2024年8月号|特集 アルファの夏!

【Part4】|幻の名盤『リンダ・キャリエール』物語

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解説

2024.8.30

文/小川真一


お蔵入りになったことが、イエロー・マジック・オーケストラの構想へと繋がっていく


【Part3】からの続き)

 細野晴臣は村井邦彦氏に、「クレオールの歌手に、僕たち日本人が作った作品を歌わせたい」と伝えた。

 クレオールとは混成文化のことであり、もともとは社会学もしくは言語学で用いられる言葉だ。音楽でいえば、アメリカのルイジアナ州はかつてフランス領であったこともあり、フランスの文化が色濃く残っている。そこにアフリカ系やカリビアンの文化が混じり出来上がったのがクレオールの音楽だ。ニューオーリンズにおけるジャズの発祥にもこのことが大きく関わっている。

 当時の細野は、ドクター・ジョンやプロフェッサー・ロングヘアなどのニューオーリンズのR&Bにどっぷりとはまっていた。そうなればクレオールの文化に興味を持つのは当然のこと。また同時に、オーガスト・ダーネル率いるドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンドのサウンドにも魅入られていた。オーガスト・ダーネルの別名は、キッド・クレオールである。

 “クレオール”と聞いて、村井邦彦氏はこの話にすぐに乗った。日本は古来から、中国やヨーロッパなど海外からの異なる文化を受容してきている。その伝統を受け継いて細野がクレオールの歌手と作品を作る、こんな面白い話はないと思ったという。そしてさっそく、クレオールの歌手を探し始める。

 ロサンゼルスやハワイのラジオ局で歌手募集のスポットが放送され、同時に業界紙などでもデモテープを募った。数多くの応募があったというが、結局は、米国の映画製作配給会社であるスクリーン・ジェムズのノーマ・ヘルムス氏によって、リンダ・キャリエールが紹介された。勿論クレオールの女性であり、これが大当たりであったのだ。