2024年9月号|特集 90年代シティポップ

⑫ 古内東子『Hourglass』|90年代シティポップ名盤ガイド

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レビュー

2024.9.18


古内東子
『Hourglass』

1996年6月21日発売

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1.いつかきっと
2.誰より好きなのに(Album Remix)
3.ルール
4.心を全部くれるまで
5.かわいくなりたい
6.おしえてよ
7.ユラユラ
8.置き去りの約束
9.あの日のふたり(Album Remix)
10.星空



「しっかり感」溢れるグルーヴの気持ちよさと豊穣なヴォーカルワークは唯一無二


 古内東子の初期作品の魅力は、王道のニューミュージックの形式を受け継ぎつつも大胆な風穴をあけた強靭な「個」のほとばしりと、そこに吹き込む新風のさわやかさにあるのではないか。あくまでシーンメイキング的なBGM機能を前景化させてきたかつてのシティポップとは異なる自律的な「アーティスト」像を、1990年代のポジティヴなムードとともに完成させたのが、古内東子という一人のシンガーソングライターであるように思うのだ。

 この5枚目のアルバムは、常に洗練されたサウンドを聴かせる彼女の作品の中でも、メロウかつ躍動的な質感を特に強く湛えたものだ。しかし、そのメロウネスは決して「甘く」ない。むしろ、ビターであり、ときにゴツゴツした歯ごたえのあるものだ。その凛とした構えと剛性感こそが、他に得難い魅力なのだ。

文/柴崎祐二