2024年10月号|特集 和ジャズ

【Part3】塙耕記(three blind miceプレミアム復刻コレクションシリーズ監修)|Special Long Interview

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インタビュー

2024.10.17

インタビュー・文/柴崎祐二 写真/増永彩子


【Part2】からの続き)

「和ジャズ」は、僕達が再評価の俎上に載せるずっと前から、常に輝かしいものだったということ(塙耕記)


── あらためて、「和ジャズ」のレコードの発掘や再発が盛り上がっていった経緯を教えてください。初回冒頭にお話くださったこととも関連してくると思うんですが、再評価が本格化する以前の90年代当時はどんなものだったんでしょうか?

塙耕記 ごくごく少数のコアなベテランジャズマニア、和モノの延長上で蒐集するディープ・コレクター、そしてほんの一握りのDJという方々だけが“密かに(笑)"集めていたというのが実情だったと思います。店頭で接客をしていた記憶からすると、そういった方々の熱量はものすごかったですね。反面、当時は日本のジャズを集めている若い人はほぼいなかったです。

── 渋谷系の余波で、ラウンジミュージックとジャズの中間みたいなものはそれなりに人気がありましたよね?

塙耕記  そうですね。けど、ストレートアヘッドなものは本当に数人のマニアの方以外スルーしていたと思います。

── 仮に「あの和ジャズアーティストのあのタイトルがほしい」と思っても、簡単に手に入れなかった、というのもそうした状況の背景にありそうですね。

塙耕記 はい。そもそも入ってくる数が少ないですからね。それもあって、たまに入荷すると店頭でプレイして内容を聴いてみたくなるんです。大きなきかっけになったのは、ある日たまたま店でかけた『古谷充とザ・フレッシュメンの民謡集』(1961年)というアルバムでした。ジャケットももろ民謡調で、「どうせ民謡をムード音楽風にカバーしただけのレコードでしょ」というノリで聴いてみたら、バリバリにかっこいいハードバップで、すっかり驚いてしまいました。それはもう衝撃でした。そこから他にもこういうものが眠っているはずだと思って、熱心に調べるようになりました。そうこうするうちに、色々なレコードの存在を知っていって、これは絶対に現代のリスナーの皆さんに紹介していきたいという信念が生まれたんです。

── メジャー各社に再発の話を持ちかけた当初はどんな反応でしたか?

塙耕記 「こんなの売れるんですか……?」みたいな雰囲気でした(笑)。でも、ディスクユニオンが流通と販売を行ういわゆる「特販」の形式だったので、「制作費もかからないし、別にいいですよ」っていう話になって。先ほどまでこのインタビューに同席してくれていた能勢(TBM担当ディレクター)さんも、元々はBMGビクター(当時)の窓口として知り合った方なんですよ。名ジャズレーベル「タクト」の一部原盤をBMGが持っていたんですね。能勢さんはご自身がコアなジャズファンだから、他社の反応とは違ってはじめからすごく喜んでくれました(笑)。



── 2005年から始まった復刻シリーズが最終的にあれだけのタイトル数をリリースできたということは、各社ともマスターテープはきちんと管理していたということですよね。

塙耕記 そうですね。一部を除いてそこはあまり問題なかったです。

── 同じ時期に、『ジャズ批評』や『remix』誌で塙さん自身が執筆に参加された和ジャズの特集が組まれましたよね。当時、「こんな奥深い世界があるんだ!」と驚いたのを覚えています。

塙耕記 『ジャズ批評』の特集が2006年2月号、『Remix』の特集が2007年4月号ですね。再発シリーズのスタートも『ジャズ批評』の特集号に合わせましたから。そもそも、「和ジャズ」という呼称も、その特集で初めて使われました。それ以前には「和ジャズ」という言葉を聴いたことがなかったです。私は、『ジャズ批評』に特集の企画を持ち込んだ知人のOさんが特集名を「和ジャズ」と名付けたのが最初という認識でいます。それまでにも「昭和ジャズ」という言葉はありました。当時の自分の再発シリーズも「昭和ジャズ復刻シリーズ」っていうシリーズ名になっているんです。

── すると、「和ジャズ」の「和」は、「日本の」という意味と同時に「昭和」の「和」という意味もあるんですね。

塙耕記 そういうことですね。

── 今読み返すと、『ジャズ批評』の特集はあくまで旧来のジャズ批評の延長線上でかつての日本のジャズを評価しようとするような内容ですけど、『remix』の方は、思いっきりクラブミュージック目線ですよね。その対比も興味深いです。

塙耕記 まさか、あんなに早くクラブ的な視点から『remix』が特集を組んでくれるとは思ってもみなかったので、嬉しかったです。

── 「和ジャズ」という概念が広く認知されるきっかけとなった代表的なタイトルを挙げるとすれば何でしょうか?




●塙耕記 (はなわ・こうき)
1972年8月17日、茨城県水戸市生まれ。元ディスクユニオンのジャズ部門のリーダー。(株)ジャッジメントエンターテインメント代表取締役。現在、レコード・ショップとレーベル「JUDGMENT! RECORDS」を運営する傍ら各レコード会社の外部プロデューサーも務める。2011年から3年間続いた<BLUE NOTEプレミアム復刻シリーズ>のヒットでジャズ・アナログブームの火付け役として知られて2006年スタートの<昭和ジャズ復刻シリーズ>が大ヒットし「和ジャズ」ブームの仕掛け人としても有名。一連のスリー・ブラインド・マイス(TBM)復刻にも大きく関わり、ソニーミュージック発のLP&SACDによる<TBMプレミアム復刻コレクション>シリーズおよび世界のジャズ名盤LP復刻シリーズ<ジャズ・アナログ・レジェンダリー・コレクション>も現在監修中。
JUDGMENT! RECORDS HP : https://judgment-records.com/