音楽とはどんなカルチャーにも溶け合える原液であることの証明
日本を代表する革新的音楽ユニットであるTM NETWORKが、今年、デビュー40周年を迎えた。
そんな3人組のTM NETWORKのTMN期に、第4のメンバー構想があったことをご存知だろうか?
小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による個の連帯。現在もなお第一線でアップデートされたライブ活動を行い、一切古びることのない魅力を解き放っているには理由がある。その秘訣とは、音楽アーティストが表現者として確固たるポジションを成立するために必要不可欠であるポピュラリティー、アイデンティティー、オリジナリティーを確立してきたからだ。さらに、世に広げていく上で重要なのが音楽性、革新性、そして物語性の掛け合わせなのである。
物語性へのこだわりが、第4のメンバー構想を生み出した。
TM NETWORKは、1984年のデビュー以降「Self Control (方舟に曳かれて)」、「Get Wild」、「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」、「SEVEN DAYS WAR」、「COME ON EVERYBODY」、「DIVE INTO YOUR BODY」など、たくさんの記憶に残るヒット曲を世に残し、革新的なテクノロジーを取り入れた活動、シアトリカルにショーアップされたライブを物語として記録し続けてきた、歌謡的音楽シーンをJ-POPカルチャーへアップデートした逸材だ。
2024年、今年行われた全国ツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~』でも、1988年にリリースした伝説的アルバム作品『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991』における“CAROL組曲”の映像に生成AIを活用したことはポップカルチャーの進化として事件だった。
舞台であるロンドンの街並みや登場人物を、歌詞や音楽、物語、写真などを用いてプロンプトしたのである。こうして生まれたサウンドと溶けあったリアルタイム生成な映像は、ツアー中も常にリアルタイムに進化が止まらなかった。TM NETWORKが80年代から構想していた夢に、ようやくテクノロジーがようやく追いついたのだ。
TMN名義で発表した『RHYTHM RED』、『EXPO』のアナログ盤リリース
そんなTM NETWORKが、1990年代にTMN名義で発表した2枚のアルバム『RHYTHM RED』、『EXPO』のアナログ盤を2024年8月21日にリリースし、セールスを伸ばし話題を集めている。
あらためてTMNプロジェクトとは何だったのかを、2024年の視点から振り返ってみたい。
時は、J-POP史のスタートとも言える革命的な発表となった1990年8月28日、六本木の全日空ホテルにて行われた『TMNリニューアル宣言記者会見』によって、TM NETWORKはアーティスト名やブランドを、突如TMNへとリニューアルしたのである。
TMN RENEWAL宣言
20世紀最後の10年を迎えて、我々TMネットワークはその活動を『音楽を核としたまったく新しい領域』へと展開します。
それは一つの時代、もっといえば一つの歴史を作り出す意思と可能性を持ったものです。
我々はデビュー以来『TMネットワーク』というメディアを通じて常に新しいヴィジョン、新しいエンタテイメントを提供し続けてきました。そして、それらはすべて、誰も成し得なかった創造の世界を構築し、世の中に強い衝撃を与えてきたと自負しています。しかし、そのヴィジョンもエンタテイメントも、我々が真に目指していることから見ればほんの小さな一部でしかないのです。TMネットワークとしてのこれまでの行為は我々の壮大なる構想のほんのプロローグでしかない。
そして今、我々はあらゆるクリエイティブの頂点へと挑む新しい段階に達したのです。ここに『プロジェクト・TMN』の開始を宣言します。それはまったく異質な、誰もが自分の眼を自分の耳を自分の精神を疑うようなものでしょう。
驚いて欲しい。恐れおののいて欲しい。あきれて欲しい。TMNによるまったく新しいプレゼンテーション。世にその全貌を現す日まで、もうまもなく、どうぞご期待ください。
1990.8.28
宇都宮隆 ・ 木根尚登 ・ 小室哲哉 ・ with Mr.G
生命体Mr.G=第4のメシアMr.GALBOURの存在とは!?
ん!? あれ? ウツ(宇都宮隆)、テツ(小室哲哉)、キネ(木根尚登)、そしてMr.G??? Mr.Gって誰やねん??? メンバーひとり多くない? 何なのMr.Gって???
そう、TMNによる、当時はそんな言葉すら存在しなかったが巧みなコンテンツマーケティング手法によってFANKS(※TMファンの意)、そしてリスナーは翻弄されたのである。
実はリニューアルに伴い、TMNは“シークレット・リズム”、“終末への逃走”、“ピュア・デカダンス”という3つのキーワードを発表していた。
当時、小室はTMからTMNへの変化について、外面は肉体的にワイルドに、内面はテクノロジーによって緻密にというイメージからか1970年代のハードロック、1980年代のシンセポップ、1990年代のシンクラヴィアを中心とした最新機器を活用した音。そんな時代性をコラージュして融合するという、音楽性のアップデートについて説明していたことが印象的だった。
結果、TMN史上最も謎なのが、TMN第4のメンバーとして発表され、ツアー『TM NETWORK RHYTHM RED TMN TOUR』のステージにて「SECRET RHYTHM」のラストでお披露目となったロボット生命体Mr.G=ガルボア(第4のメシアMr.GALBOUR)の存在だ。
ガール+ボーイから名付けられたという、敵か味方かも分からないという謎めいたIP。
そのインフォメーションは、実は1990年9月9日、TBSラジオ番組『サウンズ・ウィズ・コークTMN ROCK'N UP』において、スペシャルなキーワード、ピュア・デカダンスから生まれた物体=Mr.GALBOURとして明かされたのであった。
小室は番組でMr.GALBOURについて「コンサートで明らかになるんですけど、この生物!?が、(バンドに)アンコールをやらせてしまったり、観客を煽ってのせまくったりする。でも、実態は明らかではない」と、高揚感たっぷりに意味深に語っていた。
これまで詳しい説明はなかったMr.GALBOURに関しての唯一の情報源は、アルバム『RHYTHM RED』リリース前日、9月24日に発売された豪華な装丁だった写真集『Rhythm red : TMN写真集』に特典として付いてきたポートレートの裏面に“宇宙の意思”として意味深な文章が掲載されたことだった。
Mr.GALBOURにまつわるレアなメッセージを引用掲載しよう。
Mr.GALBOUR
DESCENDS
彼は眠っていた。悲しみの深い深淵につながれて眠り続けていた。
もう何年眠り続けていたのだろう。何百年、いや、何千年かもしれない。
そしていま彼は、しだいに意識が遥か彼方から戻ってくることに気づき始めていた。
目覚めというものではない。
闇の奥深く封じ込めらていた魂が、何者かに呼び戻されて、
岩石のように硬くなっていた肉体に再び再び注ぎ込まれたといったほうが
正しいかもしれない。
それは、見えざる全能なる力の仕業なのか、それとも、
退廃した人間の怒りや悲しみが集まり、増幅され、
大音響が闇の果てまでも届いたのか。彼は次第に蘇ってくる身体の感覚の中で、
自分の役割について思っていた。またあの時が来たのだと。
太古、人々は彼を恐れ、うやまっていた。
それは彼が気紛れに、創造し、守り、破壊するものと考えていたからである。
しかし、彼は明確な意思の元にそれを行っているのだ。
が、彼自身の意思ではない。何かがそうさせているのだ。
彼の心はいつも悲しみに満ちていた。
連綿と続く人間の行いを見続けてきたからである。
初めはひっそりと弱々しく暮らし、やがて群れ、戦い、
自然を制圧しながら最後は神にも迫る勢いで自らの文明を築き上げ、
その恐れを知らぬ無知ゆえに滅んでいく。
そしてまた廃墟の中から生まれ、立ち上がり、築き、滅ぶ。
それを繰り返し続けるのである。その無知ゆえに。
そして彼は再び目覚めた。彼がもたらすものは創造なのか破壊なのか、
彼にも分からない。宇宙の意思がそこにはある。
“第4のメシア” Mr.GALBOUR、降臨す。
Mr.GALBOUR=ノンヒューマンな人工知能=AIだったのでは!?
TM NETWORKのTMN期に残された最後の謎、Mr.GALBOURとは、22世紀からタイムマシンに乗ってやってきたというTM NETOWRKのデビュー時からの設定=ヒストリーから鑑みると、Mr.GALBOURとは地球外生命体による宇宙の意思であり、ノンヒューマンな人工知能=AIだったのではないだろうか!?
それを裏付けるかの如く、アルバム『RHYTHM RED』リリース時のTMロゴに見られたダイヤモンドヘッドという煌めいたアイコンは、未知の存在、地球外知的生命の道具(高度なコンピュータ)であるモノリスのようなイメージを想起させていた。
80年代中盤からのTM NETWORKによる大ブレイクと1990年、TMNプロジェクトの始動から1994年への終了への見事なるプログラミング。
DESCENDSというキーワードからも分かる通り、文化を継承するためのバトン的存在=「バトンが擬態化されAIとして知能を持っていたとしたら!?」、「バンドメンバーにAIがいたら面白くない?」。そんなTMNメンバーによる、ほくそ笑んだ雑談トークが聞こえるかのように感じられた。
今だったら、俯瞰的視点で考察することで革新的な活動であったTMN期のすべてはMr.GALBOURによる企みだったのではないか? そんな物語性を読み解くことができる。
リリースされたばかりのアナログ盤『RHYTHM RED』には、ジャケットアートワーク内面の写真にMr.GALBOURが高らかと映し出され、アナログ盤『EXPO』でも背面にイラストによるロボットめいた姿を見ることができた。あれ!? 今みたら実はもうひとりブラックなヒューマンが存在している……。謎は深まるばかり……。
あなたは、TMNから投げかけられた物語を、これまでどんな解釈で楽しんできただろう?
音楽とライブ・エンタテインメント。そして、アートワークとテキストとラジオ番組によるメディアミックス。音楽とはどんなカルチャーにも溶け合える原液であり、物語のプロットとなることの証明だ。
TM NETWORK40周年を迎えた今、TMNプロジェクトとは、アルバム2枚。1990年から1994年までのたった数年間の活動だったが、大きな記憶と記録を残してくれた。TMN期に残された傑作を、実は初のリリースとなるアナログ盤とともに楽しんでもらいたい。そこには一切古びることのない新たな発見があることだろう。
TM NETWORK otonano特設ページ
https://www.110107.com/TMNETWORK
TM NETWORKは40周年ツアー「TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days~YONMARU~」の最終公演、Day40 5/19 Kアリーナ横浜の模様を収録したBlu-rayを9月25日に発売、また、ファンへ感謝を伝えるべく今年の大晦日に東京ガーデンシアター(東京・有明)でライブを開催する。
40年に渡るストーリーの続きに心弾むばかりだ。
TM NETWORK オフィシャルサイト
https://fanksintelligence.com/
40周年 otonano マガジン特集
https://otonanoweb.jp/s/magazine/diary/annex/list?&ct=annex_TMN
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