2024年9月号|特集 90年代シティポップ

【Part2】CHOKKAKUが語る90年代シティポップ

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インタビュー

2024.9.13

インタビュー・文/池上尚志 写真/山本佳代子

取材協力/エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ


【Part1】からの続き)

初期の頃の作品を聴くと、「これ俺がやったの?」って思うんです(笑)


── ’92年頃から編曲の仕事が増えていまして、SMAPの仕事もこの年に始まっています。SMAPに曲提供されている林田健司さんの『Unbalance RAPHLES II』(’92年)というアルバムではアレンジを全曲されていますね。いきなりアルバム丸ごと1枚って相当ハードル高いんじゃないですか?

CHOKKAKU 笑い話なんですけど、元々はディレクターの人がヴァーゴ・ミュージックに来て、「寺田(創一)くんにやってもらいたい」って言ってきたんですよ。でも寺田さんは忙しかったので、こっちに回ってきたんですよ(笑)。これがまた実験に次ぐ実験で。林田くんと2人でムチャクチャやっていたら、その前のアルバムと全く違う世界になっちゃって(笑)。大丈夫かなとか思いながらやっていたんですけど。



林田健司
『Unbalance RAPHLES II』

1992年5月21日発売


── でも、この中に「$10」が入っていて、この曲があったからSMAPが変わっていくわけですね。この年のSMAPは、シングルの「負けるなBaby! ~Never give up」と、2枚目のアルバム『SMAP 002』(’92年)、この中の曲を2曲担当されていますね。

CHOKKAKU はい。



SMAP
『SMAP 002』

1992年8月26日発売


── デビューした頃のSMAPは、80年代以降のジャニーズで一番売れなかったんですよね。初期のSMAPは80年代までのジャニーズの王道を受け継いだような、ポップで華やかなショウビズ感みたいな感じだったと思うんですけども、制作に関してはどんなものを求められたんでしょうか?

CHOKKAKU 「負けるなBaby!」は筒美京平さんの曲でしたよね。この曲に関しては筒美さんの意見で制作していました。ただ、その後の曲に関しては、ディレクターが好きにやれと。多分、ジャニーズとしてはあり得ないくらい「好きにやれ」って言われたので、本当に好き勝手にやっていたんですよ。多分、自分はSMAPを手掛けたアレンジャーの中でボツが一番多かったと思うんです。

── 結構駄目出しされたんですか。

CHOKKAKU 駄目出しっていうか、駄目だったら別の人にやらせるから好きにやれと。同じようなことを何人かに言っていた可能性もありますけど、それで出来のいいものをピックアップすればいいやみたいな感じだったみたいで、とにかく曲を渡されたら「好きにやれ」と。予算があったんでしょうね。それで本当に好きにやっちゃうから、駄目な方向にいっちゃう。元々はインスト人間ですし。



── ジャニーズは売れているアイドルがいっぱいいたわけで、やっぱりヒットは出さなきゃいけないわけですよね。

CHOKKAKU ディレクターが素晴らしい人で、実験をさせてくれたんですよね。自分はいろんな実験をしたくてたまらないので、来る仕事はほとんど断らずに、来るもの来るもの変なことをしちゃうんですよ(笑)。それで、「駄目だね」って言われるんだけど、「でも面白いね」みたいな感じで笑ってくれて、また仕事を振ってくれるんですね。普通ならもうそこで駄目じゃないですか。駄目でも面白いからもう1回やれと。

── この頃からCDバブルの時代に突入するので、まだ業界に余裕があったんですね。SMAPの仕事もこの後本格化するわけですが、その中で、林田さんの「$10」を森且行くんが気に入って、コンサートのソロ・パートで歌ったことで、これをグループの曲として録音することになります。これがSMAPがダンサブルな路線に変わった最初の曲だと思います。

CHOKKAKU 「あんなハチャメチャな曲で大丈夫?」と思いましたね。僕としては、来る曲来る曲、自分の中では一番新しいものにしたいなって思ってやっていただけなんです。



SMAP
「$10」

1993年11月11日発売


── 80年代は8ビートの時代だったわけですが、90年代に入ると16ビートになって、だんだんダンサブルな曲が増えてきます。リズムがシェイクしたり横揺れしだしたりするんですが、90年代の前半はまだ定着してなかったと思うんです。それが、CHOKKAKUさんのアレンジによって、日本人に合うダンサブルなビートの形が完成したように僕には見えているんですよ。

CHOKKAKU ハチャメチャ感が好きだったんでしょうね。今はちゃんとアレンジできるんですけど、その頃はおもちゃ箱をバーンとひっくり返したようなサウンドだねってよく言われていたんですよ。自分でもそういうのが好きでしたね。旅館に行っておかずがたくさん出てくるのを見ると嬉しくなるみたいな。

── リズムへのこだわりという面ではいかがでしょうか。

CHOKKAKU めちゃめちゃあります。リズムというのはキック(注:バスドラムの音のこと)とスネアの音色のトレンドが年代ごとに変わっていくんですが、サンプラーができてからますます音色が変わっていったんですね。キックとスネアの位置にも変化があって、80年代より前はスネアの位置が低かったんです。キックの方が高かった。それがだんだんキックがローになってきて、最近ではキックの下にサブベースみたいなものがボーンと来たりして、キックがちょっとアタッキーになった。こういう変化はかなり意識していました。

── 先ほど筒美京平さんのお名前が出ましたが、筒美さんからのアドバイスはあったんですか?




●CHOKKAKU (ちょっかく)
作曲/編曲/プロデュース。1961年広島県生まれ。フュージョンバンドでの活動時、数々の大会で優勝を重ね、「FLEX」結成。バンドエクスプロージョン世界大会出場。「MIDI」よりデビュー。その後、アレンジャーとしての活動を始める。SMAP、KinKi Kidsを始め多くのヒット曲のアレンジを務め、L'Arc~en~Cielなどのサウンドプロデュースも行い、枠にとらわれない作品を残し続けている。
https://bananajam.info/