2024年10月号|特集 和ジャズ

第1回:羽根智敬(ディスクユニオン)|今、和ジャズを聴く理由

コラム

2024.10.11

文/羽根智敬(ディスクユニオン ジャズ店舗統括)

今、和ジャズを聴く理由


 近年の和ジャズの中古レコード市場を急激に盛り上げた立役者と言えば、レコード屋の誰に聞いてもthree blind mice(TBM)の名が第一に挙がる。20年前は帯付、冊子付のオリジナル美品が高くても数千円で簡単に入手できたが、ふと気が付けば数万円は当たり前、しかも廃盤セールに出品したものはその日の内にすべて完売するという店頭の移ろいに、目を廻したものである。更には日本フォノグラムの再発盤までも高騰、中古のXRCDや通常CDも人気で、この新品販売の難しい時代に再発CDもLPも売れまくる状況に至って、これが一過性のブームではないことの確信を得た。

 和ジャズと言えば、どうしてもレアグルーヴ的評価の対象として捉えられがちで、日本には戦後すぐから世界的にも認められたミュージシャンや作品が数多く存在するにも関わらず、それまで廃盤市場で注目されるのは所謂レア盤、稀少盤、珍盤の類が多かったように思う。それに対してTBMのなんとも硬派なこと。じっくり聴かせるタイプの本格派の内容、バラエティに富んだ企画、カタログ数の多さ、派手ではなく高品位な音質を当たり前のように甘受してきた我々は、海外からの再発見ムーヴメントも相まって、TBMの凄さに改めて括目している真っ最中なのである。

 その余震はAKETA’S DISKやJOHNNY’S DISKといった更に深層の和ジャズ市場をも現在進行形で揺さぶっており、今後の動向に目が離せない。

<私が好きな和ジャズの名盤3枚>




1. 後藤浩二『ホープ』(2007年)

2. Great 3(菊地雅章=ゲイリー・ピーコック=富樫雅彦)『サマータイム~スタジオ・セッション1994』(1994年)

3. 相澤徹カルテット『TACHIBANA』(1975年)


3枚に絞るのは困難ですが、直近でごきげんに聴いたものを思いつくまま挙げました。よって順不同です。



羽根智敬 (はね・ともたか)
●1971年、東京都生まれ。ディスクユニオンJazzTOKYO店長、兼ジャズ店舗統括。
diskunion.net/shop/ct/jazz_tokyo