2024年12月号|特集 TM NETWORK|The Force

【Part1】小室哲哉スペシャル・インタビュー|TMがシーンの混沌を駆け抜けた10周年から「もっとも大きな節目」を迎えた30周年までを振り返る

インタビュー

2024.12.20

インタビュー・文/柳 雄大


個人的には、長い活動の中でも30周年を迎えられたことが一番嬉しかったですね (小室哲哉)


── これまで長く続いてきたTM NETWORKの活動の中で、小室さんが「みんなを驚かせたい」という思いを起点に色んなことを考えているとおっしゃっているのをたびたび拝見しました。「驚かせたい」という言葉には色んな意味が含まれると思うのですが、どんな部分を大事にされてきましたか? それは例えばファンを喜ばせたいということなのか、人々のあっけにとられた顔が見たいということなのか。

小室哲哉 びっくりさせたいとか、わくわくさせたいとか、ワッと思いもよらぬことを目の前に提示したりとかっていうのは多分、エンターテインメントの基本理念というか、原点だと思うんですよね。それがエンタメの基本であり、イコールと言ってもいいぐらいじゃないかな。そのうえで、「びっくり」っていうのは肯定的な意味合いです。ポジティブなびっくりじゃないとエンタメにはならないと思うので。

── なるほど。その「びっくりさせたい」という思いは、デビューから40年を経た今でも変わらずお持ちですか。

小室哲哉 そうですね。驚かせる、というよりは、時代と伴走するという感覚なんですけど、なるべく先進的なもの、その時代で一番先に行っているものと同じスピードでいたいんですよ。その結果、いつも「ちょっと早いことをやってるよね」という風になっているというのを、節目節目では感じていました。逆に、あんまり先に行き過ぎるのも……それがアートだったらいいと思うんですけど。エンターテインメントとなると、行き過ぎてはいけないなと。そこはさじ加減だと思うんですけどね。

── 今回発売されたBlu-ray BOX『The Force -40th Anniversary Edition-』は、TM NETWORKのデビュー10周年、20周年、30周年、40周年の節目のライヴを4枚のディスクで追う内容になっています。TMはそれぞれ節目の年の前後に行われるライヴや作品で毎回大きな驚きを提供していますが、その時々に小室さんはどんなことを考えていらっしゃいましたか。

小室哲哉 初めの10周年は1994年、当時のTMNというものを“終了”させるっていう、“解散”も含めてですけど、終わるということで人を一番びっくりさせてしまったと思うんです。でも、僕も含めて、メンバー3人とも頭のどこかで“解散”は「ない」と思っていたので、考えに考えた末に“終了”っていう言葉が出てきて。昨今の若いアーティストの皆さんは、今ブレイクしているという方でも、それまでに軽く10年はやってましたという方が多いので、ちょっとスピード感が違うのかなと思いますが。TMの最初の10年って相当濃かったんですよ。

── そうですよね。僕は初めの10年を後追いで知った世代ですが、TMがデビューしてから毎年アルバムをリリースしていた1980年代には特に濃密なものを感じていました。

小室哲哉 当時は歌謡曲が主役であることが当たり前だった音楽業界をJ-POPがこう、切り裂いていくというか……そこに割り込んでいく、という感覚がありましたよね。逆に言うと、混沌とした音楽業界でした。演歌の方もいらっしゃるし、フォークの人も、歌謡曲の人もいる中に、僕たちみたいなJ-POPが出てきて。どの週のヒットチャートを見ても、1位から10位まで混沌としている時期だった。そういう状況も相まって、自然と濃く感じられる10年でしたね。

── そういった10年目がTMNの“終了”という、ある種究極の驚きをもって節目を迎えた後、1999年からは再びTM NETWORKとしての活動が再開することになりました。次の節目となるのが2004年、“DOUBLE-DECADE”と呼ばれる20周年プロジェクトです。1994年から10年の間で小室さんには非常に色んな変化があったと思うのですが、当時はどんなことを考えていましたか?

小室哲哉 このとき、僕個人的にはプロデュースの時代だったので、一気に個人名の認知度が上がりました。だけど、その基本にはTM NETWORKがある、ここで原点回帰ができる、と気づいたのが、結果的に良かったのかなと思います。僕以外の2人も、特に宇都宮くんはソロ活動の成果がより如実に表れていたと思いますけど。改めて、みんなにとってのホームがある、っていうことを自分たちももう1回確認できたタイミングが“DOUBLE-DECADE”だったと思いますね。

── ホーム、という感覚があったんですね。

小室哲哉 そうですね。ここに戻ってくると居心地がいいんだ、っていう感じですね。僕なんかは特にそうです。やっぱり、他の仕事ではずっと……アウェイ、とは言いませんけど、プロデュースのために出張して、常にアーティストや皆さんのケアをしているという感覚があって。僕が出向いて一緒にやる、というよりは、サポートする、みたいなイメージだったので。

── なるほど。こうして次々にお聞きしていくとあっという間の出来事のようですが……次に迎える2014年の30周年までは、再び激動の10年でしたよね。

小室哲哉 また3人で集まって、日本武道館とかでコンサートがやれたわけですけど。僕の場合は特に……「やれるんだ!」っていう感慨がありました。個人的には、長い活動の中でも30周年を迎えられたことが一番嬉しかったですね。もう一度活動を始めること自体が大変だったし。でも、2人(宇都宮、木根)もさっきの「ホーム」っていう感覚をいい意味で持ち続けてくれていて。お互い「大丈夫?」とか「どうなの?」「やれるの?」とか。このときが一番、3人で色んなことを話しました。そういう意味では、もっとも節目だったかもしれないですね。30周年が。

── つまり、その前と後で大きく変わった境目であるということですね。

小室哲哉 そうですね。メンバーそれぞれ……宇都宮くんの話をすれば、やっぱり体の健康のことも大変でしたし。30周年近辺というのが本当に、あらゆる波を超えたタイミングだったと思います。もはや、ただのミュージシャン3人の集いという域を超えた、人間模様ですよね。

── それに加えて、30周年“QUIT30”プロジェクトでは、2012年から3年かけて行われた6つのコンサート・シリーズで、小室さんが非常に凝ったSF的ストーリーを提示したことが印象的でした。未来からやってきたTM NETWORKが30周年プロジェクトを終えて、再び2012年に時を巻き戻しているという。

小室哲哉 特にこのときは、そもそもTMってどういうことをやりたかったのかな、というのを、色んな楽曲を含めて思い出す作業をしていて。元々「TIMEMACHINE」という曲を持っていたり、「時空」という言葉もよく使いますし、ユニット名も紆余曲折があって“タイムマシンネットワーク”を表すものになったんですけど。そのあたりから着想して、過去、現在、過去、現在と、ちょっと未来に、時間を行ったり来たりするようなストーリーができないかと考えたんです。そういうものこそ、僕たちが一番得意なことだなっていうのを思ったんですよ。今ではYouTubeだったり、ストリーミングで 20年前に飛んだりすることがみんな当たり前にできますけども、結果、10年前の時点としてはちょっと早いことができたかなと。

── そうした意気込みとアイデアが凝縮された作品やライヴの数々からは、ここでTM NETWORKが完結してもおかしくないんじゃないかと思うぐらい、すべてを出し切っている熱量を感じました。

小室哲哉 改めて、本当に素晴らしい仲間を見つけられて、活動を続けられてるんだなっていう思いがあって。ここで中途半端なことはできないなって気持ちがすごく強かったんです。今、自分がやれる限りのことを全部やろうっていうのがもっとも出たのが30周年だったと思います。

【Part2】に続く)