2025年2月号|特集 田島照久 MUSIC ARTWORKS
【Part2】アート・ディレクター田島照久ロング・インタビュー
インタビュー
2025.2.13
インタビュー・文/大谷隆之 写真/島田香

(【Part1】からの続き)
持ち味とか作風ってやってる当人はよくわからないんですよね。ただ、どんな作品であれ、物語を感じさせるアートワークにしたいという意識は、あるかもしれない(田島)
── 1972年から6年半のCBS・ソニー時代には、アルバムジャケットの制作を通じてデザインの基礎を学び、その後1年間のアメリカ滞在では気の赴くままに写真を撮りまくった。田島さんがアート・ディレクターとして独自の手法を確立していく上で、この2つの経験はとても大きかったんですね。
田島照久 自分でもそう思います。サラリーマン時代は会社の備品を使っていましたが、渡米のタイミングで、初めて自分のカメラを買いました。「ニコンF」だったかな。
── 伝説の一眼レフですね。レンズもいろいろ持参されて?
田島照久 いやいや(笑)。50mmの標準レンズと20mmの広角レンズ。荷物になるので持っていったのはその2つだけだった。当時まだ、値段も高かったですし。
── アメリカではどこに住まれていたんですか?
田島照久 基本はロサンゼルス。さっきもお話ししたように、もともとは学生の卒業旅行に近い感覚だったんですよ。CBS・ソニーを辞めて次の仕事を始める前に、まあ1か月くらい憧れの場所を回ってみようと。当時盛り上がっていたアメリカ西海岸の音楽シーンも体感してみたかったですし。自前のカメラを持っていったのも、別に野心があったわけじゃなくてね。せっかく行くなら写真ぐらい撮ってこようかという、きわめて観光客的な発想だった。でも、ここで思いがけずCBS・ソニーのつながりが役に立ちましてね。
── と言いますと?
田島照久 ロスに着いて以降、僕は米コロンビア・レコードのデザイン室にちょくちょく顔を出していたんですよ。会社員時代、アメリカ本社とのやりとりを通じて知り合いもいたので、気軽な感じで遊びにいっていた。そうすると、プロモーション担当の人が「このバンド興味ある?」ってチケットをくれたりするわけね。
── おおお、なるほど。
田島照久 それで夜な夜な、ライヴハウスに通うようになった。そこで新人から大御所まで、本当にいろんなアーティストを観ることができました。で、そうこうしてるうちに、入口のおじさんと仲良くなったりして。ウエストハリウッドの当時最も勢いのあったThe Roxyなんかは、チケットを忘れた時でも、顔パスで中に入れてくれるようになった。
── 最高じゃないですか!
田島照久 あれは本当にラッキーでしたね。英語もろくに話せなかったけれど、たぶん僕のことを日本から来たレコード会社の社員と思ってたんじゃないかな。しかも今じゃ考えられないけど、ステージ写真も毎回自由に撮らせてくれたんです。今にして思えば、貴重なライヴにずいぶん立ち会うことができて。それこそTOTOのデビュー・ライヴだったり。有名なアーティストのゲネプロを見せてもらったりと。
── すごい。まだ30歳の手前ですし、帰る気なんて失せちゃいますね。
田島照久 そうそう(笑)。さいわいアパートも見つかったし、2〜3か月たった頃にはサラリーマン時代の貯金が尽きるまでいようって決めてました。ただ夜はライヴを観るとして、昼間は特にすることがないので。せいぜい映画館で暇潰すくらい。それでロスを拠点にあっちこっち出かけては、アメリカの風景を撮るようになったんです。ニューヨーク、フロリダ、デンバー、サンフランシスコ、いろんな場所を回りました。それこそ少年時代からの憧れもあったし。僕の中では不思議と、懐かしい感じもあったりして。

── 懐かしい、ですか?
田島照久 これはいろんなところで話してますけど、僕は小学校3年生まで福岡市東区というところで育ちまして。現在は「海の中道」という海浜公園になっている場所に、当時は米軍の飛行場があったんです。生まれ育った団地のすぐ前には、国道3号線が通っていてね。博多に遊びにいく派手なシャツを着た兵隊たちが、大きな流線型のオープンカーに乗って幅の広い道路を走っていた。たぶんそのきらびやかな光景が、記憶の奥底にずっと残っていて。
──10歳前後の男の子にとっては、強烈なインパクトですよね。29歳でアメリカに渡って、はからずもそんな原風景と再会することになったと。
田島照久 といっても、時間的にはかなりタイムラグがあるんですよ。小3の2学期以降、同じ福岡県でも筑後市という田舎の方に引っ越しちゃったので。ですから、たまたまロスに住み着いて、暇に飽かせてアメリカの風景写真を撮るようになって……いわばファインダーごしに原点を再確認するような不思議な感覚がありました。「ああ、自分は子どもの頃からこの佇まいに憧れていたんだな」って。だから変な話、僕のデザインって、どこかアメリカナイズされた部分があるじゃない。写真のテイストも、タイポグラフィの感覚にしても。
──たしかに浜田省吾さんの一連のアートワークからは、その印象を強く受けます。アメリカそのものというよりも、むしろある世代の表現者に共通する「憧憬の対象」としてのアメリカといいますか……。
田島照久 うん。カメラを通すことで、それを対象化できた部分はあったのかもしれない。なので、もしアメリカに行かずにそのまま独立していたら、今みたいな仕事はしてなかったかもしれないですね。少なくとも浜田くんのアートワークを、ここまで長く手掛けることはなかったと思う。

浜田省吾
『Home Bound』
1980年10月21日発売
── 最初のお仕事は’80年にリリースされた6thアルバム『Home Bound』です。改めて、浜田さんとの黄金コンビが始まった経緯を教えていただけますか。

田島照久 (たじまてるひさ)
アート・ディレクター、グラフィック・デザイナー、写真家 、THESEDAYS 主宰。
1949年福岡県生まれ、多摩美術大学グラフィック・デザイン科卒業。CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックレーベルズ)デザイン室の勤務を経て渡米、1980年よりフリーランスとなり、1992年に現在のデザインプロダクション “THESEDAYS” を設立。浜田省吾、尾崎豊をはじめとする多くのミュージシャンの撮影とパッケージ・カヴァーのアート・ディレクターを務める。仕事はエディトリアル、ポスター、広告、カレンダー、写真集、小説やコミックの装丁などグラフィック全般に及ぶ。 アニメーション関連のデザインも多く『攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』などは企画の起ち上げ時から関わっている。MACの創成期からコンピュータによるデジタル・デザイン、デジタル・フォトグラフィーに表現分野を拡げ、1994年に世界初のCGによる恐竜写真集『DINOPIX』を発表、欧米でも出版される。自身による著書として、CG写真集、アナログ写真集、デザイン本、小説などがある。近年はPremiere Proを使った映像制作にも積極的に取り組んでいる。
田島照久 MUSIC ARTWORKSオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html
THESEDAYオフィシャルサイト http://www.thesedays.co.jp/
THESEDAYオフィシャル X https://x.com/ttthesedays
●日本を代表するアート・ディレクター田島照久、究極の作品集が2/26発売!!
『田島照久 MUSIC ARTWORKS』
2025年2月26日発売
SRCL-13143〜13144/¥13,500(税込)
豪華三方背ボックス仕様/完全生産限定盤
http://www.thesedays.co.jp/artworks-0214/index.html
[ボックス収録内容]
★ART BOOK(作品集)
オールカラー/200ページ/A4横長変型サイズ(200×210)
田島照久が手がけてきたLP、CD、DVD、Blu-rayパッケージ・デザイン、ポスター、広告、グッズ、シミュレーション、各種別バージョンなど貴重なデザイン作品の記録集。厳選240作品以上収録! 作品別の制作ノート付き
★CD(紙ジャケット仕様)
収録曲 *田島照久が選曲したコンピレーション
01. 青空のゆくえ / 浜田省吾
02. Key Station / 杉 真理
03. 瞳・元気 / 永井真理子
04. 笑顔を探して / 辛島美登里
05. 心の友 / 五輪真弓
06. 日付変更線 / 南 佳孝 duet with 大貫妙子
07. 素直になりたい / ハイ・ファイ・セット
08. BRIDGE~あの橋をわたるとき~ / HOUND DOG
09. 僕が僕であるために / 尾崎 豊
10. HARMONY MAKER(A Song of Shogo Hamada) / 田島照久 featuring 澤口のり子
★BOOKLET
2C/28P/歌詞/全曲解説/田島照久による全曲選曲コメント付
『田島照久 MUSIC ARTWORKS』を軸にキャリア53年(ソロ活動45年)を田島照久本人が総括する約1万字の最新ロング・インタビューもお楽しみください!
★POSTCARD
表紙とは別バージョンのアート・カード同梱
●好評配信中!
伊藤銀次のネット・ラジオ『POP FILERETURNS』
第463回(前編)/第464回(後編) 田島照久を迎えて
https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/detail/10477
●2月15日(土)22:00~OA
テレビ東京系『新美の巨人たち』
<デザイナー田島照久/尾崎豊「十七歳の地図」レコードジャケット>
Art Traveler:辛島美登里/ナレーター:磯村勇斗
https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
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