2025年2月号|特集 田島照久 MUSIC ARTWORKS
【Part4】アート・ディレクター田島照久ロング・インタビュー
インタビュー
2025.2.25
インタビュー・文/大谷隆之 写真/島田香

(【Part3】からの続き)
尾崎(豊)くんが歌ってるように、自分が自分であるためには、つねに戦って勝ち取らなければいけないものもある(田島)
── 『田島照久 MUSIC ARTWORKS』のブックレットを捲っていると、本当に興趣が尽きません。アート・ディレクターとして一貫した作家性を感じさせつつ、アーティストに特化した方法論も浮かんでくる。たとえば杉真理さんの諸作は、浜田省吾さんのジャケットに比べてポップな遊び心が強く出ている印象です。
田島照久 デザインの方向性を決めるのはやっぱり、その作り手の持ち味に寄ってしまいますね。杉くんは浜田くんに比べて、よりフィクション度が高いというか。どこか少年時代に好きだった冒険ノベルや空想科学映画っぽい趣きがあるでしょう。実際、彼とは小説とか映画の好みも似ていまして。毎回そういった趣味の話で盛り上がっては、手を替え品を替えアートワークを考えていった。そんな遊び心が前面に出てるんだと思います。

杉 真理
『SYMPHONY #10』
1985年6月21日発売
── コンピCDに選ばれた「Key Station」は、’85年リリースの7thアルバム『SYMPHONY#10』の収録曲。たしかにこの作品も、“古き良きラジオの時代”をテーマにしたコンセプトアルバムでした。
田島照久 そう。ジャケットに入れた「MSB」のロゴは「Masamichi Sugi Broardcasting」の略称なんです。この絵も自分で描いたんですけど、今見るとタッチがちょっとアンリ・ルソー(フランスの画家:1844〜1910年)っぽいよね。生い茂った草木の奥に、地球儀に乗っかった鉄塔みたいなオブジェが見えるでしょう。あれは放送用のアンテナタワー。子どもの頃、よくハリウッド映画のオープニングにああいうのが映ってたんです。それともあれは(本編前に上映される)ニュースリールのムービングロゴだったのかな。
── レトロ風味の『SYMPHONY #10』に対して、5thアルバム『STARGAZER』(’83年)はSFタッチですね。それもCGI技術の普及前、すべて手作りだった80年代ムービーの懐かしい香りがします。その年、日本では『E.T.』や『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』が配給収入のランキング上位に並んでいました。
田島照久 あのワクワクする感じ、ね(笑)。当時のハリウッド大作では、3Dっぽい映像が少しずつ使われだしていた。『STARGAZER』は、それこそ「007」シリーズみたいなスパイ映画のイメージで。秘密のオフィスで、杉くんが立体ワイヤーフレームの地図を見ている図を表現しました。ただ予算が限られるから、本物のCADマシンみたいな機材は借りられないのでデスクの上に見えている立体像みたいなものは、実は僕の手描きなんです。線画を反転させ、フィルム上で光学合成している。

杉 真理
『STARGAZER』
1983年4月21日発売
── アナログの手法を駆使して、未来っぽい雰囲気を出しているんですね。輝く星屑のオブジェはどのように?
田島照久 これも同じラボでの光学合成。逆に言うと、それ以外の部分はすべて写真一発撮りなんですよ。手前にあるアーティスト名とタイトルを映したテレビは、たしか僕のテレビモニターを持ち込んで。後ろに写っている鉄塔や山影は、実際に大きな背景画をスタジオに置いている。あとはドライアイスを仕込んで、机からスモークが落ちてくるように仕組んだり。この写真1枚に、いろいろ細かい工夫を凝らしてるんです。
── まったく違う方向性では、永井真理子さん関連のアートワークも鮮烈でした。こちらはとにかく素材重視。どのジャケット写真を見ても、20代前半の彼女の躍動感が生き生きとみなぎっています。
田島照久 誤解を恐れずに言うと、彼女、ちょっと敏捷な小動物みたいでした(笑)。真理子さんは、ファンハウスの金子(文枝)さんというプロデューサーが手掛けてたのね。「今度新人の女性アーティストを担当することになったので、ぜひ田島さんにアートワークをお願いしたい」と、そんな情報だけ聞かされていた。ですから、楽曲もルックスもまったく知りませんでした。で、あるとき何かのパーティーに出かけたら、1人ものすごくオーラを放ってる子がいまして。

永井真理子
『天気予報』
1988年1月25日発売
── それが永井さんだったと。
田島照久 はい。金子さんに「あの子が例の新人アーティストじゃない?」と言ったら、驚いていましたよ。「こんなにたくさん人がいる中で、よく彼女だとわかったね」って(笑)。それぐらい存在感がすごかったんです。小柄なので、よけい俊敏さが際立ったのかもしれない。小柄ですばしっこそうな感じが、僕にはとても魅力的で。それを視覚的に伝えれば、今までにないものができる予感があった。僕が担当したのはセカンドの『元気予報』(’88年)以降ですけど、初期のアルバムはすべて全身を撮ることに徹しました。
── あ、たしかに。『元気予報』も、3rdアルバム『Tobikkiri』(’88年)も4thアルバム『Miracle Girl』(’89年)も、すべて靴まで見えますね。
田島照久 当時の僕に言わせれば、足もとまで映してこそ永井真理子(笑)。『Miracle Girl』の撮影では、スタジオにプロ用のトランポリンを用意したら身体能力が高いから、空中でいろんなポーズをしてくれるんですよ。『元気予報』にしても、顔がほとんど真上を向いてますが、こんな角度できれいに首を曲げられる人、実はそんなにいないですから。ちなみに『元気予報』のカバーフォトは、現像したモノクロ写真をわざとカラーコピーして使っています。

永井真理子
『Tobikkiri』
1988年9月27日発売
── 階調の細かいモノクロ写真を、あえてCMYKのトナーで分解した?
田島照久 はい。当時のカラーコピーって、まだ精度が高くなかったので。粒子も粗いし、モノクロなのに微妙に色ズレも起こすんですね。それが面白かったので、このときはフィルムではなく、あえてコピーを原稿に用いてみました。
── 最後にもう1人。どうしても外すことができないアーティストが尾崎豊さんです。田島さんは尾崎さんの全アルバムを担当されていますが、振り返るとアートワークの変遷が1つの物語のようにも見える。デビューから最後の作品まで1枚1枚のジャケットが、そのときどきの感情を生々しく切りとっているようで。

田島照久 (たじまてるひさ)
アート・ディレクター、グラフィック・デザイナー、写真家 、THESEDAYS 主宰。
1949年福岡県生まれ、多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒業。CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックレーベルズ)デザイン室の勤務を経て渡米、1980年よりフリーランスとなり、1992年に現在のデザインプロダクション “THESEDAYS” を設立。浜田省吾、尾崎豊をはじめとする多くのミュージシャンの撮影とパッケージ・カヴァーのアート・ディレクターを務める。仕事はエディトリアル、ポスター、広告、カレンダー、写真集、小説やコミックの装丁などグラフィック全般に及ぶ。 アニメーション関連のデザインも多く『攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』などは企画の起ち上げ時から関わっている。MACの創成期からコンピュータによるデジタル・デザイン、デジタル・フォトグラフィーに表現分野を拡げ、1994年に世界初のCGによる恐竜写真集『DINOPIX』を発表、欧米でも出版される。自身による著書として、CG写真集、アナログ写真集、デザイン本、小説などがある。近年はPremiere Proを使った映像制作にも積極的に取り組んでいる。
田島照久 MUSIC ARTWORKSオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html
THESEDAYオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/
THESEDAYオフィシャル X https://x.com/ttthesedays
●日本を代表するアート・ディレクター田島照久、究極の作品集が2/26発売!!
『田島照久 MUSIC ARTWORKS』
2025年2月26日発売
SRCL-13143〜13144/¥13,500(税込)
豪華三方背ボックス仕様/完全生産限定盤
http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html
[ボックス収録内容]
★ART BOOK(作品集)
オールカラー/200ページ/A4横長変型サイズ(200×210)
田島照久が手がけてきたLP、CD、DVD、Blu-rayパッケージ・デザイン、ポスター、広告、グッズ、シミュレーション、各種別バージョンなど貴重なデザイン作品の記録集。厳選240作品以上収録! 作品別の制作ノート付き
★CD(紙ジャケット仕様)
収録曲 *田島照久が選曲したコンピレーション
01. 青空のゆくえ / 浜田省吾
02. Key Station / 杉 真理
03. 瞳・元気 / 永井真理子
04. 笑顔を探して / 辛島美登里
05. 心の友 / 五輪真弓
06. 日付変更線 / 南 佳孝 duet with 大貫妙子
07. 素直になりたい / ハイ・ファイ・セット
08. BRIDGE~あの橋をわたるとき~ / HOUND DOG
09. 僕が僕であるために / 尾崎 豊
10. HARMONY MAKER(A Song of Shogo Hamada) / 田島照久 featuring 澤口のり子
★BOOKLET
2C/28P/歌詞/全曲解説/田島照久による全曲選曲コメント付
『田島照久 MUSIC ARTWORKS』を軸にキャリア53年(ソロ活動45年)を田島照久本人が総括する約1万字の最新ロング・インタビューもお楽しみください!
★POSTCARD
表紙とは別バージョンのアート・カード同梱
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伊藤銀次のネット・ラジオ『POP FILERETURNS』
第463回(前編)/第464回(後編) 田島照久を迎えて
https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/detail/10477
●2月15日(土)22:00~OA
テレビ東京系『新美の巨人たち』
<デザイナー田島照久/尾崎豊「十七歳の地図」レコードジャケット>
Art Traveler:辛島美登里/ナレーター:磯村勇斗
https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
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【Part3】アート・ディレクター田島照久ロング・インタビュー
インタビュー
2025.2.20