スペシャルLIVEレポート <TM NETWORK 2024 intelligence Days FANKS inside>2024年12月31日@東京ガーデンシアター
レポート
2025.1.16
取材・文/柳 雄大 写真/関口佳代、山下深礼

会場中を結ぶ赤い絆、「Red Lights」が輝き出す
独特の空気感は、場内にたどり着いたその時からあった。ステージの上方から2階バルコニーに向かって、ひと筋の赤い光線が意味ありげに伸びている。そのステージの中心には、直角三角形のサンドイッチ状の3基の装置が見えた。開演10分前になると、低音が静かに響く映画音楽のようなSEが観客を包む。
2024年12月31日、東京ガーデンシアター。TM NETWORKの歴史上、大晦日に行う単独公演は初めてのことだ。TMのファンを指す“FANKS”というキーワードをタイトルに掲げつつ、一連の40周年ライヴ・シリーズとは別に設けられた、一夜限りのファン感謝祭。この特別なライヴを見届けるべく、会場には約8000人のキャパシティーを超満員にするFANKSが詰めかけた。

photo: Mirai Yamashita
開演時間を迎え場内が暗転すると、先ほどのSEから連続性のある重厚でシリアスなテーマ音楽が流れ出す。「Red Lights」と名づけられたこの楽曲とともに、LED画面に表示されるオープニング映像。無数の曲がりくねったパイプと、白い柱が立ち並ぶ広大な地下空間。そして、その場所をまっすぐ歩いている一人の男。小室哲哉である。やがて画面に「RED LIGHTS」の文字が大写しになると、無数のパイプへと、あたかも血液が通い出すかのように赤色の光が集まっていく。
本公演のコンセプトを現す映画のような演出を経て、BPM120の4つ打ちでビートが刻まれ始める。これに合わせ場内に手拍子が広がると……“Just one victory tonight”のサンプリングボイスと、そこには右手の人差し指を掲げた宇都宮隆、小室哲哉、木根尚登の姿。TM NETWORKメンバーがステージに現れた。楽曲はもちろん、「Just One Victory」だ。2024年春の<TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~>でも披露した、「CAROL」組曲における終曲をオープニングナンバーに持ってくるという絶妙な選曲。それは40周年プロジェクトの成功を確信し、祝福するファンファーレのようだった。

photo: Kayo Sekiguchi
「Human System」とともに響いた歓喜の歌
この日のステージに登場したプレイヤーは、サポートミュージシャンなしのTMメンバー3人のみ。3人とも黒のスーツにネクタイを締めたフォーマルな出で立ちで、「2024年最後の日」「一夜限り」という本公演に臨む、どこか畏まったムードをまとっていた。2曲目には「KISS YOU」。長年のライヴの中でも鉄板となったこの曲を近年の最新アレンジバージョンで届け、最後には“I kiss you”のフレーズで宇都宮がキスを投げる。オーディエンスは、万雷の拍手と歓声で彼らを迎えた。
<FANKS inside>のセットリストは、TMがデビュー40周年に作り上げてきたライヴ・シリーズを継承しつつ、未体験の“+α”をふんだんに盛り込んだ内容。そのうえで冒頭の「Just One Victory」の使い方を含め、同じ楽曲でも新たな驚きや意外性を持たせる工夫を随所に加え、本公演ならではの特別なものに仕上げた。そして注目すべきは3曲目。ここでは、木根が12弦のアコースティックギターを構えると、おもむろに「歓喜の歌」(ベートーヴェンの交響曲第9番より)のフレーズを奏で始める。さすが年末ならでは!というムードが漂うが、実はここからTMの代表曲の1つである「Human System」のイントロダクションに繋げていくという仕掛け。原曲では「トルコ行進曲」(モーツァルトのピアノソナタ第11番より)のフレーズを引用していたが、その部分を「歓喜の歌」に置き換えたスペシャルアレンジだったのだ。
当公演の舞台装置としては、TMメンバー3人の立ち位置の床に映る小さい画面、ステージ背面中央の大きな画面と、その間を繋ぐように伸びる直線状のLED(これが開演前のステージ上に見えていた直角三角形の正体だった)──これらが常にリンクして動作する仕組みが極めて特徴的だった。それらのLEDは演奏中に多様な情報を映し続けており、時には「メンバー3人から届いた情報が中央に集まっていく」というような演出を見せてくれる。「Human System」においては、イントロ部分でTMの楽曲名や歌詞などのおびただしい量のキーワードが1点に収束していく様子をドラマティックに映し出す。こうした演出も相まって、<FANKS inside>のコンセプトと、人びとを繋ぐ“縁”のようなものを改めて強く感じさせるキーとしての一曲となった。

photo: Mirai Yamashita
様々な編成形態で届けるボーカルの魅力
TMがデビュー40周年に向けて行ってきた3本のライヴ・シリーズ、<DEVOTION><STAND 3 FINAL><YONMARU>では、小室・木根のデュオによるフォーク調の新曲が各公演で1曲ずつ披露され話題を集めた。「Show My Music Beat」「Good Morning Mr.Roadie」「Carry on the Memories」の3曲である。<FANKS inside>では、これらの新曲がセットリストの要所要所に配置され、一度のライヴですべて演奏されることとなった。しかも、今回は新たに宇都宮がメインボーカルとして参加したことで楽曲の雰囲気が一変。小室・木根の2人編成も貴重かつ味があったが、その後に聴くとやはり“ウツの歌声あってのTM NETWORK”というものをひしひしと感じた。この対比を見せることこそが前3本のツアー当時からの狙いだったとすると、計画は見事に成功しているといえる。
その一方で、木根がメインボーカルをとるレアナンバー「LOOKING AT YOU」も登場した。ライヴ前半は木根のアコースティックギターが際立つ構成となっていたが、この曲はなんといってもギター一本と歌のみの弾き語り。しかも途中でいったん歌を止めてステージの階段上に座り、アンプとマイクを通さずに演奏を始めたことで場内に大きなどよめきが起こった。その圧倒的な声量、ビブラートの美しさたるや……演奏後、オーディエンスの笑顔と大歓声が木根を包んだことは言うまでもない。この曲の前後に演奏された「Still Love Her」「Beyond The Time」もまたアコースティックギターが印象的なナンバーであり、実に美しい流れでライヴが組み立てられている。

photo: Kayo Sekiguchi
前半戦を締めるナンバーは、「How Crash?」。TMが2021年“再起動”の当初に行った無観客配信ライヴ<How Do You Crash It?>で初披露され、その立ち位置からは現在に至るTM復活のテーマソングという見方もできる一曲だ。しかし演奏機会はまだそれほど多くなく、筆者が本公演で特に期待していた曲でもあったので、この「How Crash?」がセットリストのど真ん中に登場したのは嬉しい。LEDを駆使した前述のステージ演出もリンクしており、画面には鈍く輝く宝石のようなものが映し出される。ラストパート、宇都宮の派手なマイクスタンドアクションの後に宝石が砕け散るシーンが美しかった。
小室ソロとキラーチューンの応酬がさらなる興奮を呼ぶ
ライヴの後半は、数曲ごとに小室のキーボードソロを織り交ぜながら展開していく構成となった。最初の小室ソロ「Coexistence」では、真っ赤なLED映像にスモークも活用し、視覚、聴覚をひたすら刺激する。そうして「次は何が起こる?」という期待値を極限まで高めると、「RAINBOW RAINBOW」「ACCIDENT」という、40周年ライヴ・シリーズからの再登場となる初期ナンバーを連発。特に「ACCIDENT」は<STAND 3 FINAL><YONMARU>から立て続けでの演奏となり、2024年のTMライヴでもっともフィーチャーされた一曲となった。
再び真っ赤なライトが照らす小室ソロでは、不意に聴きなじみのあるフレーズが登場。「Give You A Beat」である。 “Welcome to the FANKS”という言葉が歌詞となった、短いながらもメッセージ性の強い一曲。ここで宇都宮のサンプリングボイスが連打されると、3人揃っての次なるナンバーは「NERVOUS」! 1986年の超重要作品『GORILLA』冒頭を再現した並びにオーディエンスも大いに湧く。この曲も<STAND 3 FINAL>で爆発的に盛り上がった記憶があるが、FANKSというキーワードを見つめ直すライヴにあたっては納得の再登場といったところだ。
木根がエレキギターをかき鳴らし、小室がショルダーキーボード・Mind Controlを携え会場全体を煽った「Whatever Comes」に続き、3度目の小室ソロが次なる一曲に繋げる。“ジャジャジャジャ”小室の指先から有名すぎるあのフレーズが繰り出されると、それに合わせ吹き上がる火柱。シンセの激しい連打と火柱の量が頂点に達すると、ついに「Get Wild」のイントロが奏でられる。正確には、Netflix映画『シティーハンター』とともに2024年のTMの顔となった最新アレンジ版の「Get Wild Continual」だ。イントロやリズムトラックなど原曲を尊重したアレンジでありつつも、1コーラス明けの転調やアコースティックギターのプレイがより一層の「エモさ」を生み出す。この「エモい」間奏部をアウトロで再登場させる展開もあり、ライヴ終盤の演奏がとにかく映える。なお前回の<YONMARU>公演時とは映像演出が異なり、演奏中のメンバー3人を水彩画タッチのイラストにリアルタイムで置き換えて映す、という新たな試みが行われたのも印象的だ。どのライヴでも決して同じ「Get Wild」にはしないというこだわりは本公演でも貫かれていた。

photo: Kayo Sekiguchi
TM史上稀にみる性質を持った新曲たちが示唆するものとは?
本編のラストナンバーとなったのは「Carry on the Memories」。小室・木根のデュオにより春の<YONMARU>で初披露された曲が、新たに宇都宮をメインボーカルに迎えての登場だ。映画『TM NETWORK Carry on the Memories -3つの個性と一つの想い-』が2月公開となること、そしてこの曲がテーマ曲となっていることが<FANKS inside>開催直前に判明したが、それらを踏まえて再会した「Carry on the Memories」は以前とは違った趣きと意味合いをもって聴こえる。映画公開に合わせ音源のリリースも決定しており、本公演ではそのシングルバージョンとみられるアレンジで演奏が行われた。ステージ上の映像には生オーケストラによるレコーディング風景も映し出され、2月26日のリリースをますます楽しみにさせてくれる。
TMのライヴとしてはいつも通り、メンバー本人によるMCやアンコールはないが、終演時には、その日の公演が持つストーリーとともに未来に向けたTMからのメッセージがLED画面に映し出される。そしてインスト楽曲「intelligence Days」に合わせてスタッフクレジットが次々に表示されると、最後には大きな爆発音の特効をもってライヴは幕を下ろした。

photo: Kayo Sekiguchi
新旧ナンバーを集めつつも往年のヒットメドレー的な構成には着地せず、そのうえでFANKSを喜ばせるという選曲の妙。かつ、ライヴのコンセプトを体現する楽曲アレンジにプロデューサー小室のセンスが冴える。また、そんな小室によるイメージを視覚的に具現化する舞台演出も極まっていた。今回の<FANKS inside>というライヴについて、小室はTMとFANKSを結ぶ絆、人の五感の源である血流、そして循環といったキーワードをotonanoのインタビューでも語っていたが、それらは間違いなくステージ上に表される演出のすべてだった。小室の意図をこうして的確に受け止め、表現し続ける制作チームの仕事ぶりにも改めて拍手を贈りたい。
「Carry on the Memories」を始め、宇都宮をメインボーカルとして披露された3つの新曲。これらは、メンバー3人、彼らと活動を共にする制作チーム、そしてFANKSとの関係性を歌ったものであり、TM史上でも稀にみる素朴かつパーソナルな楽曲だった。このことが41年目のTMを示唆しているのか、それとも次のライヴの時点ではまた違ったステージへ彼らは進んでいるのか。3月22日より行われる次回公演<TM NETWORK 2025 YONMARU + 01>に向けて、今から期待は募るばかりだ。
2024年12月31日・東京ガーデンシアター
<TM NETWORK 2024 intelligence Days FANKS inside>
Set List
M00 Red Lights
M01 Just One Victory
M02 KISS YOU
M03 Human System
M04 Show My Music Beat
M05 Still Love Her
M06 KINE Solo ~ LOOKING AT YOU
M07 Beyond The Time
M08 Good Morning Mr.Roadie
M09 How Crash?
M10 Coexistence
M11 RAINBOW RAINBOW
M12 ACCIDENT
M13 Give You A Beat
M14 NERVOUS
M15 Whatever Comes
M16 TK Solo
M17 Get Wild Continual
M18 Carry on the Memories
M19 intelligence Days

photo: Mirai Yamashita
<TM NETWORK 2024 intelligence Days FANKS inside>
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