2024年12月号|特集 TM NETWORK|The Force

[CD]ELECTRIC PROPHET|『The Force -40th Anniversary Edition-』徹底検証

会員限定

解説

2024.12.26

文/柳 雄大


TM NETWORK
『The Force -40th Anniversary Edition-』
CD - ELECTRIC PROPHET
Recorded at Shibuya PARCO PART III on December 05, 1984



その情報量に圧倒される、40年前から現代に贈られたタイムカプセル



 『The Force -40th Anniversary Edition-』は、1994年、2004年、2014年、2024年前後に行われた、TM NETWORKのデビュー後10年ごとの節目のライヴを記録した映像作品集だ。そして、このBOXセットにはもう1つの節目を刻んだ重要なピースとして、1984年12月5日に渋谷パルコ・パートⅢで行われたライヴ<ELECTRIC PROPHET>を収録した2枚組のCDが収められた。

 <ELECTRIC PROPHET>は、TMの正史におけるファースト・ライヴである。彼らのデビュー当時のパフォーマンスというだけでもその存在価値は十分だが、“電気じかけの予言者”を冠したタイトルを含め現在のTMに繋がる伏線が多いこと、またライヴ自体の完成度も非常に高かったことから伝説的な公演として語り継がれている。本公演はもともと映像収録を前提に行われ、1985年に発売されたビデオ『VISION FESTIVAL(journey to saga)』などでその一部を観ることができたほか、渋谷パルコ・パートⅢで演奏されたいくつかの楽曲は断片的にレコード、CDで音源化されてきた。ただし、今回のような形でフルバージョンがリリースされるのは初めてのこと。CD 2枚組の16トラック、合計94分という形でその全貌にようやく触れることができる。

 今回このCDを手にした人は、40年前の音源とはとても思えないような音のクリアさ、細部まで聴きとれる分離の良さ、解像度の高さに驚いたはずだ。本作の音源は全曲2024年最新ミックスとあって、エンジニアによる手腕が大きいのはもちろんだが、当時から高品質の音源が録音されたうえで、長年の間、大切に保管されていたこともわかる。

 その収録内容を見ていくと、まずはdisc 01のM-1「OPENING」がかなり衝撃的だ。簡素なトラック名からは想像できないが、なんとここだけで収録時間が10分を超える壮大な導入部分となっている。SF映画の冒頭を思わせる重厚なイントロから、徐々に重なっていくシンセサイザーの幻想的なサウンド。まるで、それに耳を傾けていると異次元空間に連れて行かれるような……こんなにもワクワクするものを他に知らない、と思わせてくれる10分間。CDのプレイボタンを押す前にはぜひ、できるだけ大音量のスピーカーやヘッドホンを準備して没入してほしい。

 「OPENING」から連なるM-2「Quatro」は、TMの音源単体としては未発表のインスト・ナンバーだ。打ち込みのド派手なドラムフレーズに小室哲哉のシンセと木根尚登のギターが重なり、ここから広がっていく展開の期待値をさらに高める。また、次々に転調したりテンポが移り変わる楽曲像からは、TMが当初よりプログレッシブロックの要素を強く持つユニットであったことも確認できるだろう。こうした流れから間髪入れずになだれ込む、M-3「パノラマジック(アストロノーツの悲劇)」で、お待ちかねのボーカルがようやく聴ける。当時27歳の宇都宮隆の声がとにかく瑞々しいが、その歌の安定感はすでに抜群。TMのデビューまでに積み重ねてきたキャリアも発揮され、ファースト・ライヴの時点でほぼ完成されたものを見せてくれる。

 <ELECTRIC PROPHET>では、先述の「パノラマジック」に始まり、「イパネマ ’84」「RAINBOW RAINBOW(陽気なアインシュタインと80年代モナリザの一夜)」「1/2 の助走(Just for you and me now)」など、1stアルバム『RAINBOW RAINBOW』の収録曲がすべて演奏された。その演奏内容は全体的に、当時のレコード音源とは異なるアレンジが施されている。原曲にない音がいくつも重ねられていたり、キーが変わっていたり、BPMが早めになり躍動感がアップしていたりと、いい意味で楽曲の印象を変えることに成功したものばかりで、聴き比べてみると実に面白い。