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スペシャルLIVEレポート <PANDORA LIVE 2025 -OPEN THE BOX->2025年2月28日@Zepp DiverCity(TOKYO)

レポート

2025.3.10

取材・文/柳 雄大 写真/上飯坂一、田中聖太郎、島田香


小室哲哉、浅倉大介による音楽ユニットPANDORA、その7年ぶり再始動となるライヴ<PANDORA LIVE 2025 -OPEN THE BOX->が2025年2月28日、Zepp DiverCity(TOKYO)で行われた。ゲストヴォーカリストに西川貴教、Beverlyを迎え超満員となるファンが詰めかけた、一夜限りの歴史的公演をレポートする。

7年の時を経て、2人のプレイヤーが静かに動き出す


 会場内は1階スタンディングから2階席立ち見まで満杯。穏やかなピアノのBGMが流れる中、約2300人のオーディエンスがその“箱”の開く瞬間を待っていた。ステージ中央と、ホール両サイドの壁面にはPANDORAのロゴマークが投影されているが、その他に過分な装飾は見られない。これから舞台に立つプレイヤーに視点を集中させるステージ構成だ。やがて定刻の19:00を迎えると、暗転とともに重厚なインストナンバー「Anthem In The Dark」が流れ出す。

 TM NETWORKのメンバーであり、J-POP史にその名を刻むプロデューサーでもある小室哲哉。accessとして活躍するその以前より、マニピュレーターやサポートキーボーディストとしてTM NETWORKを長年に渡り支えてきた浅倉大介。2人は1980年代から現在に至るまで師弟関係にあることで知られている。そんな彼らが2017年に結成したユニットがPANDORAだ。デビュー直後、当時新人であった女性シンガーBeverlyを迎え、TV特撮ドラマ『仮面ライダービルド』主題歌「Be The One」をリリースするなど幅広いファン層にアプローチする活動をしていたが、翌2018年のビルボードライブ東京・大阪公演を最後に休眠状態にあった。そこから時代は平成から令和へと移り ──2025年、PANDORAが7年ぶりの再始動を果たす。

 PANDORAはケミカル・ブラザーズ、ダフト・パンク、アンダーワールドなどを参考にして生まれたという、ヴォーカルがいない2人組ユニットだ。そのうえで今回のライヴにはゲストヴォーカリストとしてBeverly、そして西川貴教を迎えることが告知された。2018年のビルボードライブ公演は小室・浅倉のみで行ったライヴであったことから、そこからはまったく違った構成やセットリストになることが予想できる。また、西川といえばT.M.Revolutionのシンガーであり、浅倉はその楽曲を担うプロデューサー。この2人がステージ上に並ぶのは10年以上ぶりとあって、いくつもの意味で貴重な共演が繰り広げられる機会となった。


photo: 田中聖太郎


 ライヴが開演すると、ステージの下手(しもて)側に小室、上手(かみて)側に浅倉がそれぞれの持ち場で演奏を始める。過去のイベント出演やMVなどの印象から、PCやミキシングコンソールの操作中心のDJに近いスタイルも想像したが、本公演ではキーボード、シンセの愛機など数々の機材が2人を囲むようにずらりと並んでいた。そして序盤から、2人がシンセを通じ思い思いの音を重ね楽曲を届けていく。


photo: 田中聖太郎


予測不可能なカヴァーに、Beverlyと3人で作り上げた新曲も初披露


 セットリストが4曲目に入るタイミングで、まずは1人目のゲストヴォーカリストが登場。PANDORAの1stミニアルバム『Blueprint』に収録された「Shining Star」(原曲ではMiyuuがヴォーカルを担当)をBeverlyが歌う。持ち味であるハイトーンヴォイスを遺憾なく発揮したパフォーマンスだ。演奏後、「7年ぶりにパンドラの箱が開いたっていう。開けました。あけましておめでとうございます!」と口を開いたのは小室。TM NETWORKのライヴでは小室を含めメンバーがMCを行わないことでお馴染みだが、PANDORAの、特にこの日のライヴでは随所にMCを挟み、セットリストの意図などを伝えながら進行していく旨が伝えられた。一方の浅倉はあえてマイクを用意せず、ステージMCは全面的に小室に任せるスタンス。そのうえで、要所要所で手拍子を促すなど、演奏中にオーディエンスとのコミュニケーションを積極的に行うあたりが浅倉の役割となっていた。

 こうしたMCの中、「洋楽ではテイラー・スウィフトさん以降のカントリー・ブームで、カントリーのクラシックがバズってるんですけど。これはまだ誰も(現代の新たな形でのカヴァーを)やってないかなと思って」と小室が紹介したのは「Sunshine On My Shoulder」。ジョン・デンバーが1970年代に歌った原曲を、PANDORA流エレクトロサウンドへ大胆にアレンジしBeverlyの歌とともに聴かせる。まさに予想外の選曲だ。イントロのギターフレーズに合わせ、ギターをかき鳴らす真似をする小室の楽しそうな表情も印象的だった。

 続いての「Guardian」は、小室がBeverlyをフィーチャリングした2018年リリースの楽曲。原曲はフルオーケストラも入った壮大なバラードだ。PANDORAのライヴアレンジではリズムトラックが特徴的で、オリジナルの幻想的なイメージはそのままに、前へ前へと突き進んでいくような力強さが加わる。小室のMCでは、このアレンジを浅倉が担当したことに触れ「PANDORAはアレンジャーが 2人いるのですごい楽なんだよね」「(浅倉の作成した音源は)次の日のリハーサルに間に合うよう、朝4時半ぐらいにはちゃんと届くんです」と、その仕事ぶりを称えていた。

 作曲を小室が、作詞をBeverlyが、編曲を浅倉が手がけたという新曲「Twilight」の初披露に際しては、夕暮れ時(Twilight)を人の心情に置き換えたという作詞のポイントをBeverly自ら紹介。日本語と英語の両方を駆使して話をしつつ、「全体的に、私が言っているのは……“PANDORAが大好き”です!」と笑顔で締めくくる。これに続き、Beverlyのアルバム『from JPN』に小室が提供した「One Vision」もPANDORA仕様で演奏。ここまでで最も「陽」なナンバーを届けると、Beverlyのゲストパートにひと区切りをつけた。


photo: 上飯坂一


大いなる期待を背負って、西川貴教が舞い降りる


 ステージ上は、再び2名体制となったPANDORA。小室が「『Blueprint』に入っていて、何回か試験的に演っている楽曲を。今回もやってみよう、ということで……長いんですけど。15分ぐらい?」とヒントを出すと、大きな歓声がこれに応えた。「Aerodynamics」だ。大量のレーザーが放出されるなか、2人の鍵盤が混沌とした世界観を奏で始める。やがて小室がシンセ・パーカッションの印象的なフレーズを叩く中盤から、次第にギアが上がっていく。爆音となった四つ打ちに、折り重なる電子音の洪水。構成やそこかしこのフレーズが“TK”っぽくもあり“DA”っぽくもあり、実に聴きごたえがある。TM NETWORKやaccessで登場するロングインストが彼らのソロワークに興味を持つきっかけになったというファンは多いと思うが、そういう意味でも小室・浅倉のユニットとして真骨頂と言える1曲だ。

 そんな大曲を終えて間もなく、ただちに鳴り始めた「ブンブンブン…」という低音。このイントロで次なる展開を察したオーディエンスから、「エッ!!」という心からの驚きが漏れ聞こえた瞬間が忘れられない。浅倉が弾く儚げなシンセのフレーズに乗せ、2人目のゲストヴォーカリスト・西川貴教が姿を現す──それは、アニメ『機動戦士ガンダムSEED』劇中、地球で戦う仲間たちの窮地に“フリーダムガンダム”が降り立つ最重要シーンと重なる。演奏されている楽曲は、そのシーンの挿入歌として知られるT.M.Revolutionの「Meteor -ミーティア-」だ。歌も、演奏も、原曲にほぼ忠実なアレンジ。小室のシンセはギターパートを鳴らしている。

 T.M.Revolution がデビュー当時に所属したレーベルであったアンティノスレコード。そんなアンティノス時代に残した最後期の楽曲でもある「Meteor -ミーティア-」が、この日のライヴで歌われた意味合いは特別なものだった。


photo: 島田香


「ガンダム」がひと繋ぎになっていく特別なステージ


 「Meteor -ミーティア-」の演奏が終わると、大歓声の中、「どうも西川でございます、よろしくお願いします」という第一声。そして西川は「何よりも今日、こうやってお二人がいらっしゃるところに立たせていただけることを、本当に嬉しく思っております。ありがとうございます!」と感謝を言葉にする。

 2人のプロデューサーに挟まれた立ち位置のせいか、浅倉との久々の共演に際した緊張感からか、やや恐縮気味の西川であったが、MCでは小室が次々と話題を投げかけ空気をほぐしていく。古巣・アンティノス時代の話題を振られると、当時の苦労談について振り返る西川。長い歴史の悲喜こもごもを受け止めつつ、「みんな仲間だから。酸いも甘いも何もかも、知り尽くしてくれてる人たちだから」と、会場に集まったファンへの信頼を口にする小室。2人の話を聞きながら、直接の会話は交わさないもののニコニコと頷いている浅倉。こうしたシーンに立ち会う時間もまた、本公演ならではの特別な空気感に満ちていた。

 そして、ここからの展開が強烈だった。当ライヴには「ガンダムを繋げる」という裏テーマが存在したとのことで、小室、浅倉、西川に縁の深い「ガンダム」関連楽曲が立て続けに披露された。まずは、「INVOKE -インヴォーク-」。先ほどの「Meteor -ミーティア-」と同じくT.M.Revolutionによる、『機動戦士ガンダムSEED』の初代オープニングテーマだ。この曲も浅倉の弾く印象的なイントロに始まり、原曲に極めて忠実なアレンジ。必然的に、この日のセットリストでは最速に達するBPM。後半では、西川の煽りからフロア中に拳が上がる。

 会場の温度がたちまち上昇したその後に、さらなる驚きを与えたのは「BEYOND THE TIME -メビウスの宇宙を越えて-」。映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌であり、オリジナルは1988年のTM NETWORK楽曲だ。西川としては、2月26日にリリースしたソロアルバム『SINGularity Ⅲ -VOYAGE-』において同曲のカヴァーを全く新しいバンドアレンジで発表したばかりだが、この日のライヴではやはり原曲リスペクトの演奏に。シンセの重要なフレーズを浅倉が弾き、サビの印象的なコーラスでは小室がハモりに参加している。ラストは、“メビウスの宇宙を 越えて Beyond the time”のフレーズで西川が決めるシャウトが熱かった。

 そして、このパート最後を飾るナンバーは「FREEDOM」。昨年公開の映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の主題歌で、オリジナルは西川貴教 with t.komuro名義でのリリース。今回は浅倉の参加によるPANDORAバージョンとして、イントロや楽曲全体に新たなアレンジが加えられることとなった。これまでT.M.Revolutionが紡いできた『ガンダムSEED』関連楽曲の系譜として、重要なピースがぴたりとハマるような瞬間だ。西川のヴォーカルの中でもとりわけパワフルな中域をフィーチャーした冒頭部に始まり、抜群の安定感、そして最高の表情で歌が届けられていった。


photo: 田中聖太郎


PANDORAとファンにとっての“あらゆる可能性”が開かれた


 かくしてライヴの盛り上がりがピークを迎えると、前半戦でヴォーカルを務めたBeverlyを小室が呼び込み、本公演のクライマックスである「Be The One」の演奏へとつなげていく。「やっと、ちゃんとした形でできますね」と小室が口にしたように、PANDORA feat. Beverlyのフルメンバーでの披露は7年ぶり。まさに満を持してのパフォーマンスだ。今回は西川が加わったツインヴォーカル版となり、西川は主にBeverlyが歌う主旋律の下ハモを担当。西川の声量に引けをとらないBeverlyの終始伸びやかなヴォーカルが実に気持ちいい。さらに、このライヴでは曲のラストにサビのリフレインが追加。Beverlyとオーディエンスによるコール&レスポンスで、会場中がさらなる熱気と笑顔に包まれた。


photo: 田中聖太郎


 熱唱を終えると、改めてPANDORAの2人へ感謝を述べてBeverlyと西川がステージを後にする。残った小室、浅倉にもう一度スポットライトが当てられると、「せっかくなので、僕らの送り出しの曲をやりたいと思います」と小室。ここでPANDORAから、退場の前に即興のインストという贈り物が届けられることになった。実にユニークだったそのプロセスとは……まず、小室が自分の立ち位置から歩み出て、浅倉の機材が並ぶコーナーに向かう。2人が1台のキーボードを交互に1音ずつアドリブで鳴らす。そして集まった8つの音を浅倉がサンプリングすると、フレーズがループして曲の基礎部分となる。ここに、持ち場に戻った小室、浅倉がそれぞれシンセで音を重ねていく、といった流れ。この工程はつまり、PANDORAの楽曲制作の過程そのものだったのではないだろうか? 文字通り“音を楽しんでいる”2人の姿に誰もが見入り、そこから生まれる音楽に没頭していた。

 最後のインストの演奏前、小室は最後のMCでPANDORAというユニット名、そして<OPEN THE BOX>と題されたライヴのタイトルについて次のように語った。

 「(ギリシャ神話における)パンドラの箱という言葉には、一般的にはネガティブな意味もあるんですけれども。よくよく調べると、その箱の底には希望が隠れているという意味があるらしくて。開いても閉じても、そこには希望が必ずある」。

 本公演は、オープニングナンバー「Anthem In The Dark」の“闇の中”から、徐々に光が射していくように始まった。そこから緩急を繰り返しながら、希望に向かって突き進んでいくような構成。「Be The One」のラストパートにも「We’ll take darkness into brightness」というフレーズがあるが、PANDORAの音楽には“絶望”から“希望”へ向かっていくというテーマが一貫して感じられる。どこまでが意図していたものかは定かではないが、「パンドラの箱の最後に希望を見出す」という小室のイマジネーションが構成上も反映されたライヴとなったことは確かだ。

 PANDORAにはこれまで直接的な関わりのなかった西川貴教が登場したこと、TM NETWORKとT.M.Revolutionの楽曲が連続した流れの中で演奏されたことも驚きだった。これだけの奇跡が起こせたなら、今後はPANDORAがまた別の形で、彼らに縁のあるアーティスト(それはヴォーカリストだけではないかもしれない)を招き実験的に演奏したり、新しく曲を生み出せる場になる可能性ができたのではないか。あらゆる可能性がここに開いた ──その意味では、まさにPANDORAとファンにとっての「パンドラの箱」のような、歴史的意義のある一夜だった。


photo: 田中聖太郎



2025年2月28日・Zepp DiverCity(TOKYO)
<PANDORA LIVE 2025 -OPEN THE BOX->


Set List
01. Anthem In The Dark
02. 336
03. I Believe It
04. Shining Star(Vo:Beverly)
MC
05. Sunshine On My Shoulder(Vo:Beverly)
MC
06. Guardian(Vo:Beverly)
MC
07. Twilight(Vo:Beverly)
MC
08. One Vision(Vo:Beverly)
MC
09. Aerodynamics
10. Meteor -ミーティア-(Vo:西川貴教)
MC
11. INVOKE -インヴォーク-(Vo:西川貴教)
MC
12. BEYOND THE TIME -メビウスの宇宙を越えて-(Vo:西川貴教)
13. FREEDOM(Vo:西川貴教)
MC
14. Be The One(Vo:Beverly、Vo:西川貴教)
MC
15. Inst




小室哲哉×浅倉大介 約7年ぶりにPANDORA再始動!
PANDORA LIVE 2025 -OPEN THE BOX- Blu-ray 5月28日発売!

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