2024年11月号|特集 吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ

【Part4】牧裕と渡辺康蔵が語るジャズとバッパーズ

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インタビュー

2024.11.28

インタビュー・文/原田和典 写真/島田香


【Part3】からの続き)

バッパーズではビートしかないというか、音色を気にしてもしょうがない(牧裕)

聴くのも演奏するのも、雑味を大切にしてほしい(渡辺康蔵)


── おふたりには本当にいっぱい、ジャズ・レコードをお持ちいただきました。今回はまず、以前の回でご紹介できなかった作品についてコメントをうかがえたらと思います。

渡辺康蔵 カーリン・クローグの『ジョイ』を持ってきたんだけど、ここに入っている「ミスター・ジョイ」が俺も牧も大好きなんだ。ベーシストとサックス奏者が、これにこだわるのも面白いけど。

牧裕 僕はポップスから音楽を好きになったし、「ミスター・ジョイ」は自分にとってポップスだと思っているから。初めて神戸のジャズ喫茶で聴いたときに「いいな」と思って、レコード屋でもらったことを覚えています。そのレコード屋は、レコードを買うと1,000円ごとにスタンプを押してくれて、それがいくつか溜まると、好きなLP1枚と交換できたんです。

渡辺康蔵 テイチク盤?

牧裕 そうそう。

カーリン・クローグ
『Joy』

1968年発売


── 「ミスター・ジョイ」の作曲はアネット・ピーコックですね。

渡辺康蔵 “ミスター・ジョイ・イズ・ア・トイ”というフレーズがいいんだよね。俺はカーラ・ブレイとかアネット・ピーコックとか、この時のカーリン・クローグのようなエキセントリックな女たちが好きなんだ。この後に(カーリンが)出したデクスター・ゴードンとの『ブルース・アンド・バラード』は、普通だった。エキセントリックだったのが、つまらなくなった。この意見は牧とも一致しているね。

牧裕 あれはつまんなかったね。「いい」っていう人も多いんだけど。

渡辺康蔵 「スイングジャーナル」(ジャズ雑誌。1947~2010)でヴォーカル賞をもらってさ……。『ジョイ』は北欧の香りがして、しかもニューロックみたいなところもあって、植草甚一が喜びそうなアルバムで、聴いていてものすごく狂喜乱舞したんだよね。ヤン・ガルバレクも入っていて、「処女航海」のサックス・ソロがすごいんだ。




●牧裕 (まき・ゆたか)
1955年12月8日、神戸市葺合区に乾二、文子の長男として生まれる。’75年に大学に入学、ジャズのサークルでコントラバスを弾き始める。’79年、吾妻光良 & The Swinging Boppersの結成に参加。’80年の大学卒業後、バークリー音楽大学に留学……することなく今日に至る。

●渡辺康蔵 (わたなべ・こうぞう)
ジャズ・プロデューサー、ミュージシャン、作家。早稲田大学モダンジャズ研究会〜日本コロムビアを経て、ソニーミュージックで日野皓正、ケイコ・リー等のプロデューサーとして活動。’22年よりフリーランス。山本剛トリオや山下久美子をプロデュース。また、吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズのサックスを結成当初より担当。著書にミステリー短編集『ジャズ・エチカ〜ジャズメガネの事件簿』(彩流社)。インターネット・ラジオ『今夜も大いいトークス〜センチなジャズの旅』のパーソナリティ。

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