2024年10月号|特集 和ジャズ
第4回:トニー・ヒギンズ(音楽プロデューサー)|今、和ジャズを聴く理由
コラム
2024.10.29
文/トニー・ヒギンズ(音楽プロデューサー/BBE J Jazz Masterclass Seriesキュレーター)
今、和ジャズを聴く理由
和ジャズ、特に1960年代半ばから1980年代半ばにかけて制作された名盤は、演奏、プロダクション、プレス、パッケージデザイン、どれをとっても最高のクオリティを誇っている。もちろん、アメリカには名門ブルーノート、ヨーロッパにはMPSやECMがあり、間違いなく素晴らしいサウンドだが、それらのレーベルとそのスタンダードは日本では入門レベルのようなもの。忠実度においては日本の小さな自主レーベルやインディーズレーベルもECMに負けていない、またはそれ以上だ。演奏、録音、カッティング、マスタリング、プレス、アートワーク、連鎖している全てのパーツのクオリティが高く、“最悪”音質と言われている日本のジャズレコードは、実は大半のアメリカやヨーロッパの物よりも音が良い。スリー・ブラインド・マイス、フラスコ、イースト・ウィンド、デノン、ALM、トリオ、ビクター、オーディオ・ラボ、どのレーベルも音質が素晴らしいと思う。
また、日本のミュージシャンは演奏スタイルがはるかに多彩だ。特に1950年代後半のミュージシャンは、競争の激しい日本のジャズの世界で生き抜かなければならなかった。結果、彼らはあらゆる演奏スタイルをハイレベルで演奏できるミュージシャンになる。特にリズム隊は、ブルース、ファンク、モーダル、ハード・バップ、スウィング、バラードやスタンダード、ジャズ・ファンク、フュージョン、ラテン、スピリチュアル・ジャズ、ポスト・バップ、メインストリーム、新しい自由なスタイルでも何でもお手の物。そのようなミュージシャンはアメリカやヨーロッパにはいなかっただろう。そして、1970年代になると多くのアメリカのジャズ・アーティストが日本のレーベルと契約し、ハービー・ハンコック、マル・ウォルドロン、スティーヴ・レイシーも日本のレーベルから名盤を産み出している。
<私が好きな和ジャズの名盤3枚>
トニー・ヒギンズ (Tony Higgins)
●アーティストマネージメント、音楽関連のメディアとプレス、宣伝など幅広く活動。BBCの”Jazz Britannia”や”Seven Ages of Rock”などのドキュメンタリーを制作し、グラミー賞を受賞したシンガー、エミルー・ハリスのライブフィルムをプロデュース。Arc Records、BBE Music、Decca Records、seriE WOCなどのコンサルタントを務めながら、ライナーノーツを執筆し、ディープなジャズのアーカイブ作品の再発を手掛ける。
2018年から友人のマイク・ぺデンと活動し、日本のモダンジャズのコンピレーション"J Jazz"の4タイトルと、"J Jazz Masterclass Series"を英国のBBE Musicからリリース。共同執筆した、"J Jazz: Free and Modern Jazz Albums from Japan 1954-1988"は、400ページのフルカラーで、日本のジャズ500タイトルを紹介する。
Decca Recordsの"British Jazz Explosion"シリーズのエグゼクティヴ・プロデューサーを務め、1960年代や1970年代のブリティッシュ・ジャズの再発を手掛ける。また、DJ/ラジオパーソナリティであるジャイルス・ピーターソンのレーベル、Arc Recordsと共に、マックス・ローチ、ユセフ・ラティーフ、ロバータ・フラックのリイシューを手掛ける。
40年以上かけて集めたレコードは、ジャズ、ファンク、ソウル、レゲエ、ラテン、ディスコ、ヒップホップ、ハウス、サイケ、ロック、フォーク、ポップスなど様々なジャンルを網羅する。また、1940年代から1950年代のジャンプ・ブルース、ブラック・ロックンロール、ブルース、ジャズなどの78回転のシェラック盤のコレクターであり、DJとしても活動。
https://bbemusic.com/artist/tony-higgins
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第3回:尾川雄介(UNIVERSOUNDS)|今、和ジャズを聴く理由
コラム
2024.10.23