2024年9月号|特集 90年代シティポップ

【Part2】小松秀行が語る90年代シティポップ

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インタビュー

2024.9.19

インタビュー・文/長井英治 写真/山本佳代子


【Part1】からの続き)

街を歩いていると、どこからともなく自分が弾いた曲が流れてきて嬉しかった


── 小松さんはOriginal Loveの変則的なベスト・アルバム『SUNNY SIDE OF ORIGINAL LOVE』(’93年12月発売)、その後の『風の歌を聴け』(’94年6月発売)、『RAINBOW RACE』(’95年5月発売)という3作品にメンバーとして参加されています。田島(貴男)さんが『RAINBOW RACE』を制作して完全燃焼したと、かつてインタビューで読んだことがありますが、メンバーが脱退するのとほぼ同時期ですよね。

小松秀行 確か『RAINBOW RACE』のツアー中に脱退することに関して話したような記憶がありますが、田島先輩的にもOriginal Loveを一旦やり切った時期だったんだと思います。



Original Love
『RAINBOW RACE』

1995年5月17日発売


── 小松さんはアルバム『風の歌を聴け』では「時差を駆ける想い」「Two Vibrations」、アルバム『RAINBOW RACE』では、「ホモ・エレクトス」を小松さんは田島さんと共作されていますが、これはどういう経緯で一緒に作ることになったんでしょうか。

小松秀行 田島先輩が一緒に作ろうと言ってくれて作ったんですが、自分がベーシックなアイデアを出して、Aメロを作ったものを持って行って事務所でプリプロしたのを覚えています。アレンジに関しては田島先輩がある程度打ち込みをしたデモを持ってきて仕上げていくパターンと、スタジオでいちから作っていくパターンもありました。どっちにしても一緒に音を出していくことでしか得られないグルーヴというのがあるんですよ。

── 当時、田島さんは小松さんと佐野さんがメンバーになったことで、バンドの雰囲気がガラッと変わったとおっしゃっていましたが、小松さん自身もそのような自負はありましたか。

小松秀行 自負があるって言えばあるけど、やはりお互いの持つグルーヴのようなものが醸し出す化学反応の結果じゃないですかね。田島先輩は自分が入る前よりもよりソウルミュージックにのめり込んでいたし、自然にあの時代のサウンドになったというか。レコーディング中にプレイバックを聴いて「いいじゃん!(ニヤリ)」みたいなね(笑)。



── 個人的な話で恐縮なのですが、僕自身が古内東子さんの大ファンになったのは小松さんが初参加したアルバム『Hug』(’94年9月発売)なのですが、アルバム全体に醸し出されるグルーヴ感にやられました。アルバムに関しては古内さんサイドから直接オファーがあったんでしょうか。

小松秀行 木原(龍太郎)さんがアレンジをしているので、木原さんに誘ってもらい参加しました。参加ミュージシャンも気心知れたメンバーで、四ツ谷のフリースタジオに通っていたことは今でも覚えています。



古内東子
『Hug』

1994年9月21日発売


── 小松さんは古内さんの『Hug』の中では木原さんがアレンジをした「うそつき」「あなたのためにできること」「Peach Melba」の3曲、そして「Lighter」に参加されていますが、どの曲もグルーヴ感がたまらないですね。特に「Peach Melba」は古内さんのアルバム曲の中では上位に食いこむ人気曲です。

小松秀行 このアルバムってベースの音がやたらデカいですよね(笑)。Original Loveのアルバム『風の歌を聴け』もベースの音がデカいんですが、ベース音がデカいとソウルフルに聞こえてくるんですよ、不思議なことに。

── 当時古内さんはまだ20歳を過ぎたくらいだったと思うんですが、何か印象に残っている制作秘話などありますか。

小松秀行 日本の音楽をほとんど聴いていなかったので、正直、古内さんのことをほぼ知らなかったんです。ヘッドフォンをして普通に譜面を見ながら、ベース、ドラム、キーボードと一緒に仮歌を録ったんですが、彼女の場合、仮歌なのにやたら歌詞が入って来るんですよ。それは強く記憶に残っています。

── 古内さんは『Hug』のあと、『Strength』(’95年5月発売)をニューヨークでレコーディングし、その後に「誰より好きなのに」(’96年5月発売)を発表するわけですが、この曲のアレンジは小松さんが手がけています。いきなりの大抜擢でしたね。




●小松秀行 (こまつ・ひでゆき)
1969年生まれ、東京都出身。’93年にOriginal Loveにベーシストとして加入し、プロのミュージシャンとして活動を開始。’96年の脱退後は、古内東子のサウンド・プロデューサーとして、一連の作品を手掛ける。その後も、セッション・ベーシスト、アレンジャー、プロデューサーとして幅広く活躍。鈴木雅之、SAKURA、SILVA、Chemistry、Skoop On Somebody、杏里、Rakeなど多数のアーティストのサポートやプロデュースを手掛けている。2015年にはソロ・アルバム『Breezin'』を発表した。