのは、シュガー・ベイブのレコーディングが始まる少し前でしたよね。

伊藤銀次 間もなくレコーディングが始まるという頃だったと思います。キング・トーンズが15周年記念のアルバムを制作することになって、彼らのルーツはドゥーワップだから洋楽っぽいアルバムを作ろうという企画があってね。キング・トーンズの事務所と繋がりがあったティン・パン・アレーの事務所の社長さんから、僕や山下達郎君にも声がかかりました。

 僕はキング・トーンズのスタイルが頭にありつつ、フォー・トップスみたいに4人で踊りながら歌う曲がいいんじゃないかと思ってね。そこから浮かんできたのが、Down townへ くりだそう、っていうあの部分なんです。だからもともとは、フォー・トップスがモータウンからダンヒル・レーベルに移籍してから作った「君を失って(I Just Can't Get You Out Of My Mind)」(アルバム『メイン・ストリート・ピープル』に収録)みたいな感じがいいなとイメージして作りました。

 あの部分はすぐに浮かんだんだけど、どうもAメロが思いつかない。何度トライしてもね。いろいろ試してみたけれど、どれもあんまりしっくりこないんですよ。それで山下君に電話して、キング・トーンズの曲を作ってるか聞いてみたら、全然作ってないと言う。銀次はどう? と聞かれて、サビだけ思いついて先に進まない曲があるんだと話した結果、じゃあ一緒にやろうかということになりました。


シュガー・ベイブ
「DOWN TOWN」

2025年4月23日発売


 当時シュガー・ベイブの事務所があったビル……今もあるボウリング場、笹塚ボウルが入っているビルなんですけど、そのマンションの一室にPAエンジニアの矢崎芳博さんが住んでいて。彼がちょっとしたレコーディングの機材を持っていたので、山下君とふたりで部屋までお邪魔してデモテープを録ってもらいました。最初は、Down townへ くりだそう、しかなかったけれど、山下君は曲を聴きながらどんどん他のパートを作っていって。僕のイメージはフォー・トップスでしたけど、山下君はアイズレー・ブラザーズにはまっていたので、そういう要素がイントロなどに入ってきたんです。彼が曲を作ってる間に僕は歌詞を考えて…という感じで、あっという間に「DOWN TOWN」ができました。だから、あれは笹塚で生まれた曲、ということになります。何年か前に矢崎さんのところからその時のデモが出てきて、コピーをもらいましたよ。

 せっかくだからもう何曲か作ろうということで、「遅すぎた別れ」と、もう1曲、「愛のセレナーデ」も山下君と書きました。アイディアはどちらも僕で、あの頃、レコード大賞の新人賞を獲った麻生よう子さんの「逃飛行」っていう曲が流行ってたんです。それまでつきあってきたダメな男に愛想が尽きて、その男を置いて旅に出るっていう歌詞で、物語っぽくて面白いなと思ってね。そういう詞を、キング・トーンズのベース・ヴォーカルの人に語ってもらったら面白いんじゃないかな? と思いついて。山下君にスローバラードを考えてみてよって言ったら、ゆったりした3拍子で、「遅すぎた別れ」の曲ができてきました。低音の人だけだとキング・トーンズらしい曲にならないから、サビで内田正人さんのリードヴォーカルが出てきて「アア〜ッ」て歌う、そういう構成にしようと話して。他の2曲もそうですが、いわば企画が僕、実際にサウンドを作ったのは山下君っていうコラボなんですね。

 「愛のセレナーデ」は、マーヴィン・ゲイの『レッツ・ゲット・イット・オン』というアルバムに入っていた「遠い恋人(Distant Lover)」っていう曲が、凄く好きでね。遠くの恋人に想いを馳せる歌というのがロマンティックで、とてもいいなと思って、そこを出発点にして作り始めた曲です。山下君が作ったメロディに僕が歌詞をはめて、これで3曲目ができました。




伊藤銀次 (いとう・ぎんじ)
●1950年12月24日、大阪府生まれ。1972年にバンド“ごまのはえ”でデビュー。その後ココナツバンクを経て、シュガー・ベイブの’75年の名盤 『SONGS』(「DOWN TOWN」は山下達郎との共作)や,大瀧詠一&山下達郎との『NIAGARA TRIANGLE VOL.1』(’76年)など,歴史的なセッションに参加。’77年『DEADLY DRIVE』でソロ・デビュー。以後、『BABY BLUE』を含む10数枚のオリジナル・アルバムを発表しつつ、佐野元春、沢田研二、アン・ルイス、ウルフルズなど数々のアーティストにプロデュースやアレンジで関わる。『笑っていいとも!』のテーマ曲「ウキウキWATCHING」の作曲、『イカ天』審査員など、多方面で活躍。

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