2025年2月号|特集 田島照久 MUSIC ARTWORKS

【Part3】アート・ディレクター田島照久ロング・インタビュー

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インタビュー

2025.2.20

インタビュー・文/大谷隆之 写真/島田香


【Part2】からの続き)

ただ困ったことに僕は青空が好きじゃないんですよ(笑)浜田(省吾)くんにもよく「田島さん、またダークな空を使ってますね」って笑われるんですが(田島)


── 今回の『田島照久 MUSIC ARTWORKS』は、200ページのブックレットと10曲入りのコンピレーションCDが同梱されたボックスセットです。選曲はどのように?

田島照久 僕がこれまで仕事で深く関わったアーティストを9組ピックアップしまして。それぞれ1曲ずつ、シンプルに好きな楽曲を選ばせてもらいました。

── その際、手がけられたアートワークへの思い入れも加味して?

田島照久 いえ。そこは完全に曲本位。自分の仕事とは切り離して考えています。なので、作業としては純粋に楽しかったですよ。どのアーティストも名曲が多数あるので迷いましたけれど、曲の並べ方はソニーの井上(真哉)ディレクターにお任せして、1枚のCDとしてすごくいい流れを作っていただけましたし。僕からの希望は、1曲目は浜田(省吾)くんの曲で始めることと。あとは、僕の曲はあくまでオマケとして最後に置いてくださいと(笑)。その2点だけですかね。


『田島照久 MUSIC ARTWORKS』
2025年2月26日発売


── アルバム最後に収録された「HARMONY MAKER」。これは’17年開催の展覧会<浜田島>の作品としてご自身が作詞・作曲されたナンバーですね。エモーショナルな歌は澤口のり子さん。間奏では田島さんが思い入れたっぷりにギターも弾かれていて。

田島照久 これは完全に役得ですね(笑)。バンドは趣味なので、錚々たるアーティストの末席に連なるのは恐縮でしたけれど。ディレクターも「続けて聴いて違和感ないですよ」とお世辞を言ってくれたし。まあ、50年以上この仕事を続けてきたご褒美なのかなと。

── 歌詞の端々に、浜田さんの名曲のタイトルが盛り込まれていて。アーティストに対する深い愛情が伝わってきました。

田島照久 ありがとうございます。<浜田島>は’09年の横浜赤レンガ倉庫に始まり、’17年のファイナルまで計5回開催したのかな。浜田省吾というアーティストを立体的に感じてもらうために、写真・グラフィックデザインだけでなく絵画、映像、デジタルコラージュ、オブジェなど多様なメディアを組み合わせて構成しました。「HARMONY MAKER」もその一環で、僕なりのオマージュを音楽で表現してみたんです。曲自体は’09年の時点で書いて、レコーディングも終えてたんですけど、忙しさにかまけ放ったらかしになっていた。それを旧知のギタリスト・水谷公生さんが完パケに仕上げてくれました。



── コンピレーションCDの1曲目は浜田省吾「青空のゆくえ」。’96年にリリースされた20thアルバム『青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~』の収録曲ですね。数ある名曲からこれをチョイスした理由は何だったんですか?

田島照久 専門的なことはわからないけれど、浜田くんはときどき、メジャーコードの楽曲に妙に寂しい歌詞を乗せたりするでしょう。サウンドは開放感あるバラードなのに、歌の世界観に何ともいえない苦みがある。僕は昔から、あの独特のバランスに心揺さぶられるんですね。そこにこそ浜田省吾のワン&オンリーな魅力がある気がする。僕の中で「青空のゆくえ」は、その象徴的な曲なんですよね。同じ理由で「悲しみの岸辺」も大好きなんですけど、今回はより人としての年輪を感じさせる「青空のゆくえ」を選んでみました。

── 冒頭から<もう 無邪気な恋に落ちるには 二人若くない>というフレーズが印象的です。ちなみにこの曲が発表されたとき、浜田さんは44歳。田島さんは47歳でした。

田島照久 そう考えると、まさに成熟した大人のロックですよね。言葉にすると平凡だけど、でもこういうミッドエイジクライシス的な感慨を歌えるアーティストって少ないじゃない。しかも決して暗くも、愚痴っぽくもならずにね。苦みをちゃんとポップスに昇華できているところが、毎回すごいと思います。


浜田省吾
『青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~』

1996年11月11日発売


── アルバム『青空の扉』のジャケットについては、どんな思い出がありますか?

田島照久 ブックレットにも書きましたが、この作品のアートワークはかなり難しかった。浜田くんから最初に提示されたモチーフは、“青空と馬”だったんです。しかも音源を聴くと、オープニングがいきなり「BE MY BABY」というオールディーズのカバーでしょう。これを僕なりに解釈するとね。おそらくこの時期、浜田くんの中に“永遠のイノセンス”みたいなテーマがあったんじゃないかな。表現者として否応なく年齢を重ねていく中、それとどう折り合いを付けていくかが、『青空の扉』全体のモチーフになってるんじゃないかと。

── だからこその“青空と馬”であり、「BE MY BABY」だった。

田島照久 あくまでも僕の感じ方だけどね。そう捉えれば、提示されたイメージはストンと腹に落ちる。ただ僕、困ったことに青空が好きじゃないんですよ(笑)。浜田くんにもよく「田島さん、またダークな空を使ってますね」って笑われるんですが。

── なるほど(笑)。たしかに『青空の扉』のジャケットでも、空には雲がかかっています。ブルーの色味も若干ダークめに見えますね。

田島照久 このときも青空のトーンをめぐって何度もやりとりがあって。結局この色合いに落ち着いたんじゃなかったかな。奔馬のモチーフは僕からの提案で、50年代っぽい黄色のアメリカ車に替えさせてもらいました。そして草原に立つ2本の銀柱が、僕にとっての扉の象徴。その間を車で通り抜けた一瞬、天使の姿が見える──そんなイメージをビジュアル化してみたんですけど……正直、仕上がりには今も納得できてなくて。

── どうしてでしょう?




田島照久 (たじまてるひさ)
アート・ディレクター、グラフィック・デザイナー、写真家 、THESEDAYS 主宰。
1949年福岡県生まれ、多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒業。CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックレーベルズ)デザイン室の勤務を経て渡米、1980年よりフリーランスとなり、1992年に現在のデザインプロダクション “THESEDAYS” を設立。浜田省吾、尾崎豊をはじめとする多くのミュージシャンの撮影とパッケージ・カヴァーのアート・ディレクターを務める。仕事はエディトリアル、ポスター、広告、カレンダー、写真集、小説やコミックの装丁などグラフィック全般に及ぶ。 アニメーション関連のデザインも多く『攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』などは企画の起ち上げ時から関わっている。MACの創成期からコンピュータによるデジタル・デザイン、デジタル・フォトグラフィーに表現分野を拡げ、1994年に世界初のCGによる恐竜写真集『DINOPIX』を発表、欧米でも出版される。自身による著書として、CG写真集、アナログ写真集、デザイン本、小説などがある。近年はPremiere Proを使った映像制作にも積極的に取り組んでいる。

田島照久 MUSIC ARTWORKSオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html
THESEDAYオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/
THESEDAYオフィシャル X https://x.com/ttthesedays




●日本を代表するアート・ディレクター田島照久、究極の作品集が2/26発売!!


『田島照久 MUSIC ARTWORKS』
2025年2月26日発売
SRCL-13143〜13144/¥13,500(税込)
豪華三方背ボックス仕様/完全生産限定盤
http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html

[ボックス収録内容]

★ART BOOK(作品集)
オールカラー/200ページ/A4横長変型サイズ(200×210)
田島照久が手がけてきたLP、CD、DVD、Blu-rayパッケージ・デザイン、ポスター、広告、グッズ、シミュレーション、各種別バージョンなど貴重なデザイン作品の記録集。厳選240作品以上収録! 作品別の制作ノート付き

★CD(紙ジャケット仕様)
収録曲 *田島照久が選曲したコンピレーション
01. 青空のゆくえ / 浜田省吾
02. Key Station / 杉 真理
03. 瞳・元気 / 永井真理子
04. 笑顔を探して / 辛島美登里
05. 心の友 / 五輪真弓
06. 日付変更線 / 南 佳孝 duet with 大貫妙子
07. 素直になりたい / ハイ・ファイ・セット
08. BRIDGE~あの橋をわたるとき~ / HOUND DOG
09. 僕が僕であるために / 尾崎 豊
10. HARMONY MAKER(A Song of Shogo Hamada) / 田島照久 featuring 澤口のり子

★BOOKLET
2C/28P/歌詞/全曲解説/田島照久による全曲選曲コメント付
『田島照久 MUSIC ARTWORKS』を軸にキャリア53年(ソロ活動45年)を田島照久本人が総括する約1万字の最新ロング・インタビューもお楽しみください!

★POSTCARD
表紙とは別バージョンのアート・カード同梱


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伊藤銀次のネット・ラジオ『POP FILERETURNS』
第463回(前編)/第464回(後編) 田島照久を迎えて
https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/detail/10477

●2月15日(土)22:00~OA
テレビ東京系『新美の巨人たち』
<デザイナー田島照久/尾崎豊「十七歳の地図」レコードジャケット>
 Art Traveler:辛島美登里/ナレーター:磯村勇斗
https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/