2024年10月号|特集 和ジャズ

【Part2】山本剛(ジャズ・ピアニスト)|Special Long Interview

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インタビュー

2024.10.11

インタビュー・文/原田和典 写真/島田香

取材協力/ディスクユニオン


【Part1】からの続き)

『ミスティ』は偶然に生まれたアルバムです(山本剛)


── 先ほど、山本さんの初リーダー・アルバムでTBMへの第1弾でもある『ミッドナイト・シュガー』に至るお話をうかがいました。続いて発表された第2弾が、今なお大変なロングセラーを続けている『ミスティ』です。

山本剛 いろんな国で演奏しても、このレコード・ジャケットにサインを求められる機会がいちばん多いですね。


山本剛トリオ
『ミスティ』

1974年8月7日録音(TBM-30)
<TBMプレミアム復刻コレクション第Ⅰ期作品>


── 発売以来、おそらく常に市場に並んでいるのではと思います。

山本剛 これは偶然に生まれたアルバムです。もともとは「ジャンク」に来ていたアン・ヤングという黒人歌手と、僕のトリオの共演盤になるはずだった。その計画で藤井(武)さんもレコーディングを考えていたんだけど、アン・ヤングが出演していた銀座のジャズクラブ「ジャンク」の(オーナーの)ゲンさんが出てきて、彼女にレコーディングさせないというんだ。だけどスタジオの日程は押さえてあるし、とにかくトリオで録音しようということで、このアルバム(『ミスティ』)ができたんです。

── 『ミッドナイト・シュガー』は’74年5月新譜で、『ミスティ』は10月新譜です。まだ新人のジャズ・ピアニストにしては、ものすごく発売のペースが速いなと思ってはいました。TBMが山本剛トリオの演奏に強く惚れ込んで矢継ぎ早に売り出していたのかと……。

山本剛 そういうわけじゃないんですよ。(『ミスティ』の裏ジャケットを見ながら)こんな曲も演奏しているんだね。



『ミスティ』裏ジャケット


── スタンダード・ナンバーと、ブルースが主です。とても親しみやすい選曲ですが、知っている曲を急遽その場で決めた感じもあって……。

山本剛 「ブルース」は適当に考えたんじゃないかな。「イエスタデイズ」は確かベースがいろいろ活躍していて、僕から福井ちゃんにリクエストしたんだと思う。(引き続き裏ジャケットを見ながら)「煙が目にしみる」とか「時のたつまま」とか、こんな洒落た曲も演奏しているんだね。「エンジェル・アイズ」は僕のソロでしょ?

── はい。このアルバムは、普段からライヴで演奏している曲を中心に録音されたのでしょうか?

山本剛 そうですね。

── 一種のアクシデントがもとで生まれた作品が傑作、ロングセラー・アルバムになったのは「いかにもジャズ」という感じです。アン・ヤングは日本コロムビアにLPを録音していますね。『春の如く』というタイトルで、大野雄二さんの伴奏です(’75年5月録音)。

山本剛 それは知らなかった。僕のレコーディングに参加してもらったのは、ずっと後です。ワーナーから出た『失われた時を求めて』(’81年)というレコード。もともとは別のシンガーが歌ってくれる予定だったんですが、アンちゃんに手伝ってもらって。


山本剛
『失われた時を求めて』

1981年録音


── 松岡直也さんが関わった作品ですね。

山本剛 松岡さんはストリングス・アレンジを担当してくれて、キーボードも弾いてくれました。

── ワーナーの山本さんには、この作品や『アナザー・ホリデー』(’85年)などフュージョン風の音作りの印象があります。

山本剛 そういうものにも取り組んでみたらいいんじゃないかな、という話はありましたね。中身もすごく良いと思うんだけど、あまりウケなかったな。俺があっち(フュージョン)に行くのがあんまり好きじゃなかったのかな。10月(16日)に香港で演奏するんですが、「アナザー・ホリデー」とか弾いてみようと思っています。お客さんの反応が楽しみです。ワーナーは僕にとって初めての専属契約でした。

── それまで、どのレーベルとも専属契約は結んでいなかったということですか?




●山本剛 (やまもと・つよし)
ピアニスト。1948年3月23日、新潟県佐渡郡相川町生まれ。’67年、日本大学在学中、19才でプロ入り。ミッキー・カーティスのグループに加入し英国~欧州各国を楽遊。’74年、TBMレーベルより、初のリーダー作、山本剛トリオ『ミッドナイト・シュガー』でレコード・デビュー。スケールの大きなブルース・フィーリングとスイングするピアノがファンの注目を集め、続く『ミスティ』が大ヒット、人気ピアニストとしての地位を確立する。’77年にはモンテレー・ジャズ・フェスティヴァル(アメリカ)、’79年にはモントルー・ジャズ・フェスティヴァル(スイス)に出演。 笠井紀美子、安田南等ヴォーカリスト達と共演する一方、ディジー・ガレスピー、カーメン・マックレイ、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンズ、エルビン・ジョーンズ、ソニー・スティット、スティーヴ・ガッド、エディー・ゴメスら多くの内外ミュージシャンと共演。数多くのフェスティヴァル出演、テレビの音楽番組に携わるなど多岐にわたって活動中。
山本剛オフィシャルサイト : www.tsuyoshi-yamamoto.com