2024年11月号|特集 吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ
【Part2】吾妻光良スペシャル・ロングインタビュー
インタビュー
2024.11.8
インタビュー・文/内本順一 写真/山本佳代子
(【Part1】からの続き)
ネイティブな言葉で歌うことでこんなに伝わるんだな、やっぱり日本語はすごいんだなと思い始めた
――ジャンブ・ブルースを演奏し続けて長い年月が経つわけですが、いつも吾妻さんはどんな気持ちでライヴに臨んでいるんですか?
吾妻光良 ルイ・ジョーダンがインタビューでこんなふうに言っていたんですよ。「私は自分のライヴを観に来てくれた人にモービッドな気分を味わってほしくない」。モービッド(morbid)は日本語にすると“不祝儀”ですけど、要するに陰鬱でめでたくない気分を味わわせたくない、来たからには楽しくて元気が出るような一瞬を与えたいんだ、ということですね。それを芸人根性だとかなんとか言う人もいるかもしれないけど、オレはその気持ちがすごくよくわかるなと思って。やっぱり観に来る人に楽しんでほしいんです。
――ジャンブ・ブルースはそういう音楽である、ってところがフィットしたわけですね。
吾妻光良 そんな気がしますね。
――ブルースは奴隷制時代の労働歌に始まり、虐げられたアフリカ系アメリカ人の嘆き、苦しみを歌ったものが多かったわけですが、ジャンブ・ブルースはちょっと違うんですかね。
吾妻光良 いや、曲によっては嘆きもあるでしょうけど、それをこう跳ね飛ばすというかなんというか。例えば男女関係で相手に裏切られたことの怒りをぶつけたり、寂しさを歌ったりした歌もあるけど、自分でそれを茶化しているようなところがあったりする。そういうところが救いになっているかもしれないですね。だって本当にくだらないことを歌っている曲がいっぱいありますから。なんでこんなくだらないんだろう? っていうのが好きですね。
――確かにおかしな歌詞、おかしな設定の歌詞がブルースにはたくさんありますね。
吾妻光良 うん。いろいろあるけど、今パッと思いついたのはクーティ・ウィリアムスって人の「スティンジー・ブルース」って曲。スティンジーはケチって意味なんですが、歌っていて「スティンジーーーー!」って大シャウトするんですよ。「あの女はケチだーーーー!」「あれ以上ケチなやつはいなーーーーい!」って。「何をそんなに力んで歌っているんだ、シャウトして歌うようなことか?」って思ったらもう、おかしくておかしくて(笑)。
――あははは。そういうのがいっぱいあるけど、でも知らずに聴いたら何を歌っている曲なのかわからないから、いつも吾妻さんがライヴでどういう内容なのかの説明をして演奏してくれるのは、ありがたいです。
吾妻光良 小出くん(小出斉。ギタリスト/ブルース評論家。大学時代に吾妻と出会ってローラー・コースターに加入。今年1月に死去)の本じゃないけど、ブルースは何を歌っているのか知っていたほうが何倍も楽しめる。意味を知らずにただ聴いていたら勿体ないですから。
――『意味も知らずにブルースを歌うな!』(リットーミュージック)ですね。読みました。
吾妻光良 うん。あの本はいい!
●吾妻光良 (あづま・みつよし)
1956年、新宿生まれ。'70年にB.B.キングの来日公演を観て以来ブルースを聴くようになる。高校、大学を通じてバンド活動を行い、永井隆のブルー・ヘヴンや妹尾隆一郎のローラー・コースターにも参加。大学在学中の'79年に卒業記念として吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズを結成。翌年3月のJIROKICHI公演~卒業でおしまい、となるはずが、年に1、2回程度の再演、それが3回、4回と増えていくうちに45年の月日が経つ。会社員との二足の草鞋状態で音楽活動していたが、2021年に晴れてプロ入り(定年)。吾妻光良トリオ+1やソロでもライヴを行っている。文筆家として著書『ブルース飲むバカ歌うバカ』がある。
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【Part1】吾妻光良スペシャル・ロングインタビュー
インタビュー
2024.11.1